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「見ろこの写真」
一枚の古ぼけた写真を手に一人の男と少女が向かい合っていた。
「なによ、ジャック」
少女はこの男の本名は知らない、時々名前を変えるからだ。だから通り名のジャックとだけ呼んでいる。
多分三十にはまだなっていないだろう。
「なにじゃないよライム、この写真と鏡をよく見比べてみろ」
ライムと呼ばれていた少女も写真を手に取ってみた。癖のある栗色の髪とぱっちりとした目がどこかバタ臭い。目鼻立ちは整っているので西洋人形のような顔立ちだ。
癖のある髪をした自分と同年代の少女の写真だ。しかしかなり古いものなので実際の被写体はもっと老けているだろう。
「誰か、わかるか、朱雀月子だ」
朱雀月子が誰かわからないライムは首をかしげたままだ。
ライムも本名ではない。親の素性すら知らない孤児だったライムは施設で仮の名前を付けられたが、その施設を飛び出して今は適当な通り名だけで生きている。
「朱雀財閥総帥夫人、故朱雀月子、彼女は十五年前当時生後五か月の長女夢子とともに誘拐されて殺害された、死亡が確認されておらず。未だ行方不明扱いの朱雀夢子を探せと今も朱雀財閥は莫大な懸賞金を出しているんだ」
「それで」
「お前、朱雀夢子になれ」
言われてライムは目を瞬かせた。
「どういうこと?」
「そっくりだろう、この写真」
ライムはしげしげとその写真を見た。似ているだろうか、そういえば目元は何となく見覚えがあるような気がした。
「自分じゃ気づかないか、そっくりに見えるがな」
ジャックは写真とライムの顔を見比べた。
「それで、DNA鑑定はどうごまかすの」
「任せろ、俺に伝手がある」
そして、またあの連中を動かすのかとライムはため息をつく。
ジャックとライムはいろいろと後ろ暗い商売に手を染めている。
お互いに素性を語り合ったことはない。とりあえず二人とも日本人だ。わかっているのはそれぐらいだ。
「で報奨金をだまし取るだけ?」
「まさか、朱雀財閥と来ればいろいろと情報をほしがる奴らがたくさんいる。内部にもぐりこめばな」
ジャックはにたりと笑う。