ボッチ、武器を買う
朝陽が昇り始めてから暫く、時刻にして午前6時頃冒険者ギルド一階の奥にある食堂で一組の男女が食事を摂っていた。
「そういえば朝霧さん、僕ここでお金払ったことないけど大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫、昴に食事代を払う程の収入なんてないでしょ?」
「はい。て言うか食事代を払う程の収入どころか収入自体無いんですけどね」
「此処はね、お金を稼げない子供達や新人冒険者達にツケで料理を出してくれるんだ」
あ、ツケなんだ。いや、僕達新人冒険者はわかるよ。でも子供達ぐらい無償で提供してあげてもいいんじゃないかな〜て思うんだよね。
「じゃあ僕って今どのぐらいツケ溜まってるんですか?」
「えーと、此処10日の食事代と登録費料合わせて確か11,300ユルドだったはずだよ」
「えっと、ユルドってのは?」
「あ、ごめんごめん。ユルドってのはねこの世界の通貨で、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、黒金貨の5種類があってね、銅貨が100ユルド、銀貨が1,000ユルド、金貨が10,000ユルド、白金貨が100,000ユルド、黒金貨が1,000,000ユルドなんだよ。ちなみに1ユルドは日本の1円ぐらいだからね」
「ありがとうございます。ついでに幾つか質問いいですか?」
「私に分から事ならなんでも聞いて」
「じゃあお言葉に甘えて、この10日間でレベルが5上がったんですけど、これって早いんですか?」
「うん、驚異的な早さだね。普通訓練だけでレベルを上げようとしたら数ヶ月はかかるからね。まぁこれは昴がレベル1だったて言うのと私が圧倒的な格上だからできた事なんだけどね」
「なるほど、じゃあステータスにある称号って何なんですか?《神に導かれし者》とかありましたけど」
「称号はね特に意味は無いんだよ。その人が何をしたか少しわかるぐらいなんだよ。あと《神に導かれし者》は、私もよくわからないんだよ。だって神様に導かれるどころかあった事すら無いからね」
朝霧さんでもわからないならもう誰もわからないんじゃ無いか?
「あれ?もう終わり?てっきりスキルとか加護の事とか聞いてくると思ったんだけど」
「はい、スキルは朝霧さんが訓練で教えてくれると思って、それと加護って何ですか?」
「え、加護無いの?まぁ加護の事聞かれてもよくわからないんだけどね」
それもわからないんだ。まぁ僕には関係無いからどうでもいいんだけど。
「あ、そういえば昴、『魔力感知』と『魔力操作』のスキルが増えてなかった?」
「え、はい。増えてましたけどそれがどうかしたんですか?」
「えっとね、昴のもともと持っていたスキルはね『言語理解』以外は『魔力操作』が使えないとただの死にスキル何だよ。これでやっと次にいけるよ」
「次って何ですか?」
「次はね、スキルの使い方と実際にクエストを受けてみようと思うんだ。昴だってヒモはもう嫌でしょ?」
「確かにヒモは嫌ですね」
「だからねクエストの合間にスキルの使い方を教えようと思生んだよ。あ、もうこんな時間昴行くよ」
「え、行くってどこにですか?」
「クエストを受けるんだから昴の武器を買いに行くんだよ」
昴は引き摺られるように食堂を後にした。
*
区画整理をきちんとされて石造りの建物が規則正しく建ち並ぶ街並みを眺めながら昴は優姫と石畳の道を歩いていた。今昴達が歩いているのは冒険者ギルドを出て通りを2つずれた武器屋や防具屋などが多く建ち冒険者達が入り浸る通り─通称冒険者通り─にやって来ていた。
「あの〜朝霧さん、武器を買うって言われても僕お金なんて持ってないですよ」
「うん、知ってる。だから今から買う武器は私からのプレゼント」
「いや、でも悪いですよ、そんな」
「じゃあ昴は素手で魔物狩りに行くつもりなの?それは流石に無茶だよ。まぁ気にしなくても大丈夫だよ、懐も痛まないしね」
え、懐が痛まないってどういう事?もしかして朝霧さんってお金持ち?
などと昴が考えてると優姫がある一軒の店の前で足を止めた。店の看板にはドラ○エなどでよく見る二本の剣が交差している絵とバーテル武具店の文字が書かれていた。
「着いたよ、昴」
「バーテル武具店ですか。どうしてこの店にしたんですか?」
「そんな事はどうでもいいからほら入った入った」
押されるように店の中に入る昴。店内の壁には槍やハルバート、大剣などの大きな武器が立てかけられていて弓などがかかっている、棚にはナイフやナックル、短剣に細剣、片手剣といった武器が並べられている。カウンター横の隅にはモーニングスターなどの変わり種も置いてある。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご利用で?」
カウンターに立っているイケメン店員が爽やかな笑顔を向けてきた。髪はこの世界では一般的な暗い茶色で背丈は180㎝程の長身だ。
うわ、どうしてだろう。何もしてないのに凄い敗北感が、何でだ?この人がイケメンだからか?イケメン爆ぜろ。
などと昴がくだらない事を考えていると背後から優姫がひょっこりと顔を出す。
「久し振りだねバーテル君、元気にしてた?」
「え、朝霧さん知り合いなんですか?」
「まぁねこれでも私ちょっとした有名人だからね」
ちょっとした有名人ねぇ。朝霧さんの事だからちょっとした済むとは思えないんだけどな。
「ご無沙汰しています、朝霧様。本日はどの様な要件で?」
少しの間フリーズしていたイケメン店員のバーテルが優姫に対して直角にお辞儀をする。
「え、様?朝霧さん何したんですか?」
「別に大したことはしてないんだけどね。何も」
「いえいえそんなことはありません。朝霧様はこの世界で有数の大規模商会、エリック商会を買取り、独創的な発想で大ヒット商品を次々と生み出してエリック商会を世界最大の商会へと押し上げた素晴らしいお方です」
よく大したことはしていないって言えたな。これのどこが大したことないんだ?
「独創的な発想て?」
「そんなの現代知識に決まってるじゃん」
でしょうね、分かってたよ分かってましたとも。でももうちょっと自重しない?好き勝手し過ぎだろ。
そのあともバーテルは優姫がどれだけ素晴らしいかを語り続けた。それはもう熱く語り続けた、○造の様に熱く。これには流石の優姫も苦笑いだ。
*
「でバーテル君、私達は昴の武器を買いに来たんだけど」
「申し訳ありません、私としたことが少し熱くなってしまって」
うん本当に熱かったよ。もう背後で修○が拳を握りしめ熱くなれよ!と言ってるのが見えたぐらいに。何あれスタ○ド?
「それで昴様はどの様な武器を扱いで?」
「様付けなんていいですよ柄じゃないですし」
「いやいや朝霧様のお連れ様を呼び捨てにするなんて罰当たりな事出来ませんよ」
罰当たりなって何だよ、朝霧さんは神様か何かか?!そういえばジンさんが神はいるって言ってたな。あれって朝霧さんの事か?
「それと昴様は朝霧様とどういった御関係で?」
「そんなの決まってるじゃん、昴は私のこれなんだよ」
優姫は満面の笑みを浮かべながら左手の小指を立てて言った。
「え、本当ですか!?なら商会をあげて祝いの席を設けなければ。食事の予約に会場の準備、ああ、皆様に招待状も書かないと」
あ、バーテルさんがまた暴走し始めた。今の内に止めなきゃさっきの二の舞になる。てか皆様が誰なのか無性に気になるんだけど。なんか凄い人達が集まりそう。
昴はそう思い店の奥に走り出そうとしてるバーテルに声をかける。
「あー違いますからねバーテルさん。僕と朝霧さんはそんな関係じゃないですから」
「え?」
「朝霧さんもバーテルさんをからかうのはその辺にしといたらどうですか。またさっきみたいになりますよ、これ」
「そうだね、流石にあれはもう御免だね」
「その件については深くお詫び申し上げます」
バーテルはバツが悪そうに顔を顰めてそう言った。其れを優姫は気にするなと宥める。
「それでもう一度お聞きしますけど朝霧様と昴様は本当にどの様な御関係何ですか?」
「うーん、どんな関係なのかな?昴はどんな関係だと思う?」
え、何でここで僕に振るんだよ。まぁどんな関係かって聞かれたら
「師弟関係…ですかね」
「まぁ客観的に見たらそうなんだろうね」
「つまり昴様は朝霧様の御弟子さんって事でよろしいのですか?」
「うん、その認識で問題ないよ…今のところはね」
「そうですか、で昴様の武器をお求めとの事ですが昴様はどの様な武器をお求めで?」
別にショートソードでもいいんだけど刀身がちょっと長すぎるんだよなぁ、もうちょっとぐらい短い方が使いやすいし。
「そうですね刀身がショートソードより更に短く朝霧さんの刀より少し長い目の剣ってありますか?」
「ショートソードより短くて刀より長い剣ですか、そうですね…少々お待ちください」
バーテルは暫し考えた後そう言い残し店の奥に入っていった。暫くするとバーテルは1本の剣を手に持って戻ってきた。その剣は昴の要望通りのサイズで刀身は黒く金属特有の光沢など無かった。
「バーテルさん、その剣は?」
「この剣はですね…」
バーテルさん曰く、この剣の刀身はオリハルコンで出来ており芯はオリハルコンとミスリルの合金を用いてるらしい。ミスリルは金属の中でも強度、魔力との親和性がかなり高い扱いやすい素材で、オリハルコンはこの世界で最も貴重な金属で強度は群を抜いて高い。その反面魔力との親和性は皆無だが、魔力を流し続けるとその魔力光と同じ色に染まるらしい。染まりきったオリハルコンは流し続けた魔力に対してミスリル以上に親和性が高くなるとの事。
「で、どうですか昴様?この剣以外に昴様が望むサイズの剣はこの店…というよりこの街には有りませんよ」
うーん、欲しいんだけどオリハルコンだからなぁかなり高いんだろうなぁ僕のお金なら迷わず買うけど朝霧さんのお金だからなぁ。
「バーテル君それちょうだい」
「え?」
「欲しいんでしょ?自分のお金なら迷わずに買うぐらいには」
また心を読まれた僕ってそんなにわかりやすいのかな?
「まぁ欲しいですけど、朝霧さんのお金だしそんな高いものは…」
「その点は大丈夫だよ。バーテル君いくら?」
「いえ、お金は要りません」
「は?え、何でですか?」
「朝霧様とその御弟子様である昴様からお金なんて取れませんし、そのサイズの剣を使う人は殆どいない上金額が金額ですからまず買われる事は有りません。ですのでどうか貰っていって下さい」
朝霧さんがさっき懐が痛まないってこの事か。まぁでもそういう事ならお言葉に甘えて。
「ならありがたく受け取らせてもらいます。」
そう言って昴はバーテルからオリハルコン製の剣を受け取った
「なら早速魔力を流してみたらどうかな、昴?これからクエストを受けるんだから武器になれておく事も大事だよ」
それもそうですねと昴は優姫の言葉を肯定しながら剣に魔力を流す。昴の魔力光が店内を銀色に染める。剣から発せられる銀の魔力光に3人とも目を閉じた。
「「「は?」」」
昴が流してた魔力を収めた事によって閉じてた目を開く事ができた3人の目に映ったのは銀色に輝くオリハルコンの剣だった
ブクマ感謝ですm(__)m