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第12話

 女子生徒の中から、愛泉手あいみてを評価し始める声は聞こえてきたものの、挙手をして意見をいうまでには発展せずに、議論は一旦膠着状態になった。


「わかるー……」

「でもさぁ……」

「っていうか……」


 議論をするという緊張感に耐えかねた部分もあるのだろう、なし崩し的にそこここで雑談が交わされ始めた。

 そうなってくると、意見などではなく空気こそが重視される流れになる。


「ぶっちゃけ、愛泉手さんが注目されたかっただけって感じするよねー」


 ちょうど変に静まり返ったタイミングで、ひときわ大きく侘濡葉わびぬれば伊真いまの声が上がり、その声は教室内に響いた。


「やだ、ごーめーん~。そうじゃなくてー」


 全然申し訳無さそうな態度で、侘濡葉は大きな声で謝った。


 クラスの女子生徒の派閥の中で、最も華やかで声のでかいグループ。

 そのグループの中でもさらに一番権力がある侘濡葉の振る舞いに、空気に敏感な女子生徒たちは戸惑う。


 いじめというほど辛辣でもなく、仲間はずれというほど陰湿でもない力関係の支配者である侘濡葉に、クラスの者たち、特に女子生徒が意識を向けた。


 当の侘濡葉に何の悪気がなくても「あの子ちょっとね」なんてレッテルを貼られたら、それだけでクラスの中では重い足かせを付けられたようなものだった。


 この流れはまずい。


 せっかく、意見には理由を述べるというルールによって、クラスの中でも目立たない者たちの声が届き始めたのに、こうなると力を持って雰囲気を操るのに長けた者達の気分によって押し流されてしまう。


 ここまで来たのに、結局振り出しに戻ってしまうのは悔しかった。


 愛泉手の夢を叶えると乗り出したボクはもう引けない所まで来ているし、このまま不本意な結果に終わってしまえば、愛泉手は少なからず傷を負う事になるだろう。


 教壇に立ってクラスを眺めると、女子生徒の中でも肯定的に認める人や、感情とは別に意見としては納得しかけている人たちがいるのもわかる。


 ここが勝負どころなのかもしれない。

 ボクは賭けに出て、教卓の前に立った。


「いいですか。いろいろな意見が出ましたけど、もう一度、根本に立ち返ってみませんか。そもそも愛泉手さんが、なぜ裸になりたいのか。その理由をきちんと聞いてみてはどうでしょう。今まで話し合った議論は無駄ではありませんでしたが、感情が先立ちすぎて脱線してしまう部分もありました。そこに一度立ち返って、みんなの気持ちを整理した方がいいと思います」

「確かにそうですね」


 山菓やまがはボクの言葉に素直に頷いて愛泉手を見た。


 愛泉手は、緊張のためか唇が震えている。

 しかし、その瞳には、強い意志の光が見て取られた。


「いいか、愛泉手。君の決意、そして強さを信じている。大丈夫だ」


 ボクがそう言って教壇を譲ると愛泉手は胸を張って立った。


「まずはじめに、ここまでふざけることなく話し合いを進めてくれたことに感謝します。どうもありがとうございます」


 愛泉手はゆっくりと、こちらが焦れるほどに時間を取って頭を下げた。


 そして彼女の戦いが幕を開けた。

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