第七話 尸童と始祖
唐突に目が覚めた。そして、すぐ疑問に思う。今、何時だ!?まだ、寝ぼけている自覚はある。あー、目覚まし掛け忘れたかな?いや、まだ暗いし・・・・・・。
目が覚めたら、真っ暗な空間に居た。なんで?
しばらくウロウロする。目が慣れる前から、ここには家具などは一切ないと知っていた。私は何度かここを見たことがある、と思う。不思議だなあと思いつつ、ウロウロする。
それにしても、ショックである。私は、鬼人の国についてからのことを回想して悲しくなった。まったくもって遺憾である!でも、実は今はそんなに怒ってはいない。元の世界には未練はなかったから。自分が消えてしまいそうな感覚に恐怖は感じたけど、最初だけだったし。後は、なんかボーっとしてたからなあ。我思う。故に我ありだっけ?記憶が全部戻ってきたおかげでホッとしたけど、実際思い出してみるとあんまり楽しい記憶ではなかった。それでも、地球での記憶一つ一つが私を形成する大切なピースだったんだなぁ。なんて、しみじみ思う。
さて、ウロウロしてて気付いたんだけど、この空間、私一人じゃないみたいだね。何か、居る。真っ暗な中、赤く光る双眸に気付いてしまった。気付きたくなかった。それは、ずっと私から視線を外さない。う、うわああ。・・・・・・というか、何だかとってもデジャブ。あの眼、知ってる。
「ふふふ。もしかして怖がってる??」
え?どちら様でしょう?
「う~ん。始祖って言えば分かる??初めましてだね。」
あ、はい。は、初めまして?
「へぇえ。これが異世界の私か~。あはっ。いやぁ、私の子孫のようなものがゴメンねっ!実際私と血が繋がってる子はいないけど、まあ、私の子孫でいいか。婆さんの記憶ではどうやら、鬼の能力が弱まっている中、人間と軋轢が生まれて焦っただろう鬼人に尸童として召喚されたみたいだね。」
そう、みたいですね。
「実は、前からはるかの事は知ってたんだ。だからね、未来の鬼の為に召喚の方法とはるかのことを書物にしたんだけど、ほんとゴメンねっ。」
えぇ~。私だから良いようなものの、ちょっと酷くないですか??
「うん。さすがに可哀相かなあって思って、はるかの自我は残して、能力だけ少しずつ受け継いでいってもらおうかなあって。怒った?」
・・・怒ってはいないですけど、本当にそんなことできるんですか?
「もちろんっ!だって、はるかは異なる世界、異なる時間軸の私の中でも、一番近い魂の磨耗の仕方をしているから。」
はあ。ちょっとよく分からないですけど、危険がなければいいです。
「うーん。私とはるかは同じ人間だって考えてくれればいいよ。まあ、私はとっくの昔に死んじゃったけどね。」
何か、納得いかないですけど、まあ良いです。それで、あなたの目的は何なんでしょう?
「目的?・・・・・・というか願いかな。初めは自分勝手な願いから一目で自分の味方だと分かる存在を作りたかっただけなんだけど、どんどんみんなが大切になっていっちゃって、はるかのことも面白そうって、無責任に召喚の方法なんか残して。でも、勝手だけどはるかには鬼人達の力になってほしい。」
嫌です。
「・・・そうだよね。うん、ごめんねっ!今のは聞かなかったことにしてねっ。あはっ。はるかの意思ははるかのものだもんね。好きに生きるべきだよねっ。」
いや、あの、そういう言い方はちょっとずるいというか、すごいグサグサくるんですけど?
「あははっ。気にしなくていいんだよ?」
気にしますよっ。私怒ってはないんですよ?怒ってないんですけど、自分の意思を無視して利用されるのは嫌なんです。
「うん。それでいいよ。はるかは自分の好きなように生きればいいよ。その過程で力を貸したいと思ったら鬼人たちを助けてくれたら嬉しいかな。」
・・・考えておきます。
「ありがと。十分だよ。私の魂ははるかの魂に取り込まれることになるけど、会うのはこれが最後かな。もともと、そのつもりだったけど。」
あなたは、それでいいんですか?
「もちろん。私ははるかの身体を乗っ取るほど、生きることに未練はないから。精一杯生きぬいたから。はるかの人生ははるかのものだよ。」
そうですか。・・・あ、あの始祖様、始祖様の名前は?
「あははっ。最初の名前は忘れちゃった。誰も呼んでくれなかったから。やっぱり私は始祖様だよ。長い間そう呼ばれていたから。」
悲しくは・・・なさそうですね。
「うわーん。本当はちょっと悲しいよ!あーあ。もっとはるかと話をしたかったなあ~。でも、もう時間がないよ。お別れだね。」
これからも一緒じゃないですか。あー、でもこうして会って話すのはこれが最後かもしれないんですよね。
「そうなるね。私ははるかの人生が幸せであることを祈ってるよ。」
ええ。・・・悔しいですけど始祖様のこと何故か嫌いになれないな。私達別々の人間だったら仲良くなれたかもしれないですね。さよなら。




