ボッチの初仕事(訓練)②
ブクマ感謝ですm(_ _)m
オッサンに見送られながら街を出た昴達は魔物と遭遇する事もなく街の西側にある森を目指して歩いていた。
「魔物が出ないからって気を抜かないでよね昴、此処はもう街の外なんだから。とは言ったもののこの辺りには昴が遅れを取るような強い魔物はいないんだよね」
「わかりました。でこの辺りにはどんな魔物がいるんですか?」
優姫は少し考えるそぶりをしてから昴の問に答えた。
「この辺りの草原は確か今向かってる西の森から出て来た逸れのゴブリンやスライムが殆どだよ。因みに西の森にはウルフ系の魔物やオークなんかも少しながらいるみたいだよ」
「へぇそうなんですか、なんか日本でもよく聞く名前ばかりですね…朝霧さん?」
いきなり立ち止まった優姫にどうしたのかと声をかける昴。声を掛けられた優姫は青い顔をしてある一点を見つめていた。その視線の先には半球形で流体状、半透明の水色その姿はまるで
「スライム?」
そうスライムが一体居たのだ。
「何で…スライムが此処に?」
優姫は驚愕している。少し恐怖しているようでもあった。
何でって言われても、さっき朝霧さんが言ったように西の森から来たんじゃないか?
「確かにスライムはこの辺り一帯から消しとばしたはずなのに、スライムだけが通れない結界も貼っていたはずなのに」
何やってんのこの人⁉︎スライムの事どれだけ嫌いなんだよ、ちょっとスライムがかわいそうになってきたぞ。
優姫は昴の同情などには触れず、少し腰を落とし右脚を下げ半身になる。其処から優姫はスライムめがけて拳を繰り出す。10メートル程距離があるにもかかわらずその拳はスライムをゴバッと音を立てながら爆散させた。
爆散させた当の本人はと言うと‘いい仕事をした”と言うような顔をしながらかいてもいない汗を拭う素振りをしていた。
え、今の何?スライムがいきなり爆散したけど何をしたんだ朝霧さんは。
「何って聞かれても…こうサッとしてグッとしてグワンって感じかな」
忘れてた!この人天才肌だった!あの模擬戦の後に色々教えてもらおうって思っても擬音しか出てこなくて諦めたんだった。てか僕、今喋ったか?
「えっとソニックブームみたいなものだよ」
「其れを早く言ってくださいよ。擬音じゃ分かりません」
補足だが優姫が繰り出したのはソニックブームみたいなものではなくソニックブームそのものなのだがそれは本人達の知るのとではない。
「まぁ良いですけど、どうして朝霧さんはスライムをそんなにも毛嫌いするんですか?」
「それはねちょっとしたトラウマからだよ」
え、トラウマ?寅午?虎柄の馬?
「虎柄の馬でも寅午でもなくトラウマだからね」
トラウマ…だと⁉︎何かあっても知力と腕力と権力と財力の限りを尽くしてでもねじ伏せそうな朝霧さんにトラウマだと⁉︎(大事なことなので2回言いました)
「失礼だよ昴いくら私でもトラウマの100や200ぐらいあるし虎柄の馬も2、3頭飼ってるよ。其れに知力と腕力と権力と財力でねじ伏せる何てことしないよ、知力と腕力と権力と財力と能力とコミュ力でねじ伏せるだけだよ」
「なんか増えた⁉︎てか色々突っ込みたいところはありますけどまず朝霧さんにコミュ力なんて物あるんですか?ボッチなのに、ボッチなのに(大事なことなので2回言いました)」
失礼だよとか言いながら人の心を勝手に読む失礼な優姫。その事を昴は此処数日で培ったスルースキルを駆使して受け流す。
「ひどいよ昴、私はボッチでもコミュ力のあるボッチなんだよ」
「ちょっと何言ってるかわかんない」
「何でわからないの、プラチナむかry」
「ちょっストップストップ!朝霧さん其れはさすがにアウトです」
昴は慌てて優姫の口を手で塞いで言葉を遮った。
「いや〜ごめんごめん、ちょっとテンションが上がっちゃって昔の口癖が出ちゃった」
それ絶対に朝霧さんの口癖じゃ無いから!(胸部が)タッチパネルさんの口癖じだから!ていうか朝霧さん胸って(胸部が)タッチパネルさんより確実に少ないからクレーターだな。
この瞬間優姫の中で密室でのOSIOKIから密室でのGOUMONNに変わった事を昴はまだ知らない。
*
「で、そのトラウマって何ですか?」
「まぁトラウマって言っても殺されかけたってだけなんだけどね」
「え⁉︎」
殺されかけた?朝霧さんが?スライムに?いやいやいや幾ら何でもそれはないでしょ、さっきも爆散させてたし。
「スライムを余りなめないほうがいいよスライムは確かに最弱種だけど成長具合によってはこの世界でもトップクラスの実力を持つ化け物、私でも奥の手であるユニークスキルなしでは勝てないような化け物にになるんだよ」
朝霧さんのユニークスキルって確か一国を滅ぼしたって言うあのいかれスキルの事だよなどんな物かは知らないけど、だとしたらそのスライムは少なくとも国一つを相手取る事ができるわけか。うん、絶対に戦いたくないな。
「まずね、あのサイズの再生能力を持つ単細胞生物が弱いはずがないんだよ。それもレベルやスキルなんてものがあるこの世界では特にね」
優姫は昴が聞いてもいない事を熱心に語り出した。
「そりゃあレベル10の人間がレベル1、2の単細胞生物に勝てて当たり前だけど同レベル以上ならかなり厳しいからね。まずね攻撃が殆ど通らない。拳じゃ手に纏わり付くしさっきのソニックブームみたいなやつでも爆散なんてしないし刃も殆ど通らない。通ったとしてもすぐさま再生する」
それって朝霧さんの戦ったスライムが異常なだけなんじゃと、思うも口に出さない昴。と言うか優姫のマシンガントークに口を挟めないでいた。
「でもまだこんなのは優しい方だよ。少しでも刃が通るならそれで核である魔石に傷をつければそれで死ぬからね。本当に怖いのはこのレベルが何十体もくっついた多細胞生物だよ」
あ、こっちにも居たんだキン○スライム、と口にしようとしたがやはり優姫のマシンガントークに口を挟めないでいる昴。もう半分諦めていたりする。
「多細胞生物はね細胞ひとつひとつが刃の通りにくく再生能力を持っているし、核を破壊したとしても隣の細胞が細胞分裂を起こしてすぐ元通りになっちゃうんだよ」
感想や質問があっても優姫のマシンガントークに口を挟もうとはしない昴。もう完全に諦めていた。
「其れにあの触手、あれは本当にやばい肉体的にも精神的にも。ぬるぬると身体に纏わりついてくるあの感触、殆どの物をゆっくりと溶かしてくる酸性の粘液、胸に絡み付いてきた時少しがっかりした様に緩む力、思い出しただけでも寒気がしてきたよ」
「そんなのに絡みつかられてよく生きていられましたね、力が緩んだからですか?」
優姫のマシンガントークがひと段落してやっと口を開けた昴。
「いや、そういう訳じゃないよ。いくら力が緩んだと言っても私を拘束しておくには充分な力をあったからね、あの触手」
「え、じゃあどうやって生き延びたんですか?」
「ユニークスキルを使って細胞を全て同時に殺したんだよ。それでなんとか生き延びたけど服は爛れて身体のあちこちに火傷を負って、結構大変だったんだよ」
其れだけで済んだ朝霧さんは色々とおかしいと思う。多分他の人だったら即死していただろうし朝霧さんって本当に人間?
「帰ったら昴の中の私のイメージについてたっぷり話し合おっか」
「あ、はい」
*
其れから30分ほど雑談をしながら歩いた所で森に着くことができた昴達。ちなみにここまでの道のりで遭遇した魔物は優姫がソニックブームで爆散したあのスライムだけだった。
「やっと着いた。ここまで結構長かったですね、朝霧さん」
「ねえ昴、終わったー!みたいな雰囲気出してるけど何か忘れてない?」
え、何か忘れてることなんてあっかな?もう着いたし。…あ、そういえば
「まだ帰りがあったんだ」
「いや、そうじゃなくてクエストできたんだからね。忘れちゃダメだよ、昴」
「いや〜ごめんごめんすっかり忘れてた。でクエストって何するんですか?」
「え、ゴブリン5匹の討伐だけど言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ、そんな事」
にしても討伐かぁ生き物を殺すのは魔物であっても余り気が乗らないんだけどな、まぁそんなかと言ったって仕方ないし気合い入れて殺りますか。
「まぁそんなどうでもいい事は置いといてさっさと行くよ」
どうでもいいって、まぁ良いか朝霧さんだし。
昴達は森へと入っていった。
「あ、あれはもしかして」
森に入って暫くすると優姫は何か見つけたみたいに少し開けた場所へ駆けて行った。
「やっぱりそうだ。昴、ちょっとこっちに来て」
「何ですか、朝霧さん?何か珍しいものでもありましたか?」
優姫に呼ばれて駆け寄った昴は優姫の元に着くとすぐにそう聞いた。
「まぁ珍しいってほどじゃないんだけどね。ちょっとこれ見て」
そう言われて優姫の指す指の先を見た昴の目に映ったのは草が無数に生えてるだけの地面だった。
「え、草?この草がどうかしたんですか朝霧さん?」
「この草はねヒラル草って言ってね一般的に薬草と呼ばれる植物なんだよ。でね、ヒラル草を採取する時は葉の部分だけじゃなくて根の部分まで掘らなきゃダメだよ」
「ヒラル草って葉の部分に治癒効果が有るんですよね。其れがどうして根っこまで掘らなきゃいけないんですか?」
前にギルドに置いてあった図鑑を読んでいた昴。その図鑑には挿絵が無かったものの見た目の特徴と効能や生態が書かれてあった。因みにヒラル草もこの図鑑に乗っていたのだが挿絵が無い為昴にはこれがヒラル草だとわからなかったのである。
「確かに治癒効果が有るのは葉の部分だけど根の部分には葉の効能を高める成分が含まれているんだよ。まぁこの事を知っている人は殆どいないんだけどね」
ギルドの図鑑にあるヒラル草の項目にもこの事は載っていないので昴には知る由も無かったのだ。
「因みにこれがイゾナ草って言って一般的には毒消し草って呼ばれているんだよ。まぁこれもさっきと同じ理由で根の部分掘る必要があるんだよね。けど花と実は取り除かなきゃダメだよ、猛毒だから」
ギルドの図鑑にはイゾナ草の事も根の事意外書いてあるので昴は自慢げに話す優姫の話を聞いてどう反応をすれば良いのか困っていた。
そんな昴達の耳に森の奥からグギャッグギャッと何かが鳴く様な音が聞こえてきた。
「朝霧さん、今の声って」
「うん、ゴブリンの声で間違いないね。こっちに近づいているよ」
優姫がそう言うや否や木の陰からボロボロの布を腰に巻いて棍棒─と言うよりかはただの木の棒─を持った生き物が7匹飛び出してきた。その生き物は皆、皮膚が緑色で頭が大きく優姫の無い胸辺りまでの背丈だった。
「あれがゴブリンですか?日本人が持つイメージそのままですね」
「そうだね、私も初めはびっくりしたよ。でもこの世界にいる魔物って大体そんな物だよ」
これを聞いた昴は内心テンションがかなり上がっていた。というのも地球にいた頃昴には友達と呼べる相手はおらず娯楽と言えばゲームやアニメ、ライトノベルなどの創作物ぐらいしか無かった上両親もかなりのオタクだったため自然とそう言う物事に惹かれていったのだ。
「にしても7匹か、私が2匹殺るから昴は残りの5匹お願いね」
「どうして僕が5匹なんですか?普通逆だと思うんですけど」
「クエストを受けたのはあくまでも昴であって私じゃ無いからね、昴が5匹倒す必要があるんだよ」
「成る程わかりました、じゃああとの2匹よろしく頼みますね」
にしてもいきなり5匹は多いと思うんだけど、普通はもっとじっくりと慣らしに行くとのだと思うんだけどな。まぁ良いか言ってもしょうがないし。
「じゃあ行くよ」
そう言うと優姫の気配がスゥーと薄らいでいく、目の前に居るのに気を抜くと見失いそうになるぐらいまで気配を消した優姫はゴブリン達に向かって走り出した。
ゴブリン達に肉薄した優姫は一番後ろの2匹を後方へ弾き飛ばすが他のゴブリン達は気にする様子もなく昴へ襲い掛かった。
昴は腰から抜いた剣で飛びかかって来た先頭のゴブリンの頭を叩き割りその間に接近していた2匹目の顔面に強化した拳を叩き込む。2匹目の頭部がグチャッと音を立て潰れたことにより怯んで動きを止めた残りのゴブリン達。
その中でも一番近くにいたゴブリンに接近し昴は魔力で強化した剣を横薙ぎに一閃する。その刀身から白銀に輝く三日月状の斬撃が飛び出した。
「え?」
昴が振るった剣の刀身からたまたま飛び出したその斬撃は残りのゴブリン達を斬り飛ばしその後ろで足止めをしていた優姫に飛来した。
優姫は振り向くとその斬撃を左手で受け止め握り潰した。それと同時に優姫が足止めしていた後ろのゴブリン達はズタズタに切り刻まれた状態で崩れ落ちた、斬撃が飛来してくるまでは殆ど傷を負っていなかったのに。
「危ないなぁ気をつけてね」
「あ、はい。以後気をつけます」
目の前で起きていた異常事態─昴が原因─にフリーズしていた昴は優姫の言葉でなんとか現実に復帰できたのだった。
優姫はそんな昴を気にも止めず崩れ落ちたゴブリン達から小さな何かを抉り出した。
「朝霧さんなんですか、それ?」
「これ?これはね魔石だよ」
「魔石って魔法石の原料になるあの?」
魔法石というのは魔石に魔法を込めたもので街灯や水道などに使われている使い捨ての道具だ。
「そう、その魔石だよ。魔物はみんな体内に魔石があって討伐の証明と換金に利用できるんだよ。因みに強い魔物が持つ魔石ほど強力な魔法を込められるんだよ」
「へぇそうだったんですか」
このあたりのことはギルドの図鑑に載っていたかったため素直に感心することができた昴。
「じゃあそろそろ帰ろっか」
「そうですね、もうここにいる理由もありませんし」
魔石を回収し終えると優姫は森の外に向かって歩き出した。
「…やっぱり好きになれな、この感覚」
「え、何か言った?」
昴の呟きは優姫の耳に届かなかった。
「いえ、なんでもありません。すぐ行きます」
そう言って一歩踏み出そうとした昴。その後ろの茂みから青い流体状の魔物、スライムが飛び出した。
「キィヤァァァアァァァ‼︎」
たまたま昴の方へ振り返っていた優姫は不意に飛び出してきたスライムに対し悲鳴を上げながら昴ごとスライムを吹き飛ばした。
これが昴がこの日受けた攻撃の中で一番強力なものだった。
〜その頃の作者〜
プルルルルプルルルル ガチャ
「はいもしもしFです、どちらさまですか?」
「あぁ朝霧さんですか。何々、クレーム?」
………
「つまり胸を大きくしろと、そんなこと言われても無いものを増やすなんて無理な話ですよ。多少あるならまだしも…もしもし朝霧さん?ちょっ待ってくださいマジで勘弁してくださryギヤアァァァァ!」
……
優姫「作者は殺っちゃったけどまだまだ続くからよろしくね」