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第22話

 10分の休み時間に入った。


 クラスでは一気に緊張が抜けたように伸びをしたり雑談が始まる。


 ボク、鯉須町こいすちょう愛泉手あいみて山菓やまがも、教壇から降り自分の机に戻る。


 こんな状況で、次の授業の用意なんてできる人間はあんまりいないだろう。


 なんだか色々なことに悔いが残る。


 もちろん、まだ結果は出ていない。

 思ったようになるかもしれないし、ならないかもしれない。


 正直、どっちに転がるか、決め手がない分、不安は大きかった。


 楽観できるほどの材料はなく、かと言ってまったく目がないという感じでもない。


 今、休憩中にそこここで雑談をしているクラスメイトたちの心中がどうなっているのか、知りたくて苦しくなる。


 そんなことを考えていると、二の腕を掴んで揺すられた。

 振り向くと、愛泉手が伏し目がちにこっちを見ている。


 たった一時間前に見た人物とは比べ物にならないくらい、綺麗になっていた。


 愛泉手の成長なのか、それとも、ボクの心境の変化なのか。


「あの……ありがとう」


 愛泉手はうつむいたまま、こっちを見ないでそう言った。


「いや、まだどうなるかわからないから」


 緊張のためか、いつもよりもぶっきらぼうに答えてしまう。


「ううん。ありがとう。私のこと、嫌わないで、向き合ってくれて、本当はすっごく怖かったの。だから、本当に本当に嬉しかった。ありがとう、信じてくれてありがとう。助けてくれてありがとう。ずっと見ていてくれてありがとう」


 顔を上げた愛泉手の瞳は潤んで揺れていた。


 その、繰り返される感謝の言葉に、そして真剣な愛泉手の思いに、ボクは思わず鼻の奥がツーンとなった。


「礼を言うのはこっちだ。ボクを、こんな頼りないボクを、信じてくれて、力をくれたのは愛泉手じゃないか。ボクがどんなに嬉しかったことか。ボクは、ボクは……。きっとこの学級会が終わっても、ずっと忘れない。愛泉手に貰ったものを大切にしてこれからも生きていける」


 気の利いたことを言えない自分を内心恨めしく思いながらも、愛泉手を見つめる。


 やっぱり怖かったんだ。

 能力を秘めた人が自分の才能を開花させていく様を、ただ隣で見守っている気になってたけど。

 そりゃ、愛泉手だってボクと同じ中学生なんだ。

 ちょっと変わった望みを抱いているだけで、悩んだり困ったり、怒ったり悲しんだりする、別に超人って言う訳じゃない。


 そう思うと、なんだか急に愛おしく思えてくる。


 こちらこそありがとう、と言う言葉はすべてが終わるまで取っておこう。

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