『少女の幸せ』1
「せんぱーい、起きてますか?」
少女の声が部屋に響きわたる。
日はもう落ちている時刻であり、また部屋の明かりがついていないので部屋は漆黒に包まれている。
「起きていないなら、勝手に話させてもらいますね」
先輩はほんと居眠りさんなんですから、と幸せそうにつぶやきながら頭をなでているみたいだ。
少女は頭の中の重要と書かれているあるファイルを開き、一人語り始めた。
「先輩に出会った時、まず私は何この人って思ったんですよ」
少女は場所も、男子トイレの中とロマンチックの欠片も感じれなかったですねと付け加えた。
そうだ、こいつは最初はおとなしいやつだったんだ。
「いるわけもない自分の『ヒーロー』のことで頭がいっぱいだった私」
こいつは、教室、家、どこであってもおとなしかった。
そのおとなしさ、故にこいつは標的に……クソッ。
「だーれも助けてくれることのなかったいじめられっ子の私に対して」
同級生、先生、親、誰に行っても帰ってくる返答は『あの子はそんなことするわけない』一択。
ほんと俺は、どこで間違えてしまったのだろうか。
「君はいじめをする側の気持ちってわかるか、なんて言うんですから」
目が覚めたら腕輪つながってるなんて、非現実だろ?
現実逃避している暇があったら、早くここから逃げ出さないと。
幸いまだ、腕輪を外そうとしていることは、ばれていないはずだ。
「『わかるわけないじゃない』あの時はあー言ってしまいましたが、今となっては私に身に沁みてわか
ります、ほんとですよ?」
まずは、このつながれた腕輪を何とかしないとっ。あっ。
あめがつよくなっているみたいですね。うーん、これはいっとこうかな。
「きっと、わたしは幸せものですね」
だって、私は『幸せ』のいみをしることができたのだから。
せかいいちかはわかりませんですが……あっ、そうだ。
「これからせかいいちになるからもんだいありませんねっ」
「せんぱいはどうですかっ?」
おきている、せんぱいにといかけてみる。
「わたしはせんぱいのことはまだであったばかりですが、わたしにはほんとてにとるようにわかってますよ」
これが、いしんでんしんってやつですねっ。
「これからわたしは、ほんとうの幸せをてにいれにいきますが」
いやっ、ちがいますね。
「ほんとうの幸せをてにいれにいきましょう、これからっ」
せんぱい、しんらいしてますっ。
□□中学3年生の生徒が腕輪につながれた状態で亡くなったというニュースが出回った。
警察は、同じ学校の女性徒が起こした事件との関連性を探っているとも。
部屋はとても重々しく、一触即発の空気が醸し出されている。
ぺらぺらと紙を触っている音と、緊張したことがよくわかる呼吸の音、この2つの音しか聞こえないくらいあたりは静かだ。
外は晴れ晴れとしており日向ぼっこでもしたくなるような天気であるのに、
この空間は気圧が下がっているのではないかと錯覚を受けてしまいそうになってしまう。
しーんとした、空気の中ぺらぺらという紙をめくる音が消えた。
そして、彼は淡々と告げた。
「却下、だめです」
「いやぁああああああ、原稿書き直したくなぁあああい」
吸い込まれそうなほどの漆黒の長髪を持つクロウ先輩は、僕を前後に揺さぶっていた。
美女といったら、どのような特徴を思い浮かべるだろうか。
ぱっちりとした目に、すらっとした鼻、ぷっくりとした唇などが思いつくだろう。
しかし、クロウ先輩にその言葉を使うのは場違いなレベルでクロウ先輩は美女……のはずなのだが
「フクロウ君、ゆぅるうしてぇえええ」
いつも、この姿を見ているせいで美女なのだが……残念臭がすごい。
毎度のことなのだが、なんで僕フクロウ君なんて呼ばれてるんだろ。
「これが、通ると思うんだったらクロウ先輩は末期ですね」
とっても失礼なことを言っているつもりではあるが、毎回こんな調子だとこうなってもしょうがないだろう。
「やだ、やだぁあああ」
「そんなことより、もうそろ揺さぶるのやめてもらえませんか」
ほんとやめてください、クロウ先輩が毎回やるせいで耐性が付いてきているんですよ、僕。
「じゃあ、どこがだめだったか教えて?」
先輩は、指をくわえ首をかしげて上目づかいで僕を見ている。
そっか、じゃあ言いたいままに言わせてもらおう。
「どこが、『ハッピーエンド』ですか!辞書で調べてからや書き直してください!」
先輩のあざとさ耐性が付いてしまった僕は先輩のぼっぺたを両手でつかみながらぐにんぐにんした。
そもそもなぜこうなっているかというと、
ここ文芸部の活動の一つに校内新聞に寄稿するというものがあり、
今週は、1『000文字以内』『ハッピーエンド(この前苦情が来たらしい』『恋愛』ものといった縛りがあったのだ。
「いや、ちゃんと縛りの恋愛とハッピーエンドは守ってるじゃない?」
「クロウ先輩!どこがですか!?」
「どこが?」
「はぁ……」
先輩はいつもこうだ、ほんといつも付き合う僕の気持ちもわかってほしい。
僕と先輩はただの部活の先輩、後輩関係だったはずなのに……ほんと、いつからこんなことになったんだろう。
「そこまで言うのならわかった。フクロウ君、今日も解説会始めようか!」
先輩が水を得た魚のように生き生きとし始めた。よくわからないが、先輩はいつもここらあたりから活気付き始めるのだ。
「今日もやるのか……」
そして、また始まってしまうのだ。少し変わった、僕とクロウ先輩の部活動がまた始まる。
「では問題です。あなたにとっての『先輩』はどんな人ですか?」
クロウ先輩、何言ってんの???