表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼星のセレス  作者: おうぎまちこ
海の章
2/41

序章 空と闇のはじまり






 月明かりの下、二人の男女が森の中を歩いている。


「ねぇ、セレス。達が、これからどこに行くのかは、決めているの?」


 黒髪に紅い瞳をした青年が、目の前に立つ女性に声をかける。とても穏やかで優しげな語り口だ。

 彼の身なりは、薄手の白い上衣に黒い下衣を合わせた、とても簡素なものだ。まるで、起きてすぐに部屋から飛び出したような印象を受ける。

 服の中に見える手足は細く、その肌はとても白い。陽に当たったことがないようにも見える。


 対して、声を掛けられた女性は、肩先までで切り揃えられた髪に、金色の瞳をしている。白い騎士がまとう衣服を身に付けており、襟にはスフェラ公国騎士団の貴章が付いていた。

 

「決めてないわ」


 彼女は、冷めた口調で青年に返答した。

 その答えに、彼はくすりと笑った。


「やっぱり、君は面白い人だね」


「貴方に言われるのは心外ね」


 紅い瞳を細めながら、彼は彼女に問いかける。


「でも、目的はあるんでしょう? にも伝えていたよね?」


 雲間に隠れていた月が姿を現す。

 セレスと呼ばれた女性の、金の瞳に宿る光が強さを増す。



「そんなの決まってる。兄の仇を討つ」



 青年は微動だにしない。


「そのために貴方を利用するわ、スピネル」


 スピネルと呼ばれた男は、そのまま押し黙る。

 また雲に月が隠れた時、静寂に包まれた夜の空気に緊張が走る。

 スピネルが身に纏っていた雰囲気に変化が起きた。その事に、セレスは気付いたようだった。

 気付いた時には、彼女との距離を彼は縮めていた。

 スピネルはその白い指で、彼女の下顎を掴んでいる。

 彼の紅い瞳が、血に濡れたように禍々しさを増していた。

 そのまま、彼が悠然と口を開く。


「わざわざこいつを連れ出したんだ。贄よ、せいぜいを、退屈させないでくれよ?」


「それは、貴方の協力次第よ」


 スピネルの高圧的な口調に、セレスも退かずに強い口調で返す。


「お前こそ、俺に力を与える気はあるんだろうな?」


 彼の問いに、彼女は何かを諦めたように答えた。


「勝手にしなさいよ」


 そして、セレスはゆっくりと目を瞑った。

 


 兄の仇を討つための代償は、セレス自身だ。



 今日は雲が多い。

 また空に白い月が顔を出す。


 夜闇の中――。


――二人の影が、重なっては離れた。



 月だけが、彼らの行く末を見守っていた。




 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ