日常と非日常は表裏一体1
「なぁ宇田、今日の学分見た?」
お昼休み、僕と友達の佐々木はお昼ご飯を食べていた。
それにしても、佐々木の弁当は特筆すべき点のない弁当だこと、まるで佐々木の顔みたいだなぁ、
なんて思ったり思ってなかったりしていた。(佐々木はイケメンでは断じてない)
ちなみに学文とは、学校新聞の略称だ。
「見たけど、なんか目を引くものでもあった?」
学文には、僕が所属している文芸部の読み切り、新聞部のスクープ、写真部の活動報告などがある。
しかしながら、人気を博しているかと言われるとそうでもなく、読む人はあまりいない印象を持っている。
まぁ、一部熱烈なファンがいるとは聞くが……
もちろん、僕は読む。文芸部だし。
「なにって、そりゃ週刊文芸部だろ」
週刊文芸部とは文芸部の部員が1000文字以内、毎週違ったお題というルールを守って書く読み切りのことことだ。
「今週ののやつはどうだった?」
今週は、クロウ先輩の作品『私の初恋』が載っているはずだ。
「今週ののも、面白かったぞ」
「そっか、って別に僕が描いたわけないじゃないけどね」
自分の作品のことではないのにホットしたのには理由があって……
時は少しさかのぼる。
あの、ヤンデレ小説もとい『私の幸せ』が先生に却下されたその翌日、
少しきりっとした表情の先輩が『私の初恋』という新作を持ってきた。
内容は失恋を扱った物語で『私の幸せ』に比べると、いや比べるまでもなくよかったのだが、
「クロウ先輩?これ1000文字超えてませんか」
「あっ」
ということがあり、一緒に添削をしたのだ。
やっぱりクロウ先輩は、クロウ先輩だったよ……
はい、回想終わり。
「というか、クロウって誰なんだろうな、宇田も知らないんだろう?」
「うん」
文芸部は少数精鋭隊であり、そもそも僕とクロウ先輩とあとたびたび後輩くらいしか来ないので、
クロウ先輩が文芸部にいることは広まっていない。
この前クロウ先輩にそのことを話したら帰ってきた内容が、私って美しいでしょ?だからめんどくさいやつらが
来るのがいやなのと言っていた。
中身はさておきこの文芸部があまり騒がしくなっても嫌なので、僕も広めないことにした。
「というか、あの文芸部に宇田以外の奴がいたっけ?」
「いるよ、たぶん二人くらい」
友達に文芸部を持っているやつでさえこの反応である。廃部一直線だなぁ。
「そっか、廃部にならないように頑張れよ」
「ほどほどにやるよ」
しかしながら、僕には部活を維持しなくちゃ、という義務感など全くないのでこの通りである。
このような中身があるようなないような話をしていると、
急に窓の外を眺めていた佐々木がにやりと笑った。
「おっ、今日も姫がいらっしゃたぞ」
姫とは、1年の後輩の姫野のことである。
姫野は、昼休みに二年の渡り廊下を歩いていることが最近よく見受けられる。
別にどうだったいいが。
「ふーん、そんなことより今日のテスト範囲ってどこだっけ」
「宇田ってほんと姫に興味ないのな、ほんとに男か?」
「男だってーの」
佐々木はまるで見てはいけないものを見た人のような顔をしている。
どうやら姫野は一般で言う美女であるらしい。
言いたくないが、普通にかわいらしい風貌をしている。
えーと、キャラメルのような色の髪、あっポニーテールをしてるみたいだな。
んーと、もちのようにもちもちとしていそうな肌、
あーと、醤油のような真っ黒な目をしているな。
うん、我ながらひどい。
僕も普通の男の子だったらどきどきとか目で追っちゃってたりしていたかもしれないが、
ずっとクロウ先輩という残念美女を真近で見てきているせいでなんというか、その
百パーのきれいごとではないが人って中身大事だなって思うようになってしまい、
結果顔のかわいさ云々はどうでもよくよくなってしまったのだ。
これって、成長なのか……退化なのか、まぁ、いっか。
「いや、お前この学校の美女四天王全員興味ないだろ」
「いや、(いろいろな意味で)あるよ?」
美女四天王というのは、姫、聖女、魔女、女神の異名をもつこの学園の美女たちのことだ。
どこかのラノベかな?
ちなみにクロウ先輩も魔女の名を持つ美女らしい。
ただ、よくある丸眼鏡とマスクそして三つ編みが平常運転であり、この学校で先輩の美貌(笑)を知っているものは
あまりいない。
よくあるラノベかな?
一応女神と聖女の正体を知っているが、思い出したくもないのでゴミ箱に投げ捨てた。
「あー言わなくてもいい、お前どうせ小説のネタになるからとかいうんだろ」
僕が、苦い顔しているのを感じたのか佐々木はごまかすように言ってくれた。
「なぜ、わかったし」
「なぜ、そんな驚くし」
予測できたやり取りに僕と佐々木は笑ってしまう。
「まぁ、いいわどうせお前も姫に異性的な意味での興味を持つ日がくるだろ」
佐々木は、ふふんと確定された未来化のような言い草をした。
ふっと脳裏にうかんでしまった残念美女。
うん、まじで、来なくていいです。
「でもこの四天王も、謎が多いよなぁ」
僕たちはご飯も食べ小時間も過ぎたので、弁当箱を片付け始めていた。
あと15分程度で昼休みも終わるという時に、佐々木は自信に向けてなのかはわからないが
ぼそっと言った。。
「ん?」
「だって、聖女も魔女も正体不明だし、姫も女神もあそこまでのもてているのに恋の話なんて何も聞かないんだぜ」
「きっとなにか裏があるな」
はい、裏しかありません。
そう答えたい衝動に駆られるが、後が面倒になること間違いなしなので慎むことにした。
「宇田?どうしたんだそんなに震えて」
「いや、なんにも」
「体調悪いんだった保健室で次の授業さぼれよな」
いや、さぼれってお前なぁ……
僕は、このような話を僕はずっとしていたかったのかもしれない。嘘じゃない。
ホモだとかそういうことでも断じてない。
大切なものって失って気づくものとはよく聞くがまさにあの通りである。
廊下をうろうろしていた姫野が、どうやら何か見つけたのか知らないが僕のほうに一直線にやってきた。
彼女に好印象を持っている人からしたら、天使の微笑みというのかもしれないが、
僕には獲物を見つけたライオンにしか見えなかった。
「宇田先輩ちょっといいですか」
姫野が僕に声をかけた。
彼氏にするような上目遣い、猫なで声をプラスして。
日常がぽろぽろ崩れ去っていき、非日常が姿を現していく。
姫野さん?こんな人の目があるところでそんなことしちゃぁいけないよぉ。はぁ。