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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ピエロは涙を許さない

前に書いた異世界転移の話が絶望的なまでに黒歴史だったので、ちょっと変えて短編に書き直し。




暗い夜道の中、少女は駆ける。


既に夜は更け、頼れる光は薄い月明かりのみ。人々は家へと帰り寝静まった時間だというのに、一心不乱に少女は駆ける。


「おいおい。逃げる事ねぇじゃねぇかよ。早く諦めた方が楽になれるぞ?」

「ヒヒッ、ありゃガキにしちゃ上玉の方だ。売り飛ばせば高く売れるぜ!」

「頭ァ。ダメですぜ怪我させちまったら。久しぶりに割のいい仕事なんスからね」


少女の後ろには欲望に濁った目で迫る数人の男達。彼ら人さらいは必死に逃げる少女を追うのを楽しみ泳がせていた。


「もう少し。もう少しで助かる筈だから……!」


少女は息も絶え絶えになり、遊ばれていることすら気付かずに一心不乱に走り続ける。

しかし、少女の逃げる方向は大通りから外れた更に暗く薄汚れた裏道だった。そんな場所に逃げた所で自身の逃げ道を減らすだけだった。

「嘘……行き止まり……」

案の定、行き止まりに落ち入り人攫いの集団に囲まれてしまう。

「へへへ。もう逃げ道はねぇぞ。おとなしく捕まれば痛い目は見なくて済むぞ」

「ヒヒ。ヒヒひ、金、金、金だぁ! 久しぶりに大金になりそうだぜ!」

「まぁ待て。どうせ誰も来やしねぇ。少しくらい楽しんでからでもバチは当たらねぇだろ」

「い、嫌……いやぁ!!」

おびえる少女ににじり寄る男達。だが、その中に1人だけ少女以上に怯える者がいた。

「か、頭。ヤバいですって。こんな月夜に裏通り。もしも噂どおりなら……。悪いことは言わねぇ。直ぐに帰った方がいいですぜ!」

その男は、何かに怯える様に進言する。だが、頭は呆れて言い返す。

「何言ってんだ。こんな裏通りだぞ。ちょっとくらい楽しんだところで誰も来ないだろ」

「ち、違うんだ。こんな裏通りだからこそ、奴が、奴が来るって噂が…!」


そんな話を聞き流しながら、少女の手を掴む人攫いの頭。ニタニタと情欲を隠す気もなく、少女の服を剥こうとする。


「ごめんなさい。もう、逃げません。大人しくしますから、いう事聞きますから、それだけは、それだけは……」

「へへ。やっと言う事聞く気になったな。なら命令だ。大人しく俺らの玩具になってればいいんだよ!」

「そんな……」


頭の無慈悲な命令が下され、少女は絶望に顔を歪める。もう助からないと涙を流したその時、


プピューっと、調子の抜ける笛の音が響き渡った。


「あぁ? なんだこんな時に。っち。お前ら。始末して来い」

「あぁああぁあぁあ。ダメだダメだダメだ! ほんとに、ほんとにきちまった!」


先の怯えた男が笛を聞いて叫びだす。煩わしく思う頭だったが、念のために男を胸ぐらと掴んで問い詰める。

「おい。さっきから何騒いでやがる。噂だのほんとに来ただの。このへたくそな笛がどうしたってんだ?」

「か、風の噂で聞いたんだ。盗人や腐れ貴族に向けた吟遊詩人の語り唄。空気の淀んだ月の夜。悪党外に出ちゃならねぇ。稼ぎ時の夜だって、笛の音響けばお終いよ。皆揃って地獄行きって。もうダメだ。ホントに笛がなったんだ。俺たちはもうお終いなんだぎゅぺっ!?」


泣き叫ぶ男を邪魔だと切り棄てると、頭は手下たちに警戒を促す。プピーぷぴゅ~と、笛の音が鳴りやむと、裏通りの奥から誰かが出てきた。

「これはこれは、皆さまごきげんよう。今宵は良き月の夜。酒でも飲むには絶好の日ではございませんか? どうしてこのような場所にいらっしゃるのでしょうか?」


その人物は、派手な赤や青といった派手な色彩の衣装を着た道化師然とした青年であった。丁寧な口調に穏やかな笑みを浮かべる彼はどこかの貴族や聖職者、大商人の息子といっても通じるような誠実さを感じさせた。

だが、この場において場違いな事に変わりはない。人攫い達は視線だけで意思疎通を計るとその青年を取り囲んだ。


「おや? どうしましたか? そんなに血走った眼で見つめて。ワタシには男色の気も野外で行う様な趣味もございませんよっ!?」

「うるせい」


ドス、と。囲む男たちの一人が青年を刺し殺す。少なくない血が地べたを染め上げ、青年は倒れ込む。あっけない幕引きに拍子抜けした頭は少女へと意識を向ける。


「頼みの救世主さまが来たかと思ったか? 残念だったな。お生憎様、ゴミみてぇな糞雑魚だったみたいだぜ?」


頭は少女の恐怖を煽るように嗤う。しかし、少女の顔には恐怖の色はなく、ただ目を丸くして驚いている様子だった。不審に思って振り返ると、


そこには血塗れで一人たたずむ青年の姿があった。


「な?! なんだ? 俺が目を離したのはついさっきだぞ!? なんで俺の手下が死んでんだ! 殺されたのはてめぇだっただろうが!! てめぇ。何をした? いや、何モンだ!?」

「剣を刺されるなんて日常茶飯事でしてねぇ? この程度些細なことなのですよ。そんな事よりも……レディに手を出すとは、不届き千万。いけない事だとは思いませんか?」


頭の背中に滝の様な冷や汗があふれだす。さっきまでは全てが上手くいっていた筈なのに、手下は皆殺され残るは自分一人。しかもそれらの原因は目の前のふざけた格好の男一人。まるで悪い夢でも見ている気分だった。


「女性の尻を追いかけるも結構。ナンパも口説くも大いに結構。でもね。泣かせるのは違うでしょう? それどころか無理やりに誘拐強姦などと……私はねぇ、女性を泣かせる下郎が大嫌いなのですよ。」


血に塗れなお穏やかに笑う彼の目には、確かな狂気があった。言い様もない恐怖を感じつつ、どうにかして逃げられないかと辺りを探す。



「逃げ道を探しても無駄ですよ。どうせ今までもこのような事をして甘い汁を啜っていたのでしょう? そろそろ夢から覚める時ですよ」


「う、うるせぇ! お前さえ、お前さえどうにかしちまえば何とでもなるんだ! どうせ死んだふりでもして不意打ちしたんだろう? 俺はそんな手には引っかからねぇからな!」


手にする剣を乱暴に振り回しながら切りかかる人攫いの頭。しかし青年は瞬き一瞬すら許さない速さで剣を避けると、何処からか取り出した小さな短剣で心臓を突き刺した。頭はそのまま、何がどうなったのかすら分からないままに意識を手放した。



「お怪我はありませんか? 小さなレディ」

「は、はい」


青年は少女に優しく手を差し伸ばさす。しかし、困惑する少女は手を掴むことも払いのけることも出来ず、ただ茫然と見つめる事しかできなかった。不思議そうな様子の青年だったがはたと何かに気付いた様子を見せる。


「? あぁ! これは大変失礼しました。こんな汚れた格好で手を伸ばされても困りますよねぇ。配慮が足らずに申し訳ない。では・・・こちらをご覧ください」


先ほどの短剣同様、何も無い筈なのに何処からともなく今度はマントを取り出すと自身の身を包み込む。そして「3,2,1……ハイ!」と合図と共にマントを取り払うと返り血などなかったようにきれいなタキシードへと変わっていた。続けてパチンと指を鳴らすとその手の中には赤い薔薇の花が握られていた。膝をつき少女と同じ目線となってその薔薇を捧げる。


「さぁ、これで格好は上々。お嬢さん。悪い夢は全てこの道化師が壊してしまいした。涙を拭いてどうか笑ってくださいな」

その一言で少女は顔を赤らめうつむいた。




「ところでお嬢さん。貴女のお家は何処にありますか? 送りましょうか?」

「……無いんです。私は両親と一緒に旅をしながら商いをしていたんですが、この町に来て大きな赤字を抱えてしまったらしく……。口減らしを兼ねて捨てられてしまいました」


人攫いから助けてもらっても行くところがないと悲しげに自嘲する少女。それを見て青年は穏やかに問いかける。


「どうしたいですか?」

「……え?」


「ワタシは貴女を両親の元へ返すことも出来ますし、行きたいところへ連れて行ってあげることも出来ます。……ですが、もしも貴女がよろしければワタシと一緒にきますか?」


「ワタシは女性を泣かせる事や痛めつける事は大嫌いですが、人攫いに関してはよそ様を悪く言える身分では無いんですよねぇ」


「もしも共に来るのなら、少なくとも今よりは悲しい涙だけは流させないことを誓いますよ」


「……もし両親の所へ戻っても、また赤字を抱えれば捨てられると思います。だから、お願いします。どうか私を攫ってください!」


少女の願いを聞き、青年は……いや、道化師は楽し気に笑った。


「わかりました。貴女の願い。叶えましょう!」


少女は道化師と契約を交わした。





~~~




「あの、ここは……?」


少女が連れられた先は町の外。それも町からかなり離れた場所だった。


「ふふふ。何も怖がることはありませんよ。何もとって食べる訳ではありません。ただ、町の近くにいるにはワタシの団は目立ってしまうのでね。敢えて離れたところにいるのですよ。こんな感じにね」

「え? ……あっ!!」


道化師が指さした先には、2階建ての家屋を有に超えるほどの大きなテントが建ってあった。驚いた顔を見て楽し気に手を引き、テントの中へと招き入れる。


「む、後輩の癖に、生意気。避けちゃ、ダメ」

「にょわ~! 避けなきゃ死んじゃいますよ~!!」


「姉御! 掠ってる! ちょっと掠ってますって! なんで追加でナイフ投げるッスか?!」

「ゴチャゴチャうるせー! 黙って的になりやがれ!」


「うるさいの~。もう少し静かに出来んのかえ。これでは昼寝もできぬではないか」


無表情の少女が鼠の獣人へ炎や氷といった魔法を放ち、大きな円盤に縛り付けられた兎の獣人に向けて勝気な少女がナイフを投げつける。そしてその奥では大きなドラゴンが横たわっており、その場は大騒ぎとなっていた。

道化師は少女の前に立ち、手を広げおどけた様子で宣言する。


「ようこそおいで下さいました。町から町へと渡り歩き、舞台公演をして稼ぐ。魔法狂いのマジシャン、ドジッ娘曲芸師に、血の気が多いナイフ使い! 更には引きこもりのドラゴンと、個性的なメンバー揃う。【仔羊のサーカス団】へようこそ! メンバー一同、心より歓迎致します!!」


そう言った瞬間後ろから道化師へ向けてナイフや魔法が降り注ぎ、一言余計だと騒ぐ声。ボロボロになりつつも姿勢を正し、何事もなかったかのように話を続ける。


「コホン。申し遅れました。ワタシは座長兼道化師を務めさせて頂きます。団長のジャックと申します。以後、末永くお見知りおきを」




表向きは世界を股にかけるサーカス団。裏では悪徳商人や貴族を暗殺し、恵まれぬ少女を誘拐する犯罪集団。彼らの噂は密かに広まっていく。月夜の晩。涙を流す少女の元へ訪れる若き道化師の噂と共に。





ピエロは涙を許さない。泣かせる輩は切り殺そう。おどけたピエロが切り殺そう。








納得のいく続きが思いついたら長いの書くかもしれません。

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