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輪廻を廻すソウルハーベスター  作者: ピュアラルラビット
灰竜と精霊
2/11

悪食救済夢と月は綺麗

ー嗤うー笑うー嘲笑する


(無くした、幸せを、壊された、壊した、守られた、守れなかった、何を…誰を無くした?…分からない。あるのは空虚になった心と果てしない憎悪)


自分という存在がねじ曲がり、削れていく異質な空間の中、狂った心にある破壊衝動に従い彷徨っていると、突然視界が遠くまで見通せる様になり、目の前にコールタールの様に光を反射しない巨大で異形な人影が現れ、それを見た瞬間ーー


(唖々、ニクイナ)


ーー荒れ狂っていた感情がストンと抜け落ち、その異質な形をした人影を無情に大鎌で二つに切り離した。


(取リ戻サナクテハ)


時間が巻き戻るように二つに分かれた身体が元どおりに戻り、異形の怪物は不快や驚愕と言った感情を魔力に乗せながら振り返るが。


(ヨコセ)


振り返ると同時に大鎌を手放し、拳を固く握り怪物の両目に突き刺し、化け物が暴れる中、更にグリグリとかき混ぜ眼玉を抜き取り振り払われる。


(マズイ)


怪物から抉り取った自分の頭ほどある二つの眼球を噛り付く、外側の強膜を食い破り中身を啜る。


(マズイ)


一つを流し込むように喰い、もう一つの眼球も頬張ると同時に多大な怒気を孕んだ咆哮が聞こえてきた。


「何者だキサマは!!」


「……」


目の前で自らの眼が喰われるという異常な光景に、堕ちた獣の如き知性しか感じられぬ怪物が怯え、頭から突進するがそれを大鎌で切り刻みながら喰らい、武器で刈り取った部位がカンテラの激しい蒼炎に燃やされ本質を奪っていく。


しかし、最初は逆に喰いちぎられ身を裂かれていたがそのたびに再生し、身を裂かれる以上に相手を喰って行った為、必然的に時間が経つと共に有利になり今では異形の怪物は倒れ伏し、頭部以外は無事ではなく、骨に泥の様な筋肉が付いているだけであり身体の真ん中に刺々しい結晶らしき部位も見えている。


「我が…何故…矮小な影……に…」


「…………」


吸収して行くうちその気配がより異質なものになっている事に気づかぬまま、喰い散らかされ無惨な姿に変わった怪物に近づき頭さえも貪る。


最後に残った結晶を噛み砕くとこれまでと比べものにならない程の力が溢れ出し、その姿は音を立てながら急速に変わり。


頭には漆黒の角、その背には陰りのある大翼が、そして先程の怪物の様な色の紋様が顔や身体全体に巡り血潮も焼けつく様に熱くなり、万能感にも似た高揚感が全身を包み込んでいた。


「唖々、これで守れる」


しかし、そう言い終わると背後から光が刺しているのが見え振り返ると、大量の人型の光とそれを率いるようにさらに巨大な光が六個、あたり一面を埋め尽くしていた。


「……消えてくれ」


その光を見ていると憐まれていると感じ、満足していた心がまた荒れ始め自然に、手に力を込めて振り払うと泥のような粘性を持つ波がその集団を覆い尽くした。


だがーー


「……何故?」


軽くとはいえ、確実に倒したと思っていたその考えは覆され、泥が払うように裂けると、六個の内の一つの塊が突撃して来た。


「………」


無言で武器を取り、先程と同じ様に大鎌わとを軽く振るうも塞がれる、その事実を二度見せつけられ目の前が赤く染まるとその集団に猛り吼えながら突撃していた。


「ウオオオオォォォォ!!」


目に映る光を全て切り刻もうと大鎌を振るうも当たらない、しかも応戦して少しすると大鎌を跳ね上げられていた。


「来るな!!」


意地汚く、大鎌ではなく今度は純粋な体術で応戦するも片腕を掴まれ、引っ付いている光を刺そうと短剣を振るうがその腕も掴まれ、更に大勢の光に翼や顔を固定された。


完全に身動きが取れなくなり、負けたと実感すると涙が出て、心の中は悔しさや憎悪が渦巻くがそんな物が気にならなくなるほどの "安堵" や "諦め" が覆い尽くした。


それは徐々に大きな光の一つが近づいて来る程大きくなり、それが自分の最後に見る光景として受け入れて目を閉じて待つ。


(……?……っ!?)


その時が来るのを待って目を瞑っていたが、頬に柔らかい感触が走るが、一向に痛みが来ないので恐る恐る目を開けるとそこには神秘的な存在だと一目で分かる一人の少女が顔を覗いていた。


その小さく慈しむ様な手で頬を撫で、少女は優しく微笑みこう言う



"生きて、悲しまないで、笑って、幸せになって"



***********************



「あ……」


木の枝の隙間から月の光が差し、涙が浮かんでいる目と頬を優しく照らす、上手く力が入らない身体を起こして空を見上げると、周りの木より二回り大きい大木の根に横たわっていた。


「う…ぐっ……ここはどこだ?」


まず、最初に感じた身体の怠さを無視して立ち上がりあたりを見渡すと、辺りは横たわっていた大木を避けるかの様に生えている木があるだけである。


次は自分の状態を確認すると横には青みがかった月光を浴びて尚、純白の光を放つ大鎌と中に何も入っていないカンテラが置いてあり、自分が着ているのは所々金の刺繍がある黒艶のあるフードとマスクが付いたローブを身につけていた。


「……………」


ひとまず、怠い身体を無理矢理起こし大木にもたれ掛かり考える。


「………」


自分が誰なのか、さっきの夢の男は自分なのだろうと自然と分かるがそれ以上のことは名前も、頭の中から抜き取られたかのような喪失感があるだけで思い出せない。


「……綺麗な月だな」


段々と考える事が無くなり、不意に月が気になり見てみるとそのあまりの静かな美しさに思わず月に手を伸ばしていた。


「……ダメか」


当然ながら月に手が届く訳が無く、手は虚空を掠めるだけだがその手からは月の光が感じられ、まるでそれが月に触っているようで、今自分の顔はにやけていることだろう。


「……眠い」


しかし、それに満足すると次は別の欲求が沈み込んできた。


最初は睡魔に抗おうとするも、差し迫った危機も他に無く自然と、目を閉じてきていた。


「おやすみ」


言わなければいけない気がして最後に、睡魔によって更に重くなった頭を上げて、月にそうポツリと呟くと、満足気な顔で眠りに落ちる。













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