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第20話

 何度目かの教室内のざわつき。


 時計を見るとあと数分で一時間目のHRは終わる。

 この混乱のまま終わりたくない。


 誰かが最後に心を動かす意見を言ってまとめて欲しい。


 いや、ここはボクがきちんと言うべきか、誰よりも愛泉手あいみての夢に寄り添わなければならないボクがここで誰かを頼っても仕方がない。


 だけど、なにか言えるだろうか、この揺らいだクラスをまとめられる方向性を指し示すことなんてできるだろうか。


 失敗したら逆効果になりかねない。

 それでも、ボクがやらなければ。


 そう思って教卓の前に出ようとすると、クラスの中で手が挙がった。


 それも一気に三本くらい。


 時間的にこの意見が最後になるだろう。


 その重要な意見だ。

 ボクが指名することはできない。

 議長である山菓やまがが誰を指名するか。


 クラスを眺めると、一番大きく手を降って大げさに「ハイハイ!」言ってるのに目が行ってしまう。


 音丹菊おとにきく貴士たかしだ。


 はっきり言って、ここで音丹菊に任せたくない。


 口先だけのお調子者、空気を読まないつまらなさ、いい加減で嘘以外の言葉を喋ったことがないようなやつだ。


 目が釣り上がって頭もつんつんと立っていて、全体的に鋭角的な容姿だ。


 人呼んで『瓢箪から瓢箪の内側についたクズ』といったところだろ。


 彼の性格もそうだけど、それがなんとなく許されているということがボクにとってあんまり好ましく思えないところだ。


 しかし、なんでこのタイミングなんだ。


 音丹菊のいつもの調子なら率先してくだらないことを言って混乱させ、なし崩し的に話し合いを混ぜっ返すと思われたのに。


 ひょっとして、最後の最後、この時まで我慢してたのだろうか。

 そうだとしたら……余計に彼にだけは意見を言わせたくない。


 ボクは山菓の横顔をじっと見る。


 山菓はボクの視線には気づかず、無情にも音丹菊を指名した。


 バネ仕掛けの人形のようにピョンと飛び上がって音丹菊は教壇に立つと、黒板にチョークで字を書いた。


『iMite』


 そして音丹菊はクラスを眺めると、指を組んで歩きながら語り始めた。


「私はこの時を待ち望んでいました。そう、これは全く新しいソリューション。『iMite』は我々の生活を一変させる画期的なイノベーションなのです」


 悪い予感は的中した。


 音丹菊はIT企業のプレゼンのように、胸を張りドヤ顔でそう語り続けた。


 クラスメイトは音丹菊のしょうもない言動に慣れてはいたけど、この集中が切れた瞬間に始まった茶番に興味を持ち、肯定的に聞いていた。


「見てください。この洗練されたインターフェイスは、私達の生活に、無くてはならないエクスペリエンスをもたらします」


 そう言って音丹菊は愛泉手を引っ張って指さした。


 クラスのみんなは改めて愛泉手の身体をじっくりと眺める。


 愛泉手は恥ずかしながらも、嫌そうではなく、はにかみながら俯いて目をそらす。


「来たるべき新時代において、『iMite』は必ずや我々のライフスタイルに影響をあたえることでしょう。一度アクセスさえすれば、いつでも、どんな時にでも、好きなだけ思い出すことが可能です。また、あらゆるシュチュエーションにおいて、カフェで、映画館で、ビーチで、ショッピング中にでも、豊富なカスタマイズの妄想ができ、より有意義な時間を使うことができます。未来、それはすでに我々の手の中にあります。直感的な操作により、賛成票を投じるだけでそれはすぐにでも実現できるのです。今、この時を境に歴史は切り替わります。『iMite』以前と『iMite』以後。悩まれている方にはこの言葉を送りましょう。ボーイズ・ビー・アンビリーバブル!」


 音丹菊はそう言って両手を上げて天井を眺めると、そのまま席に戻った。


 クラスメイトからは、なぜか喝采が起こった。


 確かに、よくできたスピーチだった。このボクでさえちょっと笑いそうになってしまったし、何を言ってるのかまったくわからないくせに、なんとなく心を酔わせるような妙な美辞麗句の連発だった。


 ただ、言ってることは本当に意味不明だ。


 これでみんなの意見が変わるのか、そもそもこれは意見なのか、意見じゃないとしたら何なのか。


 色々とつっこみたいことはあるけど、そんな時間もなかった。

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