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エピローグ

「いいんですの」

 書斎でくつろいでいる父親に詩子はそう問いかけた。

「何が?」

「夢子さんのことですわ」

 やっと見つかった夢子をあっさりと逃がしてもいいのかと訊ねている。

「まあ、いいでしょう、嫌われても何ですしねえ,それにいいタイミングで見つかってくれましたし」

 柔和に笑った昭仁の目が剣呑な光を放っていた。

「ちょうどよく囮のなってもらいましたし、あの三人も今は助けてあげることにしますよ」

 ライムが何もしなければさっさとあの三人を消していたはずだった。

 しかし行動を起こした以上物事は慎重に進めなければならない。

「まあ、今はいいでしょう、生存が確認できただけで上等です」

「お父様、楽しんでいらっしゃるわね」

 そして書斎に飾られた肖像画を見つめる。

 嫁いだころの月子がそこでほほ笑んでいる。

「本当にあの子は月子さんに似てますねえ」

 あの日、月子はすべてを理解したうえで昭仁の手を取った。

 いずれ訪れる無残な死もその中では想定内のことだった。

「思ったよりも早かったですがね」

 肖像画を保護するガラスケースを指先ではじく。

「まあいい、これからゆっくりと始めましょう」

「そうですねえ、楽しませてくださいな、夢子」

 隠し撮りしたライムの写真を手で弄びながら詩子は笑う。


「いいのかおい」

 運転席でジャックはげっそりとした顔で訊ねる。

「だってあそこ、ご飯美味しくないんだもん、やっぱハンバーガー最高」

 ライムはそう言って遠くを見る。

「適当なところで降りろ」

 月兎が苦虫を噛み潰したような顔で呻く。

「ああ、そんなこと言っちゃうんだ、ほっとけばよかった」

 おってはいない、ある意味最大の人質がいる。

「ライム、本当にいいの?」

 チャチャが真剣な顔でライムの顔を覗き込んだ。

「来てくれてうれしいけど、でも、お金持ちのお嬢様」

 こもったような声でたどたどしく続けようとする。

「あたしはいたい所にいるの、そうすんの」

 ライムはそう言い切った。

 ぱらぱらとめくった梁塵秘抄、その中で一つだけ読み取れた詩を思い出す。

 くすむものは見られぬ、夢の夢の夢の世を

 現顔してなにしょうぞ

 くすんで

 浮世は夢よ、ただ狂え


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