うすら恐い 旅人の風景2
【 十一 ある夜の山道のこと 】
腹を空かせた大髑髏が、後をつけて来る。
【 十二 赤い実 】
村はずれの枯れ木に実がなっていた。よく見れば、手がある。それは。
【 十三 きょうき 】
罪人を裁いてやったのだと、得意そうに喋りまくる血まみれの村男。
【 十四 羽衣 】
「天女の忘れ物かぁ」
沼の木の枝に、薄く透明なものが引っ掛かっていた。
水の中から雌の大蛇が目を光らせている。
【 十五 禅問答 】
「無私とは、何ぞや」
岩の上、座禅を組んだ僧が問う。
「視る価値が無いこと」
俺が答えれば、僧は石となった。
【 十六 氷路 】
冬の夜にだけ現れる道がある。
天に円い寒月。しらしらと明るい。足元の白い道がよく見える。
周囲は静か。さざ波のない鏡面。
湖に一筋。
氷路を渡る。
【 十七 戦禍 】
「連れて行ってください」
屍転がる道端で、男童が言った。赤く腫れた目蓋、頬に涙の痕。
「ついてくるのは勝手だが、足はあるのかい?」
首だけの男童は唇を噛む。
【 十八 ある春の風景 】
きれいだと言うたびに、桜の花は散っていく。
【 十九 晴れた冬空は青く、 】
空の高さを知った。
雪庇を踏み抜いて、崖から落ちた。
【 二十 弔ひ 】
山の中、楓の下で寝た。
朝起きたら線香が二本、供えられていた。
誰だ。