13
ライムは部屋に戻るとテレビが無くなっていることに気付く。
置いたはずの小さな机の上にテレビの姿は影も形もない。
小さいといっても仮にもテレビだ。部屋の中にあればすぐに気が付く。
「まずい」
テレビとして使える盗聴器だと分解でもされればすぐに気が付く。
ライムの顔から一気に血の気が引いた。
「どうしよう」
慌ててもどうしようもない。
「まさか証拠をそろえるまで泳がされていた?」
盗聴器を持ち込めば、確かに動かぬ証拠だろう。
そのために詩子はお茶や生け花の稽古だと、ライムをこの部屋から引きはがしたのだろうか。
とにかく動きやすい格好をしなければ。
慣れない着物姿のままでは逃げることもままならない。
おそらく高価なのであろう着物を乱雑に脱ぎ捨てると、普段来ているTシャツにジーンズといった衣類は持ち込んでいなかったので、プリーツスカートとブラウスといった格好に着替える。
それから何とかこの屋敷を出なければならない。
そっと廊下をうかがう。
そして家の中の防犯カメラの存在を思い出す。
廊下の曲がり角、それから窓の付近には必ずカメラが設置されている。
カメラを破壊しながら進めばと考えても、カメラを破壊すればプロの警備保障が駆けつけてくるだけだろう。
ライムは思案する。このままこの場にいても捕まる。しかし逃げようとすればそれはそれで自ら暴露するに等しい。
「どうしました、夢子さん」
朱雀昭仁がいつの間にか扉の前に立っていた。
だらだらと冷や汗が止まらない。
「ちょっとお話ししましょうか」
昭仁の声は穏やかで優しげですらあった。だからこそ恐ろしい。
ライムは扉を開けたものか逡巡しながら扉の前に立った。
ジャックは月兎の真後ろからパソコンを覗いていた。
「これ、差し替えたデータの元データだよな」
目に留まったそれを指さす。
「まずいぞ、これ」
ディスプレイを指さして、しばらく考え込んだ。
「チャチャ、月兎、これから撤収する」
「ライムはどうするの?」
チャチャがわけがわからないといった顔で訊ねた。
「ライムは置いていく」
月兎とチャチャの顔が共学にゆがむ。
「なんで、わからないよジャック」
「ライムを回収する時間もないのか」
詰め寄る二人を押しとどめながらジャックは言い切った。
「ライムを助ける余裕はない」