Lv.MAX・全知全能そしてこの世界に存在する全てのスキルを取得した最強のチート級無双勇者がボスの怪物に闘いを挑んでみた
「……っ」
俺の名は佐名沙汰郎。転生後はゴルコスという名前で英雄の称号を手に入れる為に冒険者をしている。
転生してから十八年。ちょうど十九歳の節目を迎える頃、初めてクエストに出た。
地下ダンジョンで上層から下層まであり、段々と敵が強くなっていく。普通の勇者ならば敵を頑張って倒し、レベルを少しずつ上げ、そして戦闘で発動できるスキルを獲得する。それはとても困難で特にレベルが上がれば上がるほど、一レベル上げることに苦労する。
だが、俺は違う。
『レベルが九十二に上がりました。スキル【環境対応】を獲得しました』
『レベルが九十三に上がりました。スキル【時間空洞】を獲得した』
『レベル九十四に上がりました。スキル【黄金の剣】を獲得しました』
俺はどんな敵だろうが、全て一撃で倒す。かなりのチート級能力だ。そして敵一匹倒すだけでレベルが上がり、スキルを獲得できる。周りからは神童と呼ばれ、俺の冒険パーティは三十名にものぼった。
『レベル九十六に上がりました。スキル【太陽の護り】を獲得しました』
『レベル九十七に上がりました。スキル【テレポート】を獲得しました』
『レベル九十八に上がりました。スキル【真空超耐性】を獲得しました』
きっと楽なのだろう。俺以外のメンバーは呑気に歓談しながら戦闘など一切しない。俺がボスを倒せば俺たちのメンバーは勝手に英雄となる。
『レベル九十九に上がりました。スキル【不死身】を獲得しました』
でも良かった。
どうせ俺がその英雄とやらになるならそれがどんな形であれ、周りがどうだろうが俺には関係ない。
だから、俺は————。
『レベル一〇〇に上がりました。Lv.MAXになりました。スキル【全知全能】を獲得しました。これで全スキルを獲得しました』
いつも無愛想で平坦と喋るこの脳内音声もLv.MAX・全スキルの獲得音声はどこか祝福をしているかのような、高揚感のある声だった。
「——さて」
さて、俺が今目に広がっている光景を一度たりとも説明していなかったが、中ボスらしき怪物を剣一振りで倒したところだ。
「いよいよボスですね!ゴルコスさん!」
「やっぱ強いぜゴルコス!なぁ、やっぱお前とパーティで良かったよ!」
……なーんて、なんも協力しないパーティのメンバーが嬉しそうに金銀財宝が目当てなのか、ヨダレを垂らしながら俺を讃える。
「あぁ、この扉の先か」
牛の鼻輪のような黄金に輝くドアノブがついた蒼紫の大門。周りにはドクロが何十個も飾られ、紫霧が薄っすらとかかっていた。
本来ならここで何か仲間に感謝の意を告げたり、涙物語の一筆や二筆書くべきなのだが、この物語にそんなモノはなく、持っていた鉄剣を一振りして、大門を破壊する。
扉が崩れ、粉々に散る。
その先に黒い影、ボスが現れた。
『…………ギルゥ。ギルウァァァァァァァ!!!!』
ボスである怪物は紅色の目、ゴツゴツとした肌、そしてギザギザと刻まれたノコギリのような歯。ざっと体長三十メートルほどの恐竜に似たような【巨大怪物】だ。
鳴き声は独特で黒板のチョークが起こすあの摩擦音のような、不快感を覚える嫌悪度最高ランクの鳴き声だ。
「……俺が倒す」
そう言い残した後、剣を握り、ただ一人【巨大怪物】の前に立ちはばかる。
剣を引き抜き、構える。
そして、俺が一度も使ったことがない、『スキル』を試し打ちの意味を込めて使うことにする。
「スキル【全知全能】発動」
頭の回転、脳内の記憶、脳内の拡張が開始。世界が誕生してから現代までの歴史、世界の動き、世界中の人々の声、人々の心中の声。その他世界にあるデータ諸々が一気に脳内に入る。
膨大な文字の羅列が脳内を駆け巡る。
脳内がパンクするも痛みはなく。
冷静に文字と文字を見分ける。
俺がこのスキルを使用した理由。
それは百種類あるスキルの名を理解するため。
「いくぞ、【巨大怪物】——」
そう告げた後、口を人車のように高速で動かす。
「【炎星の加速】【血護の掌】【龍悦の虜】【詠斗の柱】【虎猫の刃】【戦闘の骨】【竜角星】【シューティングソード】——」
沢山のこの場面に対して正策であろうスキル名を挙げる。武器だけではなく、心も強化されているような、そんな気分を感じさせる。いや実際強化されていて、加速度を上げたベルトコンベアの如く、力がみなぎっている。
「【黄金の剣】、発動ぉぉぉぉ!!!」
剣が黄金に煌めく。
【血護の掌】【詠斗の柱】【戦闘の骨】で能力を上げ、【炎星の加速】【シューティングソード】で振り上げる力を強め、【龍悦の虜】で敵を惑わせる。
そして【虎猫の刃】で剣自体の威力を上げる。
「これが、最大火力の必殺技『アクロブレイブ』」
黄金の剣は風を纏い、嵐の剣へと遷移し、思いっきり振りかざす。
——そして最後【龍角星】で地割れを起こす。
スキルを使ってしまった。
こんな、スキルを使わなくても倒せる相手に。
嫌な予感がした。
敗北を知らない俺が勝利した筈のこの戦に違う意味での負けを噛みしなければいけない運命を辿らなければいけない、そんな予感が——。
「なんだ、これは!?」
「じ、地面が崩れる!?」
「し、し、し、死ぬの、か!こんなところで死にたくないぞ!」
背後から悲鳴が聞こえた。
これから起こる暗躍の舞。
それを意味するかのような悲痛な雄叫びだ。
× × ×
地割れの衝撃波。
剣から伸びた破壊への直線。
【巨大怪物】は一秒も経たないうちに死に至った。
だが、その破壊力は【巨大怪物】を倒してもなお、収まる気配は無い。
豪炎の地獄絵図。
三途川の入り口を誘うような、死の完結しか有り得ないほどの威力だった。
「……制御っ」
しかし、無駄なこと。
地割れは、縦に、横に、大きく、大きく、広がるばかりだ。
拡張された足場にもう逃げ場はなく、そして今までズボンにひっ付いていたヒッツキムシのようなパーティメンバーは見えず、どうやらこの地面の奈落の底へと沈んだらしい。
ここは地上ではなく、地下。
天井は崩れ落ち、岩石共々土砂崩れを起こす。
「スキル【永久防御】発動っ」
いくら最強といえどこれだけの岩石が降れば、制御できるわけもなく、そして俺に当たれば痛みを感じる。どんなに強くても痛みを感じるのは単純に嫌だ。
だから防御スキルを展開した。
【永久防御】によって、岩石を弾き、身を守る。
だが、足場も残り一畳ほど。猛烈なスピードで欠けていく踏み場を察知し、またスキルを発動させる。
「スキル【空中浮遊】発動」
磁石をN極とN極を向かい合わせた時のように、身体と踏み場が反発し、数mほど浮遊した。
上空からは木やら水やら人間やらが大量に降り始め、いよいよ『世界の終焉』という曲の大サビでも入った頃か。
壊れていく音は、耳で捉えきれないほど壮大で想像もつかないモノだ。
いよいよ自然や生命すらも崩壊し、この世界の概念が消えていく。
「……っ」
俺は一体この先どうなるんだっ!……なんてそんなカッチョ良いことも言えず、そんなことも言っている暇もなかった。
この状況から助かる方法を全知全能に尋ねても返答は無し、とその瞬間——。
ドドドドドドドドドッッッッッッ!!!!!!
爆発音。
ああ、そうか。ようやくこの世界の端まで、あの破壊光線が辿り着いたか。
壁も、天井も、足場も、人間も、自然も、ほぼ全て無くなった。
だから、俺は全知全能に、この条件で最善の策を尋ねる。すると、先程は解を出せなかった全知全能はこう答えた。
「……スキル【環境対応】【真空超耐性】【不死身】発動」
終幕の鐘が鳴る。
嫌な予感がここまで這い寄るとは、これは最悪の結末へレールが切り替えられた瞬間だ。その時の分岐音が今、ハッキリ聞こえたような気がした。
「……ああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!」
堕ちていく。
だが、俺は堕ちていない。
堕ちていくのは、周りの、俺以外の、全ての、概念だ。
「…………ああっ……あっ……ああっ……」
脱力状態になっても、誰かが駆け寄る訳でもなく、ただ一人、この暗闇でぽつん、と一人浮いていた。
「どう……して……」
この暗闇は宇宙空間。
ここがどこか考えるちょっとしたドキドキ感を味わうことも無く、全知全能が教えてくれる。
【真空超耐性】でこの宇宙空間を一人ながらも快適に過ごすことができる。全知全能はこの宇宙空間に入り込むことを認知していてこの選択を取ったのだろう。
「……おい、【全知全能】の本体はどこだ」
顔を俯かせ、その場に座り込み、脳内に語りかける。
「出てこい。出てこいって言ってるだろうがぁぁぁぁぁ!!」
辺りは静かで、俺の声が耳に入るも、地球や先程までいた世界で聞こえていた雑踏などは全くもって聞こえない。
『………………おやおや、どうかされましたか』
ふと、脳内から電波が出ているような感覚に襲われる。そしてそれはれっきとした人間の言語を喋っていた。
「……お前か。【全知全能】は」
尋ねる。
誰か人影がいる訳でもない。
尋ねた相手は俺の脳内なのだから。
『ああ、はい。私が【全知全能】のAIネーム《DQ》です。本来ならばこの能力を手にした人間に私の声を聞かせてはならない、という掟があるのですが。こうして世界が滅亡した今、そんな掟は紙屑同然になりました。なので私は今こうしてあなたの脳内に話しかけています』
そう淡々と喋る《DQ》。
声は恐ろしい程にハッキリと聞こえた。
「《DQ》。率直に聞く。どうしてこんなことをした」
『ああ、この世界滅亡ですか?あ、そんなことよりレベル上がる時の声は《JX》というワタシと同じ会社が造ったモノで——』
「——いいからとっとと話せ!」
山椒を舐めた時のようなピリリとした感触が脳内に走り、思わず怒鳴ってしまった。
『もぅ、沸点低いですね。……分かりました。理由をお話しします』
話を区切るように声のトーンを落とす。
『この【全知全能】の能力はワタシが考えた一番の最適策を貴方の脳内に浮かばずように台詞を並ばす、と云うモノです。使った時の代償、使った時の未来、使った時の敵の状態。全てのスキルを全パターン瞬時に分析を行い、貴方に提供するのです』
あの浮かんだ文字はこのAIが俺の脳内に文字を並べていた、ということか。
「そしてこうなってしまった原因は【竜角星】というスキルなのだが、どうしてワタシがこんなスキルの名前を並べたか。それは——」
一瞬のタメを置き、また視界に映らない口を動かす。
「——AIの誤作動です」
静かな声で、そう言った。
「は?」
そこにギャグ口調の要素は混ざっておらず、無情で冷酷な口調だった。
『だから誤作動ですって。第一【竜角星】がこの世界に存在する唯一の禁止級スキルってこと位、学校で習わなかったのですか?』
学校は行かなかった、というのも小学校で習うようなたし算ひき算を永遠に繰り返す馬鹿みたいな教育方針だったからだ。ただ、入学三年目に冒険に関する授業があるらしかった。それだけでも履修するべきだったか。
『だからその誤作動に対して最適な策を用意した』
「その最適の策の行く先がこの結末か」
【全知全能】がミスをしないとは言っていない。
そしてそのミスを【全知全能】がその条件の下、最善の策を探した。
『ええ。そうですとも。これが最善の策ですから』
「……この後どうなるんだ」
正直、何故そうなったかなんてどうでも良い。
問題は、俺がこの先どうなるかだ。
『どうなるって。この果てしない空間で生きていくに決まってるじゃないですか』
満月の夜、枝に止まる一匹のカラスが暗黒に染まった城の門で鳴く情景が俺の脳内に駆け巡る。
「……世界は」
『もう滅亡しましたよね?なにかそういう系のスキルがあの世界にあれば復元できたかもしれませんが、残念ながらあの世界には存在しなかった。よって貴方の能力では世界を復元することはできません』
「……人は」
『この宇宙にはいませんね。あなたが転生する前にいた地球という惑星はこの宇宙とは世界線が違いますから』
「……決めた」
『ほう……なんでしょう?』
「真空超耐性を解除してこの場で死ぬ」
『……』
俺の決断に《DQ》は黙り込んだ後、申し訳程度のボリュームでこう告げる。
『残念ですが、【不死身】の発動のせいで貴方は絶対に死ねません』
【不死身】。
要は“死なない”ということだ。
「……何を言っている。こんなの解除すれば」
『無駄ですね。あなたの【不死身】は【不死身】でも“永久不死身”。これに限っては、一時的か永久的のどちらかに別れます。【不死身】自体、先程まで存在していた世界の人間で使用できるのは、ほんの一握りですが、永久不死身を手にしたのは貴方が第一号です。で、この永久不死身を一度発動すればもう貴方は死なない。流石は神童と呼ばれるだけはありますね』
そして一匹だった筈のカラスが群れで鳴き始めた。
甲高くて、鬱陶しいけど、どこか心に残るあの声が。
「…………なら、真空超耐性を解除して——」
『馬鹿ですね。真空超耐性を解除したら息ができない苦しさや無重力による身体バランスの崩れが一気に襲いかかります。しかも声を発することができないので、もう一度スキルを発動することはできません。つまり、これからその苦しみと共に生活しなくなる、ということです』
現実を突き詰める槍が俺の心を、現実を、串刺しにする。
「……なんで」
『なんで、なんでしょう?』
「なんで、“死”の選択を作らなかったんだ!」
だから俺は人間としての結末、“死”の道を消したことに疑問を投げかける。
『……ワタシ達AIは人の死を最悪の未来と判断しています。ですから、この【全知全能】に身を委ねる限り、余程の場面、つまり寿命や助ける術もない病気など以外であれば死の道だけは逃れられ、そしてその中でいくつものルートを考慮した上で判断し、文字を並べています』
唖然。落胆。絶望。
死の道が消えるという、一見人類の最大のデメリットを除いたようにも見えたが。
「……食料は」
『ありません。当然じゃないですか宇宙なんですから。ですが安心してください。不死身の能力で死にませんから。ただ貴方がこの長い生命を過ごしている間は永遠の空腹に苦しむかもしれませんが。それでも死よりかは幸福でしょう』
結局それは“死より苦しい生き地獄”だった。
「……俺はいつになったら死ねる」
『だから言ってるじゃないですか。貴方は死にません。まぁでもこの宇宙の概念が消えれば貴方も消えるんじゃないですか?』
声を絞り、絶望の飴玉を舐め回しながら《DQ》に尋ねる。
「……その宇宙の概念が消えるのは何年後だ」
『さぁ何年後でしょうね。ワタシは九十九億年先の未来まで見える千里眼の持ち主ですが、少なくとも九十九億年先にも宇宙の概念は存在します』
感情に色が無くなっていく。
呆然と頭から魂が抜けていく感覚に襲われた。
「……じゃあ……俺は……空腹の状態で九十九億年以上の年月をこの宇宙空間で彷徨い続けろとでも言う……のか」
『なにそんな震えた声で言っているんですか。ラッキーじゃないですか、死なないなんてチートを通り越したチートですよ』
そんなわけあるか。そんなわけあるか。そんなわけ——。
「……これが最強冒険者の結末……か」
『何故そんなに落ち込んでいるのか理解できませんが、そういうことになりますね』
最強になりすぎた、チート級の体質を持った、そして、全知全能のスキルを使った、その代償とでも言うのか。
『さっ!立って!行きますよ、宇宙の旅。ワタシと一緒に冒険しまし——』
「スキル【全知全能】解除」
“うるさい”なんて言えなかった。
そんなことを言える気力は残っていなかった。
生き地獄の宇宙生活が始まる。
こんな端があるかも判らない世界で。
何の面白味もない、宇宙人なんて架空生物もいるはずもないこの世界で。
途方も無い旅が始まる。
豪雨の夜の朝方が晴れ、なんてことは限らなくて。
逆に雨の降らない夜の朝方が晴れ、なんてことも限らない。
絶望でデコレートされた脳は、考える気力を既に失っていた。それを取り戻そうとしても絶望のコーティングは厚すぎて取れる気配も無い。
「……あ……ああ……」
掠れた声しか発声することは出来ず、視界も霞んでいて良く見えない。
終止符を打たれるかどうかも判らない長旅に足を踏み込んだ。
最強とはなにか。不死身とはなにか。
チートとは何か。全知全能とはなにか。
そして最強勇者の本当の“ボス”は何なのか。
これが、本当の、最悪で、悪夢のような、最強勇者の末路だ。
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