出会い系サイトで出会った女の子と仲良くなる話
午後の渋谷、人混みの中、僕は待ち人を探す。
辺りを見渡したあと、古い鉄道のオブジェに寄りかかっている女性に声をかける。
「あの..サナさん..ですか?」
彼女は戸惑う様子もなく
「もしかして、タイラさんですか?」
答えを聞いて不安の解けた僕は、声色を明るくして
「はい、そうです。よかった間違えじゃなくて。」
と返した
僕は先日、ほんの気まぐれで出会い系アプリに登録した。好きな漫画の作者をプロフィールに書くと。サナさんから連絡が来て、話してみると馬が会い、今日改めて直接会うことになった。
「とりあえず喫茶店でも行きましょうか」
駅から少し歩いた喫茶店で、空いていた窓際の席に座り、僕はコーヒーを、彼女はアイスティーを注文した。
そのあと、好きな漫画の話や、友人の話、簡単な身の上で盛り上がった。
ひと段落つくと、僕はおもむろに語り出した。「僕は別に、やましい願望があってこのアプリに登録したわけではないんです。」
「はい、それは聞いてます。」
「まして恋人が欲しいわけでもなく」
「『価値観の合う人』が欲しかったんですよね」
言いたかったことを言われてしまい、ぽかんとしていると
「だってタイラさん、それチャットで前にも言ってましたよ」
ああ、そうだった。それにしてもよく覚えているものだな
「私もそんな感じなんです。周りにはあの漫画を読んでる人なんていないし、何よりみんな軽いんですよね。なんていうか物事の考え方が。なんかもうウンザリしちゃって」
続けて
「でもタイラさんはそこら辺合格です、流石あれを作者で推してるだけあります。なかなかいませんよ、そんな人」
「サナさんだって、別にあの作品だけじゃないじゃないですか。それどころか、もしかして僕より読み込んでるんじゃないんですか?」
サナさんは小さく笑って、
「そんなことありませんよ」
と、嬉しそうに謙遜した。
その後、どうするか話し合いになって、サナさんが突然「海を見に行こう」と、言い出した。流石に驚いたが、別に嫌では無かったのでそうすることにした。
と、言ってもこの時間から観光地の海になど行けるわけもなく、一時間とかからない舞浜に行くことになった。
駅を降りて、遊園地に騒ぐ学生たちを横目に、僕らは遊園地の外周を歩き始める。
本格的に海が見えると、東京湾と言う名前からは想像もつかない大海原に思わず感激の声が漏れた。
「すごい、綺麗ですね」
彼女が言う
「はい、来て正解でした」
壮大な景色に年甲斐もなく騒ぎながら、防波堤沿いの遊歩道をしばらく歩いていると、時間が経ち、いつのまにか夕暮れにさしかかっていた。
「夕日綺麗ですね」と彼女が言う
「そうですね」と答える
少し沈黙が続き、また彼女が口を開く
「あの漫画家なら、こう言う場面で、さらっと告白するんですよね」
「いいですよね、ああいうの」
「憧れです」
少しの沈黙が流れ、防波堤の向こうの景色は、夕日の半分が沈み、世界の果てまで紅く染まっている
「キスしても、いいですか?」
僕がそういうと、彼女は
「漫画のワンシーンみたいですね」
と答えた。
彼女は僕の首の後ろに腕を回し、そのまま唇を重ねる。
「ほんと、そうですね」
僕は答えた。