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第五話

薄いカーテンのかかった窓から、朝の淡く優しい光が差し込んで来る。


青白いその光は、ベッドの上で眠る二人の少女を照らした。


「ん……んん……?」


先に起きたのはルナの方だった。ここ最近、緊張していて早起きしてしまうことが多い。


そして、彼女の横で眠っている少女は、昨日仲間に加わった黒髪の少女、ロランだ。彼女はやはりというか、ぐっすり眠っているようだ。


いつもは鋭い目付きの彼女も、寝顔は随分と可愛いものだった。この顔も自分とそっくりなのか、と思うと少し笑いが込み上げてくる。


「ほら、もう朝だよ、ロラン。」


ルナは彼女を軽くたたきながら起こした。すると案外ぱっちりと目を開けてきた。


「寝起き、強いんだね。」


「……まぁね。」


「とりあえず、おはよう、今日もよろしくね。」


「うん。分かってるわ。」


二人は、たった半日程度の付き合いでかなり仲良くなったようだった。



「お、起きたか。」


リビングでは既にヴェンが起きていた。ラロノスも起きているようで、テーブルの上で紅茶を飲んでいた。


「うん、おはよう。まぁ…熟睡は出来なかったけど。」


「まぁ、無理もねぇよ、状況が状況だからな。」


ヴェンはそう返しつつ、ルナ達にも紅茶を淹れようとした。


「あ、ちょっと待って。私、自分の茶葉持ってるの」


そう言うとルナはリビングに置いたままの荷物から、本来は知り合いの経営する喫茶店に持っていくつもりだった茶葉を取り出した。


「これ、みんなの口には合うか分からないけど…あ、ちょっとキッチン借りるわよ。」


そう言ってキッチンへと入り、手早く紅茶を準備した。もう何年も一人で紅茶を淹れているので、手順は慣れ切っている。


「出来たわ、ロランも飲む?」


ルナの問いかけに、ロランは無言で軽く頷いた。


「はい、出来たわ。」


ティーカップに注がれた紅茶は綺麗な橙色をしており、部屋にはアプリコットの香りが漂っていた。


「確かに……色も香りも俺のとは別格だな……」


ヴェンは少し驚いていた。まさか彼女が紅茶をここまで好きだなんて思いもしなかったのだろう。


「う、美味ぇよ!お前、喫茶店やれるって!」


「そ、そう?じゃあ世界が平和になったら考えとこっかな?」


ルナは少し笑顔でそう答えると、もう一個ティーカップを取り出し、注いだ。


「ほら、ロランも飲んでみて。美味しいよ?」


そう言いながら、テーブルの上に淹れたての紅茶を置いた。


ロランは少し躊躇していたが、やがてゆっくりとテーブルの上のカップを手に取り、中の橙色をした液体を少し啜った。


「………お、美味しい。」


「本当!?良かったぁ。」


「うん……こんな美味しいもの飲んだの初めて……」


ロランは覚束無い手でティーカップを持ったま、紅茶に映る自分の顔を見つめていた。



ヴェンとロランが紅茶を飲み干した直後、丁度アルが帰ってきた。


「おかえりー、どうだった?」


「いや、闇の世界に関する事はどの本にも載ってなかったよ。でも、考えてみればおかしいんだ。皇帝がシュヴァルツになってからは光の世界(こっち側)との交流は増えている、資料がないってのはあり得ないだろ。」


言われてみればそうだ、この世界では、街同士の小さな交流ですら、必ず記録が付く。闇の世界との交流という大きな事ならば、尚更記録が付いているはずだ。


「リヴォルトが現れたせいね。」


「リヴォルト?」


突然のロランの発言に、全員の視線が彼女へと集中する。


「皇帝シュヴァルツに唯一反逆していた能力者よ、奴は他の国の人達を洗脳して戦わせ、シュヴァルツを倒そうとしていたらしいわ。そして、計画が発覚してから約十日後にシュヴァルツは消息を絶ったらしい。」


最後の言葉で、場の空気が暗転する。


「その話は…どこで?」


闇の世界(向こう)にいたときにたまたま聞いた話よ、今はリヴォルトも行方がつかめてないし、皇帝も別の人が継いでる。」


「じゃあ、やっぱり闇の世界に行けば何か分かるかも。」


「でも、行き方が分かんねぇんじゃ…」


ヴェンが話を振り出しに戻しかけたその時―――


「行ってみる?闇の世界に。」


ロランは不気味な笑みを浮かべながら言った。何気に、彼女が感情を表に出したのは初めてではないだろうか。


「行けるのか!?」


ラロノス今までで一番驚いた声を出した。


「勿論、どうやって向こうからこっちに来たと思ってるの?」


「言われてみれば…そうね。」


ルナは深々と納得した。来ることが出来るなら、帰ることも出来るはずだ。


「じゃあみんな、外に出て、広い場所が必要なの。」


ロランがそう言うと、五人は家を出て、街の近くにある草原を目指した。



目的地に辿り着くと、中心にロランが立ち、周囲を他の四人が囲むような形に並んだ。


ただ一人、ロランのみあの鎌のような形状のエレメントソードを召喚し、魔法を詠唱する為の準備をしている。


「じゃあ行くよ、準備はいい?」


「ああ、いつでも構わねぇ!なんせ最初から行くって覚悟は決めてたからな。」


「うん、みんなで世界に調和を取り戻そう!」


ヴェン、ルナの声からは、恐れなど微塵も感じられなかった。


そしてロランは、エレメントソードを地に突き刺しつつ、詠唱を開始した。


「この世界を統べし者よ、暗く、深く、漆黒に染まりしかの地へと、我らをいざないたまえ!」


その瞬間、彼女を中心に赤黒い魔方陣が展開され、赤い光が周囲を染めた。


「みんな、転移するよ!早くこっちに来て!」


真っ先に飛び込んだのはヴェンだった。次いでラロノス、アルと続き、残されたのは二人の少女のみとなった。


「……大丈夫、だよね?」


ルナはまだ不安が残っているらしく、声が震えていた。


「危ない場所じゃないわ、必ず戻ってこれる。」


「…うん、分かった。」


最後は二人一緒に魔方陣へと飛び込んだと同時にそれは消え去り、辺りは何事もなかったかのように静かになった。


―――この薄暗い世界にも、生きる人々がいる。


上級の「能力者」によって統治され、人々は過不足なく生活を送っている。


そして、この国のシンボルは、やはり巨大な城だ。ここに、この国を治める「皇帝」が住んでいるという。


すべての国が、独立して出来ているこの世界。


それがここ、「闇の世界」だ―――



転移してきた瞬間の記憶は曖昧で、気づけば闇の世界に居たという感覚だった。


「ここが……闇の世界……」


ルナは辺りを見回してみる。


空は異変の起こった時に発生したものに酷似している赤黒い雲に覆われており、周囲は赤い土の上に見たこともない植物が大量に生えていた。


「案外、街は平和そのものよ……リヴォルトが現れる前まではね。」


ロランは、いつも通りの冷たい目付きのまま、最後のみ声のトーンを落として言った。


「とにかく、急ぐぞ。街まで行けば、何か分かるかもしれない。」


「そうね、みんな、付いてきて。」


アルに促されて、ロランは再び先頭に立ち、街へと向かった。


反逆者(リヴォルト)に怯える街へ―――









夏風邪怖い!ペンと申します。

一応、寝ながらノートに書いてはいたのでそれをもとに投稿していきます。

さて、いよいよ闇の世界突入です。果たしてこの世界での出来事が、ルナ達にどう影響するのか、お楽しみに!

今後もElement Swordの応援、よろしくお願いします!

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