初戦
「…………」
途中まで走っていたが充分に離れたと判断して、走って疲れた身体を少しずつ休めながら歩いていたが。
疲れた体を労るよりも、これからすることに意識を割いていた。
(どうする?)
自分で自分にただ問いかけるという混乱して思考を放棄してる状態になっているが、それも時間が解決していく。
(いや、今は何としてでも最初の場所、安全な場所を見つけることが何よりも先決だ)
小走りの状態で息を整えそう決断を下すと、俯き気味だった視線を上げて、感覚と記憶を頼りにもといた場所に身体を向けて走り出す。
(……もし、行く先の場所にもあの虫の声の主がいたのなら……)
先程の虫との交戦による痛みと恐怖を思い出し、ゾッとする様な想像をしてしまい身震いする。
(またあったなら、その時は必ずコロス)
無意識の内による思考な為、自らが考える言葉遣いにいちいち考える余裕は無く、その足は濃霧の中を迷いなく走り抜ける。
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あれからも何刻もたち、暗くなった森の中の唯一の光源は三つの月の月光だけが濃霧の中での救いであった。
もし雲が月を覆い隠したならば、走るのにさらに体力を使い精神が疲弊することになるだろう、そしてやはり最悪の事態は月の祝福が無くなり、こちらに敵対するナニカが襲って来た時はもう最悪だ。
(だから少しでも早く濃霧を抜け出し朝まで安全な場所で隠れて休むのが望ましい)
当初は慣れず、補装も整備もされて無い森の木々を掻い潜り走っていたがそれも身体の動きを把握しながら進み、今は息を一つ乱さず先を見通せて敵が来ても十分対処出来る程度の速度で進んでいる。が
(何事も望む通り上手くはいかないものなのか?)
今考えていた最中に雲が月を覆い隠してしまった。
(最悪だ…走るペースも格段に落ちる、何とか最悪の中の最悪だけは来るな)
願い、というより自分に向かっての言い聞かせるような願いを抱きながらまだ暗闇に慣れず視界に薄くて白い膜が被さったかの様な視界に合わせ、格段にペースダウンした速度で走るのを再開する。
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あれからも状況が改善することはなく、真っ暗闇の中現在地から大樹までの距離が四分の一になったところで更に最悪が訪れて来てしまった。それは……
(最悪の中の最悪が来てしまった、だが、この音は虫じゃない?走るテンポも自分のと違う、一体何が来ている)
虫の羽音では無く、自分と同じく地を駆ける音だった為走るのをやめて音が聞こえてくる方に向かって大鎌を構えて暗闇の中で音と直感を頼りに距離を測っていると遂に、暗闇に慣れた眼でも見える、それは肉体が腐り落ち肉が大部分削げている五体のオオカミであった。
(追いつかれたか、走るペースはこの暗闇の中では部が悪い、逃げ切れないのなら撃退するか殺すまで)
そう冷静に決断し大鎌を構え、オオカミは唸り声を上げながら焦点の合わない目で睨んでいた。
ノロォ……