第八話 隷属契約
ぱちりと目覚める。あ~、何か疲れちゃった。疲労困憊だよ。寝てたはずなのに、徹夜明けみたいな感じ。だるい。ふぅ~。とりあえず・・・
「お、おはよう?あっ!よ、依子ちゃん!!」
私の周りを囲むのは藍色の少年少女の集団。その中で、見知った顔を発見して声を掛けた。
「っあ・・・・・・・。はる、か?」
依子ちゃんは大きな瞳を真ん丸にして驚いている。その目から一筋涙が零れた。
依子ちゃんは慌ててこちらに近づくと何か唱え始めた。今まで円柱に縛り付けられていた身体がぐらりと傾ぐ。
「はるか様っ!!大丈夫ですか?」
倒れそうになった私を依子ちゃんともう一人の少女が支えてくれた。ぼおっとしてたときに少し話した依子ちゃんのお姉ちゃんだ。
「うわぁー。ご、ごめん。何かクラクラしちゃって。ありがと~依子ちゃん。あと、えぇと式子さん。ありがとね。」
「はるか様、どうか式子と呼び捨ててくださいませ。叶翔っ!近くの部屋から椅子を持って来てください!!依子、一瞬だけ部屋の結界も解除してちょうだい。」
式子ちゃんが誰かに大きな声で指示すると、すぐに元気な返事が返ってきて少年が大急ぎで部屋の外に飛び出していった。その少年の後ろをちょこちょこと小さい女の子が、にーちゃ!と言って着いて行った。
結界が解除されて、少年と幼女が戻ってくるまでの少しの間、何かが爆発したり衝突しているような轟音が鳴り響いていた。この音、明らかに危険な気がする。
この屋敷壊れるんじゃないかなと不安に思っていると少年とカルガモちゃんが椅子を持って帰ってきて、すぐさま依子ちゃんが結界を掛ける。途端に轟音が聞こえなくなった。知ってたけど、依子ちゃん、凄すぎ!!ちなみに、扉が開いた瞬間、外に成人男性らしき鬼人が倒れているのが一瞬見えたけど、大丈夫なんだろうか。
「はるか様、こちらの椅子にお掛けになってください。」
式子ちゃんが身体を支えて椅子に座らせてくれる。
正直、だるいしクラクラするので有り難く座らせてもらう。
「ありがとう。あの、すごい音がしてたけど何の音だったの?あと、扉の近くに誰か倒れてなかった?」
館の外から、鬨の声や爆発するような音が聞こえていたのが気になる。
「・・・人間達が攻めてきたようです。倒れている男達はこの部屋の護衛・・・いえ監視するように命令されていたようですが、はるか様が目覚めそうでしたので鬼人たちには眠ってもらいました。」
強い意志を感じさせる瞳で式子ちゃんは私を見て、次に依子ちゃんと周りの子供たちとアイコンタクトを取る。
すると、周りの子供たちもそれぞれコクリと頷いて、近くに寄ってきて綺麗に整列する。
何が起こるのかと、ドギマギする。
式子ちゃんが、意を決したように口火を切った。
「はるか様、私達は貴方様に謝らなければなりません。・・・さあ、みんな」
全員綺麗にお辞儀した。後頭部が見える。
「「「ごめんなさぁい!!」」」
「・・・・・・・・・え?」
頭が真っ白になりました。慌てて立ち上がる。
「あ、頭を上げて!!召喚の事なら謝らないでっ。だって、君達にも事情があるんだよね?式子ちゃんが少し話してくれたの覚えているから!!鬼の人たちに逆らえないんでしょ?」
式子ちゃんは、首を横にふる。
「・・・それでも謝らせてください。私たちの罪が消える訳ではないのですから。それに始祖様なら私たちを救ってくださるかもという打算もありました。鬼人の不利になるような事を始祖様がするはずがないのに。始祖様ではなくはるか様で良かった。もし、はるか様を犠牲にしていたらきっと私たちは一生後悔していました。はるか様を犠牲にして鬼人達から自由になっても私たちは救われなかったでしょう。依子もそう思うでしょ?」
依子ちゃんはすごい、悲しそうな顔をしている。
「依子ははるかに何も伝えなかった。儀式が行われたのは、はるかを連れてきた依子のせい。・・・ごめんなさい。」
泣きそうな依子ちゃんを見るとつらい。
どうして、まだ善悪の判断もつかないような子供達が大人たちに加護されず苦しんでいるのだろう。
「依子ちゃんもう謝らないで。本当は少し悲しかったけど依子ちゃんはここに居るみんなを守りたかったんだと私は思いたい。そう信じたい。」
依子ちゃんは儚く微笑んだ。
本日、鬼染国の第一領地は隣国八百万の領地、珠洲の人間達と小競り合いをしている。襲撃を受け、館に居る鬼人の戦力ほぼ総動員して、戦っているみたいだ。館に残されたのは血壊者と数名の低位の鬼人だけだった。この館を突破されると砦や集落があり、そこで暮らす低位の鬼人たちが危険に晒される。人間は人間や血塊者を隷属させることはできても、鬼を隷属させることはできない。何でも、人間の血の有無が重要らしい。そして、人間が一番隷属させたいのは異能を持つ血壊者。鬼人たちも血壊者を使うのは慎重になるのだろう。私を召喚する為に成人した血壊者は生贄にされたようだけど、本来数の少ない血壊者は使い捨てにされない。だけど、不遇な扱いを受けている。隷属の技術は人間の方が優れているらしく、血壊者を奪われると完全に人間の手駒になってしまうらしい。
この部屋にいる血壊者は全員、阿修羅と言う鬼人の上位隷属を受けている。それとは、別に何名かの鬼達と下位隷属させられている。血壊者の隷属権利は鬼力の多いものが優先されるのだが、阿修羅が血壊者たちと上位隷属契約をしているのは、直接血塊者たちに命令するのは阿修羅に一任されているからである。式子ちゃんや依子ちゃんたちは始祖様が血壊者を道具の様に扱わず待遇を憂いてくれるような人なら、隷属契約をしてくれるように話を持ちかけるつもりだったらしい。
いろいろと式子ちゃんが説明してくれた。鬼力か。私にも鬼力はあるのかな。ここに居る子たちは儀式が失敗したと思っているみたいだけど、正確には失敗ではない。一応、始祖様の能力?を継承していくみたいだし。だけど鬼力と言うのは何となくしか分からない。
「それにしても、このタイミングで人間が攻めてきたのは幸いでした。おかげで、鬼人を交えずはるか様とお話することができました。」
式子ちゃんが嬉しそうに微笑んでくれる。式子ちゃんは依子ちゃんと顔の造作は似ているけど表情が柔らかいため大分印象が違う。式子ちゃんは藍色の腰までありそうな長い髪を後ろで簡単に纏めている。
「式子姉ちゃんっ!あのな、俺のおかげなんだぜっ!!」
腕白坊主って感じの短髪の元気っこがドヤ顔している。
「俺な、こっそり人間側の血壊者に情報流したんだ!!鬼人達が始祖様を復活させようとしてるって!俺の能力、阿修羅の野郎鬼力が少ないからって馬鹿にして舐めてるからだ!ざまあみろっ!!」
式子ちゃんの顔色が悪くなる。
「どうしてそんな危険なこと相談もせずにしちゃったの!?奏飛のした事は一歩間違えればみんなや、はるか様を危険に晒していたかもしれないのよ!!今回は近い領地しか攻めて来てないみたいだけれど、国ごと動いていたら私たちの身も危険に晒されていたかもしれないのよっ!?それに、ばれたら奏飛、阿修羅様に殺されちゃうわよっ!?」
式子ちゃんに叱責され、拳骨をもらう奏飛君。真っ赤な顔をして泣きだした。
「だ、だって、式子姉ちゃん幸いだったって、さっき言ったじゃん!!俺、血壊者の大人を生贄にした鬼の事許せねぇもんっ!!鬼なんか、人間にぶち殺されればいいんだって思って、それで、ぅぅあああああああああぁん!!!」
「奏飛・・・・。殺されちゃうの??ぅああああん」
「奏ちゃん・・・。死んじゃやだぁ!!うぇえええん。」
小さい子が釣られて泣きだした。ちょっと収拾つかなくなりそうだ。
落ち着いている依子ちゃんに質問する。
「依子ちゃんは奏飛君の能力知ってる?」
依子ちゃんは小さく頷く。
「奏飛、馬鹿だけど、能力はすごい。許可した人に離れたところから声を届ける事ができる。でも、鬼力少ないから成功率低い。おそらく、奏飛の友達が人間側に今は居るからその子に声届けたと思う。」
「すごい、能力だね。血塊者の子たちはみんなそういう能力を持ってるの?」
「鬼力では鬼人に全然叶わないけど、多様性に富んでいるのは血壊者のほうだと思う。もちろん鬼力だけの血壊者の子も居る。鬼人は確かに鬼力は多いけど、低位の鬼人は身体強化ぐらいしかできない。だから、人間と鬼人との間に生まれた血壊者蔑んでるのに利用しようとを囲ってる。それだけじゃ足りなくて、強い能力を手に入れるため異能を与えたと記録が残っている始祖様を復活させようとした。」
依子ちゃんは無表情ながらぎゅっと拳を握りしめている。
「・・・・・・うん。そっか。う~ん。依子ちゃんは隷属契約の仕方を知ってるの?」
「知ってる。」
「簡単にできる?」
「血で床に陣を書く。隷属の誓いの言葉を相手に唱えさせる。自分も唱える。鬼力を陣に循環させる。陣に書いてある文字が消えていって、最後に残った環が浮き上がってきて首に消えていけば隷属させられる。」
「・・・・・・血?・・・陣?」
「依子、隷属の誓いの言葉知ってる。陣も覚えてる。はるかにやってもらいたい。」
「・・・依子ちゃん、私は隷属契約しても命を奪うことは絶対にしないし、不当な命令もしないと誓えるけど本当にいいの?」
みんなが真剣な瞳で私と依子ちゃんのやり取りを聞いている。
「はるか、お願い、・・・私達を助けて。」
「・・・わかった。できるか分からないけど、やってみよう。」
「・・・はるか、ありがとう。」
私も腹をくくろう。
「依子ちゃん、私に隷属の誓いの言葉と陣を教えて。」




