ボッチの初仕事(訓練)
「にしても凄いね昴、あんな短時間でオリハルコンに魔力を馴染ませるとは思わなかったよ」
「僕もまさかこんなに早く馴染むとは思っていませんでしたよ」
昴たちはオリハルコン製の剣に魔力を馴染ませた後剣を装備するために専用のベルトを買い、一度ギルドに戻り幾つかの依頼を受注して街の外に出るために門を目指し街道を歩いていた。
「それと朝霧さん、1つ気になった事があるので質問いいですか?」
「ん?なになに?え、彼氏?いると思うでしょ?私美少女だからね」
私美少女だからねってそれ自分で言ったらダメだろ
「それがね、いないんだよ。皆恐れ多いとか言っちゃって友達すら碌に作れないんだよ。こっちの世界に来てやっと友達ができると思ったのに、このままじゃまた彼氏いない歴兼友達いない歴が更新しちゃう。因みに年齢=彼氏&友達いない歴だからね、私」
「いやそんな事は聞いてないですよ」
其れを聞かせて僕にどうしろと?言っとくけど僕にはどうにもできないからね。ていうか朝霧さんもボッチだったんだ意外。
「そんな事じゃないよ!これでもかなり真剣に悩んでるだからね!」
「って言われてもな〜其れは自重無しに好き放題しまくった朝霧さんに原因があるわけだし」
「うっ」
「やってしまった事はもうどうにも何ないし、いっそのこと力尽くか諦めるかしたらどうですか?まぁそれやっちゃうと愛情や友情なんてものと無縁の人生になるんだけど」
「・・・」
「朝霧さん?」
ちょっと言い過ぎたかな?でも事実だしなぁ。
「それだ!!」
少し俯いていた朝霧さんが顔をバッと勢いよく上げて大きな声で叫んだ。
「うわ!びっくりした、いきなりどうしたんですか、朝霧さん?」
「ううん、何でもないよ気にしないで。それで昴、私に聞きたい事があったんじゃないの?」
「別に大した事じゃないんですけど、受付ってティルヴァングさんしか居ないんですか?」
昴がこんな疑問を覚えたのは冒険者ギルドで3つのカウンターを同時に捌くティルヴァングの姿を目撃したからだ。因みに他の職員の姿は見え無かった。
「そんな事ないよ、他の受付や職員もちゃんといるよ。ただみんな仕事をティル爺とグラ爺に丸投げして子供達の世話に当たってるんだよ」
ティル爺…ティルヴァングさんは特に問題なさそうだったけど、ていうかまだ全然大丈夫そうだったけどグラ爺ことグラノイアスさんは大丈夫なのか?あの人何時くたばってもおかしくないと思うんだけど、まぁ大丈夫ならそれでいいか。くたばったらその時はその時だ。
「グラ爺が死ぬとしたら誰かに殺されてだと思うよ。まぁ殺せるとしたら私か魔王ぐらいだけど、あの人見かけによらずかなり頑丈だし、ティル爺よりも頑丈だからね」
「え、グラ爺ってひょろひょろですぐにでもくたばりそうな爺さんですよね?あの筋骨隆々のティルヴァングさんよりも頑丈って言われても全く想像できませんけど、人は見かけによらないってことですか。あと勝手に人の心を読まないでください」
魔王に張り合う朝霧さんって人としておかしいと思う。いや、朝霧さんに張り合う魔王が凄いのか?
「其れはどっちもだと思うよ。私のスペックは人族最高峰の勇者達を軽く凌駕してるし、魔王も帝国ぐらい簡単に落とせるだけの能力は持ってるしね」
なーんてグラ爺の受け売りなんだけどね、と優姫は最後に付け加える。優姫と魔王の異常な戦闘能力に愕然とし驚きが顔に滲み出る昴、だが優姫は其れに気づかない。いや、気づいてはいるが気にしないだけのようだった。
その後も少し雑談をしながら歩いて行くと門が見えてきた。その門の前には昴がバラゴナ王都に着いて最初に出会った門番のオッサン─もう出ないと高を括くって名前を考えていなかった─がいた。
「オッサン久しぶり」
「ん?お前は確か…あぁあの時の異世界人か無事だったんだな」
「今完全に忘れてましたよね」
「いやいや、そんな事ある訳ないだろ、気の所為だだ気の所為」
「ねえ昴、この人誰?知り合い?」
二人のやりとりに全くついていけず蚊帳の外だった優姫が口を挟む。
「えっと、このオッサンは僕がこの街に来た時に僕の捕縛、連行の指示を出したオッサンです」
「へぇそうなんだじゃあこっちも其れなりの挨拶はしなきゃね」
そう言って優姫は腰に差してある刀をすらりと抜いた。昴の剣と同じオリハルコン製なのだろう、刀身は黒く金属特有の光沢がなかった。が、刀身は先ほどバーテル武具店で見たオリハルコンと比べて余りにも黒かった。黒いというより暗いといったほうが近いかもしれない漆黒の刀だ。
「落ち着いて朝霧さん過去な話だから仕事だから仕方なくやっただけで悪意があった訳じゃないから」
優姫の刀に見惚れていた昴が我に帰り今にもオッサンに切り掛かりそうな優姫を止めに入る。
「まぁ昴が気にしてないならもういいけど」
渋々他いった感じで優姫は刀を鞘に収める。
「いやーその件については悪かったな坊主、無事で何よりだ。で、其方の物騒な嬢さんは誰だ?坊主のコレか?」
オッサンは小指を立ててからかうような口調で昴に問う。
「正解、おじさん見る目あるね」
「いや違いますから、この人はギルドでお世話になっいる朝霧優姫さんです」
優姫の名前を聞いてオッサンの顔から血の気が引いていき真っ青を通り越して真っ白になった。
「も、申し訳ありませんでした‼︎あの鉄壁の朝霧様にry…」
「誰が絶壁なのかな?よく聞こえたかったよもう一度言ってくれる、誰が絶壁なのかな?」
ない胸の事を言われていると勘違いした優姫は額に青筋を浮かべガシッとオッサンの頭を掴み宙に浮かせながらアイアンクローを決める
「いや、朝霧さん誰もそんな事言ってません。確かに朝霧さんは絶壁ですけど、虚無ですけどそんな事一言も言ってませんよ。そのオッサンが言ったのは鉄壁です、何ですか?鉄壁って」
「え、鉄壁?なに其れ私そんなの知らないよ。今日初めて言われたからね。其れと昴帰ったら二人っきりでOHANASHIしよっか」
オッサンの頭から手を離し振り向きながら昴に優姫は笑顔で答えた。が、目は全く笑っていなかった。
「其れって本当にお話なんですか?とてもそうには思えないんですが」
「うん、お話だよ。まぁ口じゃなくて拳で語り合う訳だけど」
「其れって語り合うって言うより朝霧さんが一方的に語りかけるって感じになると思うんですけど」
て言うか一発KOで語りかけるって感じにもならないと思うのだが
「小さい事は気にしちゃダメだよ、昴」
「朝霧さんも気にしないほうがいいですよ」
特に胸の事とか
この瞬間優姫の中で二人っきりでのOHANASHIから密室でのOSHIOKIに変わった事を昴はまだ知らない。
*
「で、おじさん鉄壁ってどういう事なのかな?そんな話私は今まで聞いた事ないよ」
「その鉄壁って言うのはですね、大貴族の御曹司や帝国の殿下達からの縁談を会う事もせず片っ端から断り続けているその守りの硬さから来ているとお聞きしています」
「縁談、なに其れ美味しいの?」
「え、まぁ内容によっては美味しい場合も多々あると思いますけど」
優姫のボケに困惑しながらも真面目に返すオッサン
「真面目だね、まぁいいか。ありがとうね、おじさん」
「いえいえ、お気になさらないでください」
「オッサン、僕からも一つ聞きたい事があるんですけど」
昴はビシッと手を上に上げて発言する。
「何が知りたい坊主、俺に答えれる事なら何でも答えてやるぞ」
「そうですか、じゃあ僕の自転車ってどこにあるんですか?」
「自転車自転車自転車自転車自転車こいでこいでこいでこいでこいで」
優姫がいきなり歌いだす。
「朝霧さんさすがに関西サイクルスポーツセンターにはないと思いますよ」
「そんな事はわかってはいるんだけどね、自転車なんて懐かしい物の名前を二年ぶりに聞いたらつい歌っちゃったんだよ」
「なるほど、そうだったんですか。其れで僕の自転車はどこですか、オッサン」
「それはだな…えっと〜その何というか…」
歯切れが悪く目を合わせようとは決してしないオッサン。何かを決心したのか深く息を吐き出してから自転車の場所を昴に教える。
「ジテンシャはな今は目の前にある堀の底に沈んでる」
「はぁ?何でそんなところにあるんですか?あれ結構高かったんですよ。まぁこっちに来てからもう自転車に乗る事がないと思ってましたしどう処理しようか困っていましたけど、人の物を勝手に沈めるのはどうかと思うんですが」
「いや、落とす気は無かったんだ。何人かで代わる代わる乗ってたんだがそのうちの一人が誤って堀に落っこちてしまってな落ちた奴は引き上げたんだがジテンシャはもう手遅れだったんだ、すまんな」
え、何でそんな死んだみたいな言い方するんだ?あれ唯の道具だぞ、生き物じゃ無かったはずだが。
「そうですか、まぁ悪気が無かったのならもういいですよ。じゃあ僕達はもう行きますね」
朝霧さんも巻きで巻きでってジェスチャーで急かしてくるし。
「そうか、頑張れよ坊主。朝霧様もお気をつけて」
僕達はオッサンに見送られながら街の外に歩みだした。
ブクマ感謝ですm(_ _)m