第27話 決別と誓い
大変長らくお待たせしました。
次にセレスが目を覚ました時には、自国であるスフェラ公国と、敵国であるオルビス・クラシオン王国との戦争は終結していた。
彼女はいつの間にか、遠く離れた王都の城の中に戻っていた。
セレスのそばには、セレスの兄の親友である第一王子カーネリアンと、兄の幼馴染であり、第一王子の婚約者であるインカローズの二人が控えていた。インカローズは泣きじゃくっており、話が出来る状態ではなかった。代わりに、険しい表情をしたカーネリアンが、事の次第をセレスに説明してくれた。
どうやら戦が終了してから、セレスは二週間ほど眠りについていたらしい。
寝台で身体を起こしたセレスは、大きく呼吸をした後、第一王子カーネリアンに問いかけた。
「カーネリアン王子、アズライトお兄様はどうしたのですか……?」
彼女の声は震え、自身にかかっていたシーツを掴む力が強くなった。
カーネリアン王子のそばに控えているインカローズの涙する姿が、セレスの不安を煽る。
どんどん高まっていく鼓動を抑えたくて、セレスは胸に手を当てる。
眼前のカーネリアンが放った言葉に、彼女の顔面が蒼白になった。
「アズライトは、オルビスの剣の守護者に殺害された」
セレスの頭も同時に白くなる。カーネリアンの話を信じたくなくて、同じ問いを何度か繰り返してしまう。
彼女の質問に対して、カーネリアンは首を横に振るだけだった。
「おにい……」
セレスの金の瞳から、涙が溢れ出す。
視界が滲み、カーネリアンの金の髪と、インカローズの煉瓦色の髪が、じわりとぼやけて見えた。
結局、自分は戦場に行ったところで、何の役にも立たなかったということだ。
(未来を視る力があっても、結局お兄様を死なせてしまった……)
しばらく誰も、何も言葉を放たなかった。
どれだけの時が経ったのだろうか、唇をわななかせながらセレスが口を開いた。
「……お兄様の、ご遺体にはお会いすることはできますか……?」
セレスがカーネリアンの茶色の瞳を覗きながら、懇願する。
彼は先程と同様、首を横に振った。
「そんな、一体どうして……?!」
セレスの声が思わず、上ずる。せめて兄の弔いだけでも、しっかりと行いたい。
だけど、カーネリアンの答えは、それさえも彼女に許してくれなかった。
「アズライトの遺体は、見つかっていない」
セレスは驚き、目を見張った。
「なぜ、ですか……?」
「おそらくは、オルビス・クラシオン王国側に渡ったのかと……」
「オルビスに……」
セレスは、口を少しだけ開いたまま、言葉を継ぐことが出来なかった。そのまま握りしめたシーツの波間に顔をうずめる。彼女の水色の髪が拡がる。
声を出して泣く彼女を、カーネリアンとインカローズは黙って見つめていた。
※※※
一緒にいたスピネルは、彼女のそばからいなくなっていた。
カーネリアン第一王子に、彼の所在をたずねたが、「療養している」の一点張りで、再度会うことは叶わなかった。
さらに、彼女を襲った衝撃は、兄の死と初めて出来た友人との別れだけではなかった。
戦争後、暴徒と化した市民が、戦争の責任をとっていた副騎士団長のアズライトの生家――つまりはセレスの家――を襲い、カルセドニー侯爵、そして家に遣えていた使用人達を嬲り殺しにしたという。なんとか生き延びた、セレスの義母に当たるカルセドニー侯爵夫人も、助けられた病院で自死を遂げたという。
※※※
大切な人を失い、帰る場所を失ったセレス――。
彼女は、兄の親友である第一王子の厚意により、城の一角に住まわせてもらうことになった。
侍女に近い仕事をこなしながら、騎士学校に入学できる十三までを過ごした。
戦後は、負け戦の責任者として亡くなった兄アズライトは侮辱されたし、彼女はその妹であるとして周囲から蔑まれた。
だが、彼女は周囲の声をものともせずに、来る日も来る日も鍛錬を続けた。
騎士になり、いつかオルビスから、兄の身体を取り戻すために、そうして、彼女の兄を殺した紅い髪の化け物へと復讐を遂げるために――。
そうして、数年の時を経て、彼女の物語は再開する――。
これにて序章である「海の章」を終了します。
次から、やっと本編に入ります。
本当に長らくお待たせしました。
これからのどうぞよろしくお願い致します。




