ボッチのユニークスキル
遅くなってすみませんでした。
この町から出るのにもう暫くかかります。
では本編をどうぞ
昴が初めてクエストを受けてから2週間が経ったある日の朝、昴はエレメンタルドラゴンのディーネと一緒に冒険者ギルドの食堂で食事を摂っていた。因みに優姫はというと三日ほど前に対スライス用の結界に異常がないか点検しに行ったきり帰って来ないので今はいない。
《ねえご主人、今日はどうするの?》
ディーネは昴に今後の予定を聞く。
「そうだな、今日もいつも通り幾つかクエストでも受けよっか。早く借金も返したいしね」
昴はディーネと出会ったあの日から毎日クエストを受けているのだが報酬の低いクエストばかり受けている為、借金の返済に時間がかかっている。
因みにゴブリンの討伐報酬は600ユルドで食事2回分しかない。
《それで借金はあといくらぐらい?》
「確かあと4,900ユルドぐらいだったはずだけど」
《じゃあこのペースだと後10日ほどで完済できるんだ》
「まぁ単純計算するとそうなるけど、人生何があるかわからないからな数日伸びる可能性も十分ある」
《ボクの場合は人生じゃなくて竜生なんだけど、てかそんなこと言ってないでせっせと働け》
「はいはい分かりましたっと、じゃあそろそろ行くか」
ディーネに急かされながらギルドの食堂を後にした昴達はゴブリンを討伐しに街の外へ向かった。
*
昼過ぎの王都内、幾つかのクエストを終わらせた昴達はこの日最後の依頼を達成した報告をしに冒険者ギルドに向かっていた。
「はぁ、疲れた」
《え、もう?雑魚狩りに薬草採集と雑事だけでしょ?ご主人のステータスなら全然余裕だと思うけど》
昴がボソッとこぼした言葉に頭の上で寛いでいたディーネが疑問の声を上げる。
「ディーネの言う通り、体力的には全然余裕なんだけど精神的には結構来てんるだよ。特にゴブリンの討伐で」
《あんな雑魚をたった5匹狩るのに何が疲れるって言うんだい》
「精神的に一番来るのはやっぱり切った時のあの感覚だな。あの感覚はどうしても好きになれないんだよ、特に人型は」
《ふーん、ボクには理解しがたい感覚だね》
「まぁそうだろうな、魔法がメインなんだし」
などと話しているうちに冒険者ギルドに着いた昴達はティルヴァングの居る─他の職員は居ない─カウンターで報告を済ました後、少し遅い昼食を摂りにまた食堂に訪れた。
「あ、昴!こっちこっち」
人の少ない食堂の一角から自分達を呼ぶ声が聞こえた昴は言われるがままにその声の主の元へと歩み寄っていった。
「おかえり朝霧さん、今帰ってきたんですか?」
昴は自分達を呼び寄せた声の主、3日ぶりに帰ってきた優姫へ問いかける。
「そうだよ、この3日間まともな休憩を一切取らずに動き続けてたんだからね。おかげでちょっとだけ疲れたよ」
「へぇ、結界の点検ってそんなに時間が掛かるものなんですね」
「そんな事ないよ、点検だけなら1日もかからないからね」
「じゃあどうして動き回っていたんですか?」
「結界に穴が空いてたんだよ。だからね、その修復と原因の調査に時間がかかったんだよね」
「で、その原因はわかったんですか?」
「それが全くなんだよ、わかった事といえば誰かが意図的にやった事ぐらいだね」
優姫はそう言ってはぁっと深い溜息を漏らす。
《それ、多分ボクだ》
昴の頭の上で寛いでいたディーネがだらんと下げていた頭を擡げて不意に口を開いた。
《その結界ってこの辺りを覆ってるあの黒い幕の事でしょ?》
「どうして穴なんか空けたの?スライム以外なら普通に入ってこれらるようにしてたはずだよ」
《まぁそうなんだけど、あの幕を通るは生理的に受け付けなかったから穴を空けて入ってきた》
「そんなの我慢すればいいじゃん、わざわざ穴なんか空けるからスライムが入ってきたんだよ!」
そんな2人の口論は段々と激しさを増していき、治るのにかなりの時間がかかった。
因みに昴はこの間に1人、昼食を済ませていたりする。
*
「あ、そうそう朝霧さん、少し聞きたい事があるんだけど」
1人昼食を済ませた昴は優姫とディーネの口論が治る頃合い見計らい優姫に話しかける。
「え、なになに?なんでも聞いて」
「魔法ってどうやったら使えるんですか?」
「…………」
昴がそう言うと時間が止まったかのように辺りに静寂が満ちた。
「魔法ってどうやったら使えるんですか?」
「大丈夫、ちゃんと聞こえてるから」
昴が改めて放ったその言葉に優姫は少し被せ気味でそう言いながら人差し指と親指で眉間辺りを揉み、ぶつぶつと何かを呟き始めた。
「ねえ昴、私この前言ったよね?昴に魔法の適性がないから使えないって」
「ええ、言われましたよ」
「ならどうして」
ぶつぶつと呟くのを止めて投げ掛けた質問の答えに対して「そんな事を聞くのか」、と続けようとした優姫だったが被せるように放った昴は言葉に飲み込むしかなかった。
「魔法適性が増えたんですよ、二つも。だから教えて下さい、魔法の使い方を」
優姫は再びフリーズした。
*
「ど、どうして!どうして魔法適性が増えてるの!?」
魔法適正は生まれつき発現しているものであり、後天的に発現する事がないとされているこの世界で、事実そんな事例は過去一度たりともない事を知っている優姫はそんな世界の常識をひっくり返した昴に詰め寄る。
「えっと、実はですねこれ僕のユニークスキルなんですよ」
「え?」
ユニークスキル『魂ノ杯』昴は優姫の前で何度かこのスキルを発動した事があるのだが何かの液体がなみなみ入った杯が二杯現れるだけで何も起こらなかった。その時昴はその杯を口にしようとしたのだがいくら自分のスキルと言ってもどんな危険があるかわからない、と優姫に止められて其れからそのスキルを発動する事はなかった。
だが2日前の早朝ディーネにユニークスキルは持っているのか、どんな効果なんだ?と聞かれ昴はその日の事をディーネに話した。其れを聞き終えたディーネはなら一緒に飲んでみよう、とせがむ。始めは危険だから、と断っていた昴だが其れでも引かないディーネの押しの強さに内心驚きながらも断り続けてたのだが最終的に昴が折れることになった。仕方なく『魂ノ杯』を発動させた昴はディーネと一緒に杯に入った何らかの液体を飲み干したのだが特に何も起こらずその日もクエストを受けに出かけた。
その日の晩ベットで仰向けになりながらステータスを確認しようとした昴はそのステータスの変化にベッドから飛び起きて先に寝ていたディーネを叩き起こした。
昴のスマホに映し出されたステータスはレベルこそ上がっていないが体力や筋力といったものの数値、魔法適性、スキルがそれぞれ上がっており、昴だけでなくディーネのステータスも同じ様に上がっていた。
詳しく調べてみると昴のステータスはディーネと同じ魔法適性とディーネの持つスキルと同種のスキル、ディーネのステータスの半分の値が上がっていた。其れはディーネの方も同じだった。これは『魂ノ杯』によるものだと考えた昴とディーネは『魂ノ杯』の能力は杯を酌み交わした者同士のステータスを一部共有化する者ではないかと結論付けた。
「と言うことなんですよ。だから魔法の使い方を教えて下さい」
2日前に起きた出来事を話し終えた昴は優姫に再度お願いする。
対する優姫はというと、
「………」
三たびフリーズしていた。
ブクマ感謝ですm(_ _)m
これからも宜しくお願いします。