8
「困った」
チャチャと別れたばかりなので、これからジャックと渡りをつけるわけにはいかない。
なんだか自分が聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。
まずあの男の言ったことは本当だろうか。
「がっつり尾行されてたから、あの男との話、聞かれてたよねえ」
教えてあげるたくともそのタイミングがつかめず黙って話を聞くばかりになってしまった。
「どうしよう」
あの男の話が本当なら、本物の朱雀夢子は生きていることになる。しかし、その話をするわけにもいかないし、ライムが言ったところで彼らが信じるとも思えない。
「しかし、そんなに似てるかね」
おそらくあの男は本物の朱雀夢子の顔を知っている。その夢子とライムは似ているのだろう。本当の夢子も母親似なのだ。
「なるようにしかならないか」
もしかしたらこの家に戻るより、ただの孤児として一生を終えるほうが幸せかもしれない。
ライムはそれ以上考えるのを放棄して、封筒を開けた。
そしてさらに訳が分からなくなった。
「なんだって月子は」
親の敵と結婚。正確にはその息子だが。
月子との結婚は当然いろんな反対があったはずだ。朱雀家当主夫人の座を狙う者たちも含めて。
「じゃあ、やっぱり月子は朱雀家の人間に殺されたのか」
あの男の話を聞いた時から薄々感じていたことだが資料を見て確信した。
だから主犯は捕まってないのだろうか。
そして昭仁はそのことを知っているのだろうか。
「知ってそうだな」
ライムはあの食えない笑顔を思い出す。
「このままじゃ動けない、あいつ何してんだ」
うつむいたままライムはジャックを罵った。
翌日やっとジャックはやってきた。
スーツを着て、髪を整えれば結構ジャックは堅気に見える。最近は泥棒もスーツ着用だそうなので、それはいい。
「差し入れです」
そう言って渡されたのは携帯小型テレビ。
この部屋にはテレビはない。居間らしい部屋にはおいてあるが、そこに行くのも気苦労だ。
そんな苦境を救ってくれるものを用意してきたというわけだ。
「ありがとうございます」
それだけ言うと、ライムはコンセントにつないだ。
充電可能な持ち運び可の代物だ。
そしてそれだけではない。内部に月兎特性の盗聴器と、無線電波を傍受する仕組みが入っている。
どういう仕組みなのかライムは知らない。とにかくこれがあればそういうことができるというだけだ。
朱雀邸でこれをもって歩き回る。それだけで情報収集ができるわけだ。
チャチャはシスターの格好をしている。しかし挙措が違う。
清楚でたおやか。
「何あれ」
「狩り」
ジャックはそれだけ言うと、そっとあちらを顎でだけ示す。
見知らぬ男が歩いてきた。
仕立てのいいスーツに銀縁眼鏡のその男にチャチャはとびっきりの笑顔で笑いかけた。
チャチャの本業は結婚詐欺だ。
ハニートラップ作戦を開始したらしい。
狩りの時、チャチャは別人と化す。ありえない男性の理想像を体現している女性に成りすますのだ。
それも相手に合わせて微調整すらやってのけるのだ。その女子力はライムの遠く及ぶところではなかった。
仕事も佳境に入ってきたようだ。