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月兎はパソコンに向かっていた。
朱雀家の持ち物である病院。そのシステムに侵入しているのだ。
DNA鑑定はその病院で行われることはわかっている。
その暗号化されたデータを盗み取る。
意味不明のアルファベットの羅列にこそ意味がある。
月兎はデータを書き換えた。そしてそれを送信する。
そして元のデータはそのパソコンに残した。
ノートパソコンは基本的に使い捨てだ。いつ探索の手が伸びてくるかわからない。
そして月兎は新しい別のパソコンを手に取った。
ライムに預けたテレビに仕込んだそれから送られてくる音声などを解析する。
チャチャはハニートラップで、ひっかけた男から聞き出した断片をリアルタイムで伝えるように言ってある。
あまり当てになる相手ではないが、その辺は徹底させている。
画面の中にこそ自分の世界がある。
意識はディスプレイに吸い込まれていく。
金よりもデータに耽溺した人間、それが月兎だ。
月兎が集めたデータはジャックが換金する。
それがどのようになされているか月兎は一度も考えたことはない。
ジャックにデータを渡せば金をくれる。そして再びデータにおぼれることができるそれだけあればいいと思っている。
月兎が必要としているのはジャックだけだ。
チャチャはいかにも清楚な誠実な女性の仮面をかぶって目の前の男に接していた。
とりあえずの話題はライムのことだ。
そしてできる限り信頼を得て、ライムのところに頻繁に出入りできるようにしなければならない。
朱雀財閥の中でそれなりの地位を得ている男。
普段のチャチャならば、とりあえずはブランド物を貢がせて、高級レストランへ言ってできる限り食いだめをする。
しかしそれはまだ駄目だ。
涙を呑んで、チャチャは控えめに目の前の男に接していた。
ライムが最終的にばれても。あくまで単なる間違いだった。そういう風に話をできればもっていきたい。
チャチャとしてもせっかくつかんだ金づると別れたくはなかった。
ジャックは朱雀財閥のプロフィールを調べていた。
馬鹿なことをしている自覚はあった。
だがそれでも謎を解きたい気持ちはあった。
チャチャと月兎は着々と情報収集に動いている。
そっちからもたらされた情報も精査しなければならない。
「ライムはどうしてるかな」
朱雀家の灰汁の強すぎる面々に辟易していたようだ。
そしてジャックは朱雀家当主の顔を思い出す。 のっぺりとした、それでいて整った顔立ち。
笑みを浮かべていても、目だけは笑っていない。
自分たちのようなことを企んだのは最初でもないし、最後でもあるまい。
もっとも、ライムが朱雀月子とそっくりという事実に気付かなければそんなことを考えもしなかったが。
朱雀月子が殺害された理由の一つは思いついた。
朱雀月子は疑われていたのだ。