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「ずいぶんと混乱させられましたよ」

 昭仁は腕を組んだ姿勢でライムを見下ろす。

 月兎の攪乱はそんなに巧妙だったのかとライムは一瞬見直した。

「まずは貴女に接触したあの男、山口真一を始末させました、そしてあの男の言っていた内容についても裏を取りましたよ」

 つまり朱雀夢子の本当の素性についてすでに調べが入ったということか。

 そこまで聞いてライムは肩をすくめる。

 いつの間にか昭仁の口から「夢子さん」という言葉が出なくなっていた。

「まったく思いもかけないものが見つかりました」

 そう言って、手にしたアタッシュケースから取り出したのは普通そんなものをアタッシュケースにしまわないだろうと思うものだった。

 それは古びたベビードレス。

 元はピンクかオレンジだったのかも判然としないくらい色あせたそれを大切そうに昭仁は手にしていた。

「山口真一が元いた養護施設を調べてすぐ、このベビードレスを発見しました。十五年間使い続けたにもかかわらず、まだ使用可能です。さすがあそこのオーダーメイドまったく大枚をはたいた甲斐がありましたよ」

 十五年前、大枚はたいたオーダーメイド、その言葉から連想されるものはつまりもともと朱雀家が用意したベビードレスだということだ。

「この裏にまだ残ってましたよ、YUMEKOという刺繍が」

 確かに裏返されたそこに小さくYUMEKOと刺繍が残っている。だいぶほつれてきてはいるが。

「本田千恵子、それが施設でもらった名前ですね」

 びくっとライムは肩を震わせた。

 確かに本田千恵子はライムが施設を出るまで使っていた名前だ。

 だがそれ以来一度も使っていない。ジャックですら知らない名前だ。

 この男どこまで調べているんだ。

 背筋に冷たい汗が流れた。

 ライムは元々喧嘩が弱いほうではない。しかし、いま相手に襲い掛かっても勝てる気はしなかった。

「そういえば、お仲間が貴女と月子さんのDNA解析結果をいじったようですが、それはダミーですよ、貴女のDNAは詩子のDNAと解析しました」

 きょとんとライムは目を見開いた。

「それで問題はありませんよね、詩子も夢子も月子さんのお腹から出てくるのを私は確かに確認したんですから」

 どうやら立ち合い出産したらしい。

 本気でどうでもいい情報だ。

「どうして殺したの、どんな理由があっても夢子を助けた人でしょう」

 時間稼ぎだが、ライムはとにかく話を送らせたかった。

「月子さんを殺したことは到底免罪できることではありませんよ」

 だから殺した。

 言外の言葉にライムは軽く目を伏せる。

 どうしてライムに声をかけた?見て見ぬふりをすればよかったのに。

「もしかしてまだ気づいていないんですか?」

「何を?」

「田中真一のいた養護施設出身で、月子さんと同じ顔をしていて、偶然ってあると思いますか?」

「え?」

「畑中真理子、覚えているでしょう、彼女が、田中真一の依頼を受けて、夢子の素性を隠したんですよ」

 小うるさい職員に確かに畑中という名前はあった。

「詩子とあなたは間違いなく姉妹でしたよ」

 昭仁はそう宣言した。

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