ボッチの交渉
そろそろ復活ネタが尽きて来た為、テキトーに復活した作者のFです。
リアルが忙しかった為に更新が遅れました、申し訳ありません。
それと前回の更新で一年が経過していたのを更新した後に気付きました。
では本編をどうぞ。
陽が真上に上がり明々と照らす昼頃、バラゴナ王都は騒然としていた。
この街は王都というだけあっていつも賑わってはいるのだがこの日は別の意味で騒がしかった。街道の至る所では井戸端会議が開かれ、話題は昨夜の事件で持ちきりだ。
「うーん、おはようディーネ」
《おはようご主人》
その街の騒々しさで目を覚ました昴は一度伸びをして、抱き枕にしていたディーネに挨拶する。ベッドから起き上がり、身支度を済ませた昴は何時もの集合場所であり溜まり場でもある食堂へと向かった。当然ディーネを頭に乗せて。
昴が食堂に着くとそこには既に優姫達がいた。
「おはよう」
《おはよう、二人とも》
「おはよう」
「おはようございます」
互いに挨拶を交わした昴達。昴は外の騒ぎについて先に起きていた二人に対して質問する。
「色々あったみたいだよ」
「色々?」
「うん、何でも城から囚人が脱走したり、国庫が漁られたり、失禁した国王が放心状態で見つかったり、町中の街道に二本の線が引かれてたり、両足の踵が焦げた兵士が路地裏に転がってるのが見つかったり」
まるで他人事の様に話す優姫だがその実、ここにいる三人が全ての元凶だったりする。
「それより、これからどうするのかな?」
「ああ、そのことなんだけど旅に出ようと思う」
「あの、やっぱり私の所為ですか?」
「いや、フェルの所為じゃないよ。僕が元々そのつもりだっただけ」
昴の言葉を聞いたフェルは、肩の荷が下りたかの様に安堵の表情を浮かべる。
「それで、みんなはどうする?」
どう?と優姫が聞き返す。
「僕の旅について来るのか此処に残るのか」
《もちろんボクはご主人についていくよ。なんてったってご主人の初めての仲間だしね》
真っ先に名乗りを上げたのはディーネであった。ディーネは昴の従魔である為同行するのは殆ど決定事項ではあったが、それを差し引いても昴と行動を共にする意思を表明した。
「私も一緒にいくよ」
「大丈夫なんですか?商会の方は」
「問題ないよ、うちの従業員は優秀だからね」
次に名乗り出たのは優姫だ。この世界最大の商会、エリック商会のトップである彼女がいつまで続くかわからない旅に同行出来るのか昴は懸念していた。その為の先の質問である。だが優姫の本業は冒険者、それも最高ランクともなれば一つの依頼に長期間掛ける事もある為なんの問題もないのだ。
「私も付いて行きます。ここに残る理由もありませんので」
最後はフェルだ。先の事で昴達が城に乗り込む原因の一端である彼女、一族から破門されその上この国から目を付けられている為この旅はフェルにとって都合がいいのだ。
全員が昴の旅に同行する事を露わにした頃、ギルド内が騒然とし始めた。そんなギルドの中を兵士を引き連れた一人の少女が悠然とした姿で昴達の方へ歩み寄って来た。
「お久しぶりです朝霧さん」
「久しぶりだね、えーと海面水温低下ちゃん?」
「流石にそれはないだろ」
相手の名前を壮大に間違える優姫に昴は呆れたようにそういう。
「そうです!私の名前はラニーニャであってその様な名前では断じてありません!」
「強ち間違いでもなかったな」
「どこがですか!?」
ラニーニャのツッコミに対しラニーニャ現象の事だと言おうとした昴だが、ここが地球でない為ラニーニャ現象の概念がない可能性を懸念し押し黙った。
「まあいいです。では改めまして、私の名前はラニーニャ・グランデ・バラゴナ、このバラゴナ王国第一王女です。気軽にラーニャとお呼び下さい」
そう言ってぺこりと頭を下げるラニーニャ。対する優姫を除く昴達三人は彼女が護衛を連れているのを見て何処かの貴族だろうと予想はしていたのだが、予想外な大物に唖然としていた。
「昨夜の件で少しお話があります」
そのラニーニャの一言で昴達は直様動き出せる様に警戒を高める。
「そんな気を張らないでください、捉えに来た訳ではありませんので」
「なら何が目的なのかな?」
「取り引きです」
「取り引き?」
優姫の問いに即答するラニーニャ。彼女の答えに昴達はクエッションマークを浮かべる。
「ええ、そもそもおかしいと思いませんか?罪の無い人々を極刑に処すなんて」
「まあ、はい」
それには最初、昴も疑問を持って居たのだが、初めてあったバラゴナ国王の第一印象があれだったために考えても無駄だと直ぐにその疑問も捨て去っていた。
「それもこれもあの糞ジジイが原因です。何処の馬の骨とも知れない者に唆され、私利私欲のために剰え私のエルまでも利用しようだなんて!ぶっ殺してやる!」
「え、何この人メンヘラ?」
バラゴナ国王の事を話すラニーニャの口調が徐々に悪くなっていく。それは最後には怒気と殺気を孕むほどに。これには、昴がそう思うのも無理はない。
程なくして「少し取り乱しました」と冷静に戻るラニーニャ。
「で、結局何の話なのかな?」
「近々クーデターを起こすつもりですので朝霧さんの御力を御借りしたいのです」
「このパーティーのリーダーは私じゃないからね、私が決める事じゃないんだよ」
「では、リーダーはどなたで?」
「桜元昴、彼がリーダーだよ」
「え、僕!?」
優姫が昴を指差しながら放った言葉に当の本人は驚きの声を上げる。が、翌々考えてみると今後の方針を取っているのは全て自分である為、そうなっても仕方ないのかと自らを納得させる昴。
「もう一度聞きます、オウモト・スバルさん。貴方は、貴方達は私に協力してくれますか?」
暫しの間、沈黙が続く。昴はラニーニャの、ラニーニャは昴の目を決して晒す事なく無言のまま両者は見つめ合う。二人の瞳には互いに背負うもの、覚悟の大きさ、決意の強さを物語っていた。例えそれがつい先程出来たばかりのものであっても。
「…僕達が貴女に協力するメリットは?」
沈黙を破ったのは昴だった。先程まで葛藤していたのは秤に仲間の安全をかけていたからだ。だがその必要は無かった。何故なら彼女がいるから、人類最強の、国落しの彼女がいる。なら後は危険に身を投じてまで協力する理由があるかどうか、先の質問はそれを確かめるためのものだ。
「貴方達及びあの一族の罪を全てなかったことにします」
「報酬は?」
「…え?」
ラニーニャはカードの切り方を間違えた。今のカードを報酬として掲示していればその時点で助力を得られてたであろう。だが只のメリットなら話は別だ。ラニーニャは先程全て国王のせいだと言った、なら例え昴達が参加しなくともクーデターが成功すれば自分たちの罪もあの一族の罪も無くなる。そこまで読んだ昴からすれば先程のメリットは協力する理由に成り得ない。元よりタダ働きをするつもりは毛頭ないのだから。
「はぁ、致し方ありません。これで如何ですか?」
そう言ってラニーニャが懐から一つの腕輪を取り出した。
「これは?」
「名前は虚空庫、アーティファクトの一つです」
「アーティファクト?」
「現代では作ることのできない高性能な魔道具と思ってくれて構いません。因みにこれは動物以外のものを時間を止めた状態で無制限に収納できます」
「受けます、その依頼!」
《現金だね、ご主人》
虚空庫の説明が終わった後、これで如何ですか?と改めて聞こうとしたラニーニャより早く返事をした昴。それもかなり食い気味だった為、ラニーニャが若干引いていた。ディーネがああ言ったのも仕方ないだろう。
「あ、でもラニーニャさん。僕達これから旅に出る予定なんですけど」
「帰って来ていただけるのなら構いませんよ。此方も準備にはまだ時間がかかります故」
「そうですか」
「あとこれも渡しておきますね。国を落とした後じゃ忙しくて渡す機会も有りませんでしょうから」
そう言って虚空庫を机の上に置くラニーニャ。それを持って逃げることも出来るなと考えた昴だか優姫がバックについてるが故にそれは無理だと思い至る。
「それでは私はこれで失礼させていただきます」
話し合いが終わるとラニーニャはすぐに帰ってしまった。彼女が出て行った後も少しの間其方を眺め続ける昴。
「ねえ、優姫」
「何かな?」
顔の向きはそのままに昴は先程の話し合いの最中からずっと抱き続けている疑問を優姫に聞くことにした。
「エルって誰!?」
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