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7

 翌日、心配だからちょっと顔を見せろとチャチャから連絡が入ったとそれだけ言ってライムは朱雀邸を後にした。

 待ち合わせはシックな喫茶店。

 こういう古風な喫茶店がまだ生き残っていたとはとライムは驚いた。

 チャチャはすでにシスターの変装で、ライムを待っていた。

「大丈夫でしたか、夢子さん」

 ああ、この呼び方嫌いだ。施設でつけてもらった名前も嫌いだったけれど、今の名前のいたたまれなさはいったい何?

 そんなことを思いながら、適当にお茶を頼んだ。

 チャチャは持っていたバックからそこそこ厚みのある封筒を取り出した。

「これはお母様の資料です」

 受け取った封筒の陰に隠れてポケットからメモ帳を取り出し、付属の小さな鉛筆で書きつける。

『尾行されてる』

 チャチャは声を出さず唇だけで了解したと伝える。

「そういえば、お父様が中東でもめてるって何かしら」

 なんとなく適当なことを言ってみた。

「ああ、そういうことは気にしないほうがいいですよ」

 見事に心のこもっていない会話を続ける。

 適当に会話をし、書きつけたメモはチャチャが自分のポケットにしまう。

 お茶を飲み終わったら会見終了。二人はそのまま喫茶店から出た。

 やっぱりチャチャのシスター姿は様になっていないなと思いながら、再び朱雀邸に戻ることにした。

 不意に背後に気配を感じた。尾行している人間じゃなく、まったく別の人間の気配だ。

 肩をつかまれそうになってとっさに体をひねる。

「誰よあなた」

「お前、戻ったのか」

 見知らぬ男がライムを見ながらそう言った。

 ざっとその男の容姿を確認する。

 薄汚れている。下手すれば浮浪者一歩手前、歳はたぶん四十近い。

 身長は高いがかなりやせ細っている。顔立ちはちょっととがり気味。

 それだけを一瞬で見て取った。

「戻ったって何?」

「自分の家にだ、お前自分が誰かわかったのか?」

 もしかしてこの男、本物の朱雀夢子を知っているのか?

 ライムの背中に緊張が走る。

「そうだ、俺がお前を知り合いの施設に預けたんだ。あの女から取り上げて」

「あの女って、朱雀月子?」

「そうだ」

 おいそれじゃ、誘拐殺人事件の犯人だって断言してるよこの人。

 お巡りさんこいつです。

 そう叫びたい衝動をライムは必死にこらえた。

「なんで、殺したの?」

 多分こう聞くのが自然だよなと考えながら呟く。

「それは、知らない、俺は当時下っ端だったからな」

 どうやら雇われていただけのチンピラだったらしい。

「が気を処分しておけと言われて、困った俺は元いた施設の院長に頼んだんだ、捨て子として預かってくれってな」

 そんなこと自分に言われても困る。そういうことは本当の朱雀夢子に言え。

 いうに言われずライムは黙ってその男の話を聞いていた。

 話を聞いているうちに朱雀家の誰かが、月子を売り渡したらしいことは薄々感じ取れた。

 チャチャから受け取った封筒が妙に重い。これに何が書かれているんだろう。

「あの女は奇妙な女だった、これから殺されるっていうのに薄笑いすら浮かべて妙なことを呟いていた」

「みょうなこと?」

「くすむものは見られぬだったか、それからあとは忘れた」

 その言葉の意味はライムにはわからない。

「それでも、赤ん坊は助けるとこっそり俺が言ったらあの女はほっとした顔をした、それがあの女の人間らしい顔を見た最初で最後だった」

「どうしてそんなことをしたの?」

「赤ん坊が生きていると知られたら、またあの連中が殺しなおす。それくらいなら家に帰れなくても生き延びたほうがいいだろうと思ったからだ」

 赤ん坊殺しになりたくなかった。それがその男のなけなしの良心だったらしい。

「もういいわ、好きに生きたから。あの女はそうも言っていた」

「好きに生きたか」

 それにしても高々三十年足らずでもういいという人生って何なんだろう。

 その半分も生きていないライムにはわからないことだろうか。


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