プロローグ
ちょっとやっつけ仕事な気もするけど、頑張ります。
暗闇の中、女はうずくまっていた。
砂まみれのコンクリートの床に直接座り込んでいる。寒気が女をさいなんでいるはずだが、身震いすらせずただ虚空を見つめていた。
手の中には小さなおくるみ。そのキルトの縫い目をゆっくりと撫でていた。
そして呟く。小さな声で、とつとつと。
「くすむものは見られぬ。夢の夢の夢の世を、うつつ顔して、なにしょうぞ、くすんで……」
そこまで呟いた時、轟音とともに、女は粉々に砕け散った。
警察は爆発四散した遺体のDNA鑑定で、朱雀月子の死亡を確認した。
朱雀月子は次女朱雀夢子とともに拉致され、幾度か、身代金塔の要求があったが、誘拐から三日後、廃工場内での爆発、そしてかつて人間であった残骸が発見された。
それが朱雀月子であると判明したのはその翌日だった。
発見された遺体は朱雀月子のものと確認されたが、当時生後五か月であった朱雀夢子の遺体は発見されていない。
当時乳児であったため、朱雀月子とともに四散したが発見できなかったという意見が優勢であった。
しかしその生存説も有力視されている。