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ライムは手短にまとめた手紙をチャチャに託した。
「しゃべって大丈夫よ、うまくいったわ」
チャチャはにんまりと笑う。
チャチャは確かにきれいだ。きれいな金色の髪、緑の瞳。だから誰でもあっさりと引っかかる。
「チャチャはその、騙すときどんな気分?」
「ライムも誰か騙したくなったの?」
「もう騙してるじゃない」
「それもそうか」
チャチャはけたけたと笑った。
「チャチャはね、とても綺麗な夢を見せてあげるの、普通の暮らしをしていたらとても見れない夢を。その対価に少しいただくだけよ」
「夢か」
きれいなお姉さんにとても愛される。それは世の男性にとっては夢のような出来事なのだろう。
夢から覚めた後、空っぽになった財布と相対することになっても。
「たぶん、チャチャは夢の対価をもらっただけだと思ってるのね」
「そうだよ、それに私、ほしいものはほしいの、どうしても、多分パパに似たのね」
「パパ?」
「そう、お兄さんの財産横領して、そのせいで濡れ衣を着て死刑になったパパ」
「そう、多分そっくりなんだろうね」
なんとなく納得といった風にライムは頷く。
「でもさ、楽しかったの。美味しいものを食べて、きれいな服を着て、ほしいものは何でも買ってもらった。そして伯父さんの娘をこき使って」
「それ、正当な相続人なんじゃ」
「でもうちで面倒を見てやってるからこき使って当然と言ってたよ」
多分、周りの人はチャチャのパパを腐れド外道って呼んでたんだろうな。そう思ったがあえてライムは口に出さない。
「何にもなくなって、泥棒って呼ばれて、訳が分からなかったな、それでパパが連れていかれて、私のものは何にもないって言われたの」
つまり悪事がばれたのか。
「私以外の家族は投獄されて、私はお情けで引き取ってもらえるって言われたわ」
チャチャは唇を歪める。
「だって、私はご免だったもの、だってそうでしょう、今まで馬鹿にしてたやつのお情けにすがる、絶対いや」
意味がよくわからないが、チャチャなりに筋は通っているのだろう。
「だって、それじゃあ、もう楽しい思いはできないでしょう。あの手から逃れて、私はもう一度楽しい場所に行くの」
チャチャの言っていることはわかるようでわからない。
ただ、今までさげすんでいた従姉のもとで、さぞや気づまりな人生を送ることとなる。そんなのは嫌だという気持ちは何となくわかった。
「まじめに生きるより、悪党のほうが楽しそうだね」
気づまりな人生より、誰かをだまして楽しく生きることを選んだ。それだけの話だ。
「そうねえ」
「それに、チャチャもきれいな夢を売っているしね」
最終的に悪夢になるにしろ、ほんの一瞬だけは相手も幸せになれるんだから。
結局そこに還る。
チャチャもライムも誰かを騙して生きることを選んだ時点で、同じ穴の狢。
もうそれ以外の生き方なんてできない。