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3

 翌日、チャチャはシスターの格好をして現れた。

 ライムがいた養護施設の職員という設定らしい。

 確かにシスターならその金髪も隠せるし、国籍についても問題ないだろう。

 それに、身元についてはハッカーをやっている知り合いに適当なカトリック系の孤児院の職員名簿をごまかしてもらったと言っている。

 紙の名簿じゃなくなってこんな時は便利だとチャチャは笑った。

「新藤さんは?」

 ジャックの偽名を口にすればチャチャはそっと耳元で囁いた。

「事件のことを調べている」

 事件というのは朱雀月子誘拐殺人事件のことだろう」

「後で夢子にも資料を渡すってさ」

 万が一声を録音でもされたら目も当てられないので、チャチャはライムのことも夢子と呼ぶ。

 事件の資料を渡すという行動はぎりぎり不自然ではないだろう。

「じゃ、また来るね」


 早朝から詩子は襲撃してきた。

「夢子さん、お買い物に行きましょう」

「詩子さん、こんな時間に開いているお店なんかないと思いますが」

「あら、開けさせればいいのよ」

 ケロッとした顔で詩子は言い放つ。

 さすが朱雀財閥のお嬢様といっていいのか?

「冗談よ、まず朝ご飯を食べてからね」

 そう言って、寝巻のままのライムを引きずり出す。

「ああ、そうだ、進学についてはきちんとわかってからということであなたには家庭教師が付くそうよ」

 言われた内容にライムはかすかに緊張した。その家庭教師も監視役の一人だろう。


 開店一番で、デパートに入る。いかにも管理職な中年男が腰を下げた姿勢で迎えてくれた。

 今まで近寄ったこともない高級品ばかりを並べられた店内を散策する。

 あちこちに白い手袋が置かれ『商品に触れる際には必ずご着用ください』と記されている。ガラスケースのそばにはなんだか目つきの鋭い男が、そっと寄り添っていたりする。

「あの、詩子さんはよく来られるんですか」

「いいえ、あまり、私何かほしければメーカーに注文するから」

 詩子の私物は一からオーダーメードで一点物ばかりなのだという。

 どれだけの散財か考えたくもない。

「夢子さん、あなたは私の妹なのでしょう、お姉さまと呼ばないの?」

 にっこりと笑っているが目が笑っていない。

「申し訳ありません、詩子お姉さま」

「疲れたわね、喫茶室でも入りましょうか」

 さして歩いていないのに詩子はそんなことを言い出した。

「はい詩子お姉さま」

 自分に買えそうなものは一つもないと判断したライムは素直にそれに従った。

 小さなテーブルに向かい合わせに座る。メニューを見てもよくわからないので詩子の注文するものをそのまま同じものをと頼む。

「詩子お姉さまはお母様のことを覚えてらっしゃいますか?」

 不自然にならない会話、と考えた結果、朱雀月子の話題になった。

 誘拐殺人事件の被害者という以外ライムは月子のことを知らない。

「私もあまりお母様のことは覚えていないわ。あの時私は四歳だった。記憶がはっきりしてくるころだと思うけれど」

 運ばれてきた紅茶に何もいれずに口にする。

 ライムも真似をしたが、強い苦みに眉をしかめる。

「それはウバ茶よ、ミルクと砂糖を入れたほうがいいわ」

 親切にそう忠告してくれてから詩子はつづけた。

「一度だけ、お母様がご飯を作ってくれたことがあったわ、思い出そうとしてもそれくらいしか覚えてないわね」

 かすかに寂しそうとライムは思った。

「ただあの日のことはよく覚えているの、私達はたぶんホテルの中にずっといて、お母様がアルコールランプでお料理を作ってくださったのよ」

「それ、どういうシュチエーションでしょうか」

「覚えてないわ、ただそれだけがはっきり覚えているのよ」

 なんとなく物騒な話なんではないかとライムは思った。

 朱雀家がいろいろと裏方面にも顔が利く家だと聞いたことがあった。

「でも楽しかったの」

 詩子はそう言ってストレートの紅茶を再び口にした。


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