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神殺しの剣で神様を殺したら

作者: 江葉
掲載日:2018/03/20

勢いでガッと書いた。こういう薄暗い話も好きです。


 大古、神々は世界を創りました。

 思いのままに生物を造り、それぞれに合わせて環境を整え、そして、最後に神に似せた『人間』を造りました。

 ひととおりの創造を終えた神は天上へと還る直前、人々に剣を渡します。


『この世が長く続けば必要のない神もでてくるでしょう。その時はこの剣で神を殺しなさい』


 ただし、一度だけ。

 神殺しの剣が殺せる神は一柱のみ。

 たった一回だけの、許しでした。





 さて神々の想いの通り、人とその他の生物は様々な進化を遂げ、平和を満喫していました。人は栄え、国を作り、王様に統治してもらい概ね満足です。

 そうすると、やはり問題は『神殺しの剣』です。

 各国の王様たちは時々会議を開いてどの神様を殺すべきか相談しました。しかし何回やっても結論はでません。どの神様も人と生物にとって必要な神様だからです。


 太陽の神様は恵みをもたらしてくれます。

 月の神様は休息を与えてくれます。

 大地の神様は豊かさを与えてくれます。

 水の神様は渇きを癒してくれます。

 炎の神様は文明を授けてくれました。


 神様は他にもたくさんいますが、どの神様がいなくなっても困ります。

 王様たちは何度も会議を開き、問題を先送りにしていました。



 ある時です。魔王を名乗る者が突如現れ、世界を破壊しはじめました。

 長年平和だった国々は窮地に陥りました。なにせ相手は魔王です。そういった物語は人気がありましたが、本当に現れても困ります。『神殺しの剣』などに頭を悩ませている場合ではありません。

 魔王とは何者かと調べてみると、どうやら人と魔物のハイブリット進化のようです。突然変異で生まれた魔王は人々に虐げられ、悪意の塊になってしまったのです。

 それはそれで気の毒ですが、八つ当たりの結果で何の罪もない人々が犠牲になるわけにはいきません。王様たちは同じようにハイブリット進化で生まれた者がいないか探させました。

 魔王の脅威が迫る中見つけたその子は、魔王とは違って人々から守られていました。虐待と溺愛は紙一重ですが差別という点では同じです。向けるベクトルが真逆なだけです。

 王様たちの会議の結果、その子には勇者になってもらうことにしました。

 人々から守られていた勇者はそれで恩返しができるなら、と旅立つことを承諾しました。一人では危険だと、各国から魔法使い、騎士、僧侶などが勇者と共に魔王討伐に向かいます。

 勇者一行は各地で魔王の蹂躙を目にすることになりました。壊された家、焼き尽くされた田畑、腐った川、そして、無残にも殺されてしまった人々。怒りを堪えて進みます。


 長い長い旅の末、ようやく魔王を倒した時、世界は疲弊しきっていました。


 王様たちは勇者一行を褒め称えてくれました。旅立つ時には若々しかった王様も、長い月日の間に国民たちと苦労を共にし、頭には白いものが目立つようになり顔に皺もできました。それでも生き残った者たちともう一度世界を立て直そうと決意していました。

 勇者以外のメンバーはそれぞれ国に帰ることになりました。国に帰り復興の手伝いをしなければなりません。

 勇者は、しかし故郷に帰ることを望みませんでした。

 勇者は知っていました。自分が魔王と同じであること。魔王が滅びた今、次の魔王になるのではないかと王様たちが疑っていること。故郷に帰るために一人になったらきっと殺されてしまうでしょう。

 だから勇者は言いました。


「神殺しの剣を頂きたい。私はその剣で、死神を殺します」


 死神はその名の通り、死を司る神様です。息絶えたすべての生命の魂を刈り取り、天へと還す役目を持っています。そうして再び魂は循環し、生まれてくるのです。

 しかし今は緊急事態です。なにしろすべての国でほぼ国民は死んでしまっています。復興するには長い月日がかかるでしょう。

 王様たちは会議を開きましたが、死ななくなるという話はとても魅力的でした。不老不死はこの世界でも強力な誘惑です。

 王様たちは勇者に『神殺しの剣』を与え、死神討伐を命じました。

 再び人類の希望を託された勇者は、誰にも殺されることなく無事に死神の元に辿り着きました。

 話は死神にも伝わっていました。死神は覚悟を決めた目で勇者を見つめます。

 最期に死神は問います。


「勇者よ、本当に我で良いのだな?」


 勇者は答えました。


「はい。もう私にはこれしか方法がないのです」


 人々に虐げられ、いずれ魔王になってしまうのなら、人を怨まずにすむようにしたいのだ。勇者には愛された記憶がありました。それを壊したくなかったのです。

 そうか、と言い、死神は『神殺しの剣』に貫かれて死んでいきました。


 『神殺しの剣』は死神を殺した後、砂のようにサラサラと砕けて消えてしまいました。





 魔王と死神を殺した勇者は故郷に戻り、復興の手伝いをしました。誰も彼を虐げませんでした。やがて勇者は恋をして結婚し、子供が生まれ、その子が大人になった頃、ようやく一息つけるくらいにはどの国も立て直っていきました。

 時は流れます。

 誰も死にません。

 勇者の子が大人になり、結婚し、子供が生まれました。その子も大人になりました。

 誰も死にません。

 どこの国でもすっかり国力は回復し、平和になりました。

 誰も死にません。

 勇者はおじいちゃんになりました。王様もおじいちゃんになりました。

 王様が死なない限り王子様は次の王様になれません。王子様もやがて年老いておじいちゃんになっていきます。

 勇者に痴呆の症状が現れました。王様はもう誰の話もわかりません。

 誰も死なない国では、ある問題が発生していました。

 人口の増加で人の住む土地がなくなってきているのです。

 若者は結婚して子供はどんどん増えていきます。大人になっても年寄りになって足腰たたなくなって寝たきりになっても、誰も死にません。

 年老いて寝たきりの勇者はもう食事を与えられなくなりました。孫もひ孫もそのまた孫も、ただ場所をとるだけの勇者を邪険に扱います。

 勇者だけではありません。王様も他の年寄りたちも、若者に邪魔もの扱いされています。もう何もできないのに、ただ生きているのです。

 王様になれない王子様達は会議を開きます。死なない年寄りをどうするべきか。いっそのこと一箇所にまとめて捨ててしまうという案もでましたが、そうしたら次は自分たちが捨てられてしまいます。庶民の間ではすでに捨てられる年寄りがいるようですが、国が認めるわけにはいきませんでした。

 海を埋め立て、山を削り、なんとか人の住む土地を増やしました。死のない世界は動物や魔物にも適用されています。行き場のない動物たちが街をうろつきはじめました。中には食べかすとなった豚や鶏などもいますが、それでも生きています。骨だけになったものや丸焼きになったそれらがよたよたと歩く姿は不気味でした。食べられなかった内臓が這いずっている様はもはやホラーです。夜中にうっかり目撃してしまった子供が大泣きするありさまです。


 それでも誰も死にません。


 死ななくても時は刻まれていきます。


 『神殺しの剣』で死神を殺した勇者は今日も祈ります。


(ああ、神様。お願いですもう――)


 死なせてください。





『神殺しの剣』

人が神を殺すか殺さないか試すために神様が贈った剣。一度だけ殺せるけど生き返らせることはできない。ずっと使わなければ何の問題もなかった。


魔王

人と魔物のハイブリット進化体。見た目は人間の女の子。周囲の人々からさんざんな扱いをされたためぶちぎれてやり返す。本当なら勇者と出会って同じ境遇ってことで意気投合、恋に落ちて結婚して完全進化の子供を産んでその子が次世代の人類になるはずだった。かなしいね。


勇者

人と魔物のハイブリット進化体。見た目は人間の男の子。周囲の人々から『人と違う』ということを隠されて育つ。恩返しに魔王を倒したけど「次はお前だ」の気配を察知してなんとか回避に成功。いい加減死にたい。


王様たち

会議ばっかりして何も決められないよくある王様。魔王倒してもらったけど勇者も怖くね?を悟られてしまいうまうまと『神殺しの剣』で死神を殺させてしまう。いい加減引退したいけど死ねないからできない。その前に法改正しとけば良かったのに。権力は蜜の味ですね。


人々

ほとんど人任せにしてたら死なない体になった。最初ハッピーのち地獄。老老介護まじつら。


神様

世界を創ったはいいけれど、ずっと面倒は見てられません。自立してねと放り出した。死神が殺された時はやっぱこうなったかーと思った。誰を殺しても破滅。


死神

知ってた。から、何も忠告せずに死んでいった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 不死のあふれる世界……人間性を捧げる感じですかね。 あっちの不死は死んでもいつの間にか生き返ってて、死ぬたびに人間性と呼ばれるヒトがヒトとして存在するためのナニカを失っていき、最終的に亡者に…
[一言] 私も神を殺せる剣があるとしても「誰か一柱殺しなさい」とは言っていないのに。まぁ、当然ですよね。 「終わりが無いのが終わり」って某漫画でもあったけど一番残酷なやつだね。 でも、殺したのが疫病…
[気になる点] 誰も死ねない……つまり肉を食べるときは生きたままの動物を解体してエンドレス踊り食い?
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