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第六話    儀式

その部屋は、平時は守りの印により開かずの間となっていた。その印が破られたのはこの館にはるかという異世界の少女が連れて来られた日だった。


館の中でもかなり広い部屋であるが、今は部屋の中に押し込められるように入れられた30人程の人口密度のせいでとても狭く感じる。


「儀式を執り行う。依子よりこ尸童様をこちらにお連れしろ。」


背の高い赤眼の男が冷酷な表情で命令をくだした。男の周りには藍色の髪や瞳をしたものしか居らず、白髪の頭に二本角が生えているのは男だけだった。


男に命令された依子は、傍に立っている黒髪の少女を連れて男の傍に寄った。


「尸童様どうか、我らに慈悲を。その身に宿る血にて始祖さまの魂を呼び寄せていただきたい。」


意外なことに男は尸童と呼ばれた少女に語りかけるときは、雰囲気が少し和らいでいた。

だが、黒髪の少女はぼおっと空間を見つめているばかりで何の反応もしない。

男は鋭い視線を依子に向ける。


「依子、手順通り進めろ。」


「・・・・・・・。」


依子は男の隣に立つ黒髪の少女を見て一瞬辛そうな表情をするが、すぐに無表情になり懐から銀のナイフを取り出す。


「一滴だけでいい。深く切りすぎるなよ。」


依子の手際は見事だった。一瞬にして、黒髪の少女の指に浅い傷を作り、流れた血をあらかじめ持っていた結晶石に垂らす。それを中央の円柱についている鏡の中に入れた。鏡は湖のように波うち結晶石を吸い込んでいく。

室内は異様なほど静寂に包まれていた。青い円柱は鼓動するよに明滅を繰り返す。やがて、円柱の中から伸びてきた青い蔦のような光が黒髪の少女に絡みつき、誘導するように円柱まで引きずり込もうとする。



「依子、円柱と尸童様を結界で囲め。」


男が命じるが、依子は動かない。


「依子、早くしろ。」


「……はい。」

 

依子は何故か、胸を締めつけらるような痛みを感じる。鼓動も落ち着かない。息が苦しい。だけど、これが何か分からない。


ぼおっとどこかを見ている黒髪の少女、はるかが急に依子を見る。その眼は完全な赤だった。どろどろと濁った血のような赤。

感情などないはずのその眼から、眼を離すことができない。

刹那の間、交差した視線はすぐに逸らされた。だが、震えが止まらない。


依子の姉、式子が見かねて、近くに行くため輪から一歩前に進み出る。


「阿修羅様。…結界なら威力は劣りますが、私にもできます。どうか、そのお役目を私にさせていただけませんか?」


「お前程度が作る結界でこれほどの力を留めておくことなどできるわけがないだろう。……依子、何を考えている。何のためにお前たちのような血塊者を飼っていると思っている。命令に従わなければ姉の命はない。」


男が隷属の首輪に強制力を発動すると式子が、首を掻き毟るように苦しみだす。


依子は姉を失いたくはなかった。


「他のものは、鬼力を練り始めろ。次の班が来るまで注ぎ続けるんだ。」


儀式は滞りなく進んでいく。


青い青い湖のような円柱は、尸童を守る揺り籠のようだった。

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