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第15話

 女子生徒の愛泉手あいみてを見る目がはっきりと変わっていた。


 愛泉手のはっきりとした自分の意見。そしてそれは、『女子である』ということを喚起させるものだったからだろう。


 男の前では可愛くいたい、そういう気持ちを持ちながらも、男から馬鹿にされるのは黙っていられない。

 そんなジレンマを抱えていた女子にとっては共感できるものがあるに違いない。


 裸を見せて男たちに媚びようとする姿は女子の敵だった。

 でも、毅然と女子であることの誇りを持って男と対等に渡り合う愛泉手は女子の味方なのだ。


 もちろん、クラスの女子生徒全員がそう思ったわけじゃないだろう。

 しかし、女子生徒の間で、ただ拒絶するだけでいいのかという意識は上がってきたはずだ。

 とは言え、それが教室内の天秤を動かしたとは必ずしも言えなかった。


 女子としてのプライドを掲げて戦う決意を固めた愛泉手は、男にとっては面倒臭い女子だ。

 ただ単に裸が見たい。エロい気持ちが充足されればそれ以上のことは必要ないと思っている男子生徒たちには逆効果だった。


「ちょっと待ってくれ。美談にし過ぎじゃないか?」

「挙手をしてください」


 山菓の言葉に答えるように、手を挙げ、発言を続けたのは芦疋野あしひきの大和やまと

 クラスでも成績の良い男子生徒だ。


 栗毛色をした髪を、ふんわりとまとめているが、そのふんわりとした加減がまったく常に同じで、ちょっと神経質そうなイメージがある。


 人呼んで『湿気ったわたパチ』と言ったところ。


 少し厄介というか、面倒くさい部分がある。

 それは頭がいいために、弁が立ち、なんだか屈服させられてしまう気がするからかもしれない。


「説得しようとする気持ちはわかる。意義がないとも言わない。でもこれは突き詰めればエロの話だろ。賛同しているものの中にエロい気持ちがないものがどれだけいるんだ? 女子だってそうだろ。実は興味がある。下世話な好奇心、それはエロとどう違うんだよ。このエロという情熱から目をくらませて、まったくエロではない、健全で文化的なことです、という風に持って行こうとするなら俺は反対だ。なんで目を背けるんだ。エロでいいじゃないか。たしかに恥ずかさはあるよ? だけどそれを否定してまるで良いことのように言う欺瞞は気持ち悪いだろ。同世代の女子の裸だぞ。ここにいるのは、全員聖人かよ。エロももちろんある、そしてそれ以外もあるということでいい。エロい気持ちなんて全然持ちあわせてませんでした、なんておためごかしは逆に気持ち悪いんだよ」


 芦疋野は、一気にまくしたてた。


 なんだか「エロエロ」言われすぎて、感覚が麻痺してくる。


 聞いているクラスの者達も、意見に納得はしつつも「そうだ」と賛同するような感じではない。


 芦疋野は、周りの無反応に苛立つように続けた。


「そもそも、そうやってエロを否定する理由ってなんなんだよ。エロが汚いという偏見じゃないか。汚らわしいという思い込みじゃないか。でも、世の中からエロはなくなったりしない。エロでいいんだ。世の中にはな、エロだからこそやり遂げられる情熱だってあるんだよ。エロだからこそ味わえる感動だってあるんだよ。それを隠してエロじゃありませんだなんて、エロに失礼だ。エロい心はある、だからこそ尊いんだと胸を張れよ」


 芦疋野は、どちらかと言えば愛泉手が裸になることには賛成なのだろう。


 ただ、その主張を聞いたものには逆効果なんじゃないか。


 賛成している自分が恥ずかしくなる。その恥ずかしさが芦疋野が言ったように偏見なのも事実だ。

 だけど、その偏見は世界的に全世代で、人類が共有するレベルの偏見だ。


 だってエロは恥ずかしいじゃないか。


 ただの一般の中学生であるボクたちが、それを覆すために立ち上がるっていうのはちょっと無理がある。


 芦疋野はそんな偏見はやめろ、と声を大にして主張したのだろうが、クラスのみんなにとってはせっかく忘れかけていた偏見を呼び覚まされた気分だった。


 クラスメイトの一人ひとりが、その偏見と無理やり戦わされ、そして屈服していくように押し黙っていった。

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