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第五話    踊る道化

「いやあ、どの世界でも時間でも人間は面白い。くるくる踊って俺を楽しませてくれるし。ちょっかい出すのが楽しくて仕方ない。・・・あの男には悲劇が似合いそうだな。」







僕の好きな女の子は、とても美しい。彼女の瞳は言葉以上に彼女の心を映している。引き込まれそうになる夜の海のような瞳が好きだ。


残念なことに彼女は自分しか愛していないように見える。いつも他人を拒絶している。今日僕は、彼女にラブレターを渡す。おそらく振られることもなく、ただ彼女に嫌がられてしまうだろう。彼女に告白したら警戒されてしまうのは分かっている。他人に好意を向けられることが嫌なんだろう。それでも、困らせてしまうと分かっていても自分を意識してもらいたい。ろくに話したこともないのにどうしてこんなに好きなんだろう。返事は期待できないけど、この手紙は彼女の鞄にこっそり入れておこう。正直怖がらせてしまうと思う。でも、僕を意識してほしい。ずっとずっと君を見守ってきたんだから。






彼女、宮園はるかさんは僕がラブレターを鞄にいれたその日、失踪した。その事実は数日経った朝のホームルームで担任の教師から知らされた。なんでも、彼女の家族は昨日になって警察に失踪届けを出したらしい。そのうち、帰ってくるだろうと考えていたみたいだ。放任すぎないか?僕のラブレターがあまりにも嫌で学校に来ないのかと塞ぎこんでいたのだけど、どうやら、なにか別の要因がありそうだ。彼女が心配だ。ずっと、宮園さんのことばかり考えている。僕も独自で彼女を探そう。




それから、さらに数ヶ月。彼女は見つからない。警察も最近は惰性で捜査を続けているように見える。捜査の進展を聞きに警察署に行ったら、まるで僕が犯人かのように、どういう関係だとかいろいろ聞かれた。僕の気持ちは黙秘権を行使して、ただのクラスメートだと言ったら、全力で捜査しているから、君はもう帰りなさいというような感じのことを言われ追い返された。宮園さんに会いたい。






宮園さんが居ない。宮園さん。はるかさん、君は今どうしているんだろう。つらい思いをしていなければいい。会いたい。どうやら、最近の僕は傍目にも尋常な感じには見えないらしく、友人たちとは距離ができている。親友の鈴木君だけは、僕が宮園さんをどれだけ好きか知っているから、普段どおり接してくれる。ただ、時折何か痛ましげな感じでこちらを見てくるから、そういうときは自分勝手だと分かっているけど、イライラしてしまう。普段通りに、まるで宮園さんのことを忘れてしまったかのように笑っているクラスメートたちを見ると、心の中にどろどろとしたものが溢れてくる。お前ら、何がそんなに楽しいんだよ。



なんの進展もない日々に僕の頭に考えないようにしてた可能性が過ってしまった。もしかして、彼女はもうっ……。


そして、僕の心が弱ったころを見計らったようにあいつは、現われたんだ。



「お前中々面白いぞ?かなり笑えるぞ?うん?俺が誰かだって?まあ、お前の救世主かな。」


僕は直感で理解した。こいつが宮園さんに何かしたんだ!カッとなった僕は男に殴りかかった。


「いやいやいやっ。待てっ!お前何か勘違いしてないか?…だから待てって!」


避けられた。僕は構わず殴りかかる。


「っ貴様かぁぁぁあああっ!!!!宮園さんを返せぇぇぇえ!!!」


「おいおいおいっ。あれか?もしかして、とっくに壊れちゃってんのか?やべぇ話通じなそうだなこいつ。帰るか。」


男が逃げようとする。そうはいかない。こいつは絶対逃がさない!僕はタックルするように男に組み付いた。


「ひひひっ。何だこいつ。相当だな。あー。しゃあない。……宮園はるかに会わせてやろうか?」


あまりにストレートに言われ、僕の身体が一瞬硬直する。


「あ、……会える、のか?」


「ひひっ。ああ、俺なら会わせることができる。あっ、先に言っとくけど宮園はるかが居なくなったのと俺はまったく関係ないからな。あしからず。」


ここで、僕は少し冷静になって改めて男を見る。麦わら帽子を被った肌の黒い男だ。こいつ、何か変だ。まるで、悪魔か何かが人間のふりをしているような、気味が悪い。姿形はどこも、おかしくはない。だけど、こいつ、本当に人間か?何か何か変だ。僕の感覚がこいつを全力で否定している。


「ひひっ。お察しのとおり、俺は人間ではない。だが、だからこそお前の願いを叶えてみせようっ!お前は宮園はるかに会うために全てを捨てれるか?」


「……え?」


「このまま、探していてもお前は一生彼女を見つけることはできない。これは必然だ。」


「な、なん、で?」


「宮園はるかはもうこの世界にいないからだ。いや?生きているさ。そうじゃなくて、お前の手の届かない違う世界にいるからさ。」


「何を言っているんだ?み、宮園さんは無事なんだろうな!?」


「う~ん。まあ、ある意味では無事?と言えなくもないか?」


「どういうことだよっ!」


「うーん。説明すんの、めんどいから、お前の脳に直接理解させる。」


「……え?ぅ、う、う、ぐあぁああああああああぁあっ!!!」



いきなり頭のなかに、知らない映像が雪崩れのように押し寄せる。痛い痛い痛いっ!頭が割れるっ!!



「うむ。問題ないようだな。」





数分後、僕は宮園さんの状況を理解した。そして、激しい怒りに駆られる。


「……何だよ、何なんだよっ!何であんなっ!!!」


「ひひっ。彼女の自我はもうほとんど残っていない。俺がした過去への介入が多少でも影響を与えていれば、何らかの助かる道はあるかもしれんがな?っとこれは今は関係ないな。」


何でっ!こいつは愉しそうに嗤っているんだ!?


「お前はさっき、宮園さんに会わせてやると言った。本当に、そんなことができるのか?」


「あ?まあ言ったけどさぁ、その後に言ったことも忘れてもらっちゃ困るぜ?俺はお前に全てを捨てれるかと聞いたよな?全てっていうのはさぁ、今の生活、家族、友達、お前の未来すら含まれているんだぜ??全部捨てれるのか?」


僕は瞳を閉じる。何不自由なく僕を育ててくれた両親。見捨てず傍に居てくれた親友。だけど、だけどっ!!


僕は本当に最低な人間だ。だって、もう僕の心は決まっているのだから。


「全てを捨てる。彼女に会って救うことができるなら、この命をお前にやってもいい。」


「ほぉ~ん。あんま迷わなかったな。お前のことを心配している人間も捨てるね~。まあ、俺としてはお前の命というか寿命を貰えるなら力を貸してやらんこともない。」


「寿命?」


「ああ。お前の寿命10年分寄越せ。」


「分かった。」


「ひひひっ。即答だな?ちったあ迷えよ。お前が考えている以上に人間の10年はかけがえのないものだぞ?で、お前の望みは宮園はるかに会うことと、助けることだな?」


「そうだ。」


「ふ~ん。じゃあ、お前にはある意味死んでもらうしかないな。」


「は?どういうことだ?寿命10年お前に払うんじゃないのか?」


「ああ。宮園はるかを助けるためにはこの世界でのお前は死ななくてはならない。正確には魂の状態になり、彼女を助けることが可能な人間に憑依するが正しいかな。俺にはお前の魂を抜き取って別の人間に憑依させることができる。ちなみに俺は優しいから、お前の罪悪感を減らしてやるために、憑依先の人間は宮園はるかの召喚に深く関った人間にしてやる。でだ、寿命の件はお前が身体の支配権を完全に奪ったら貰うということで。だいたい理解したか?」



「……ああ。理解したよ。それで頼む。」



「はぁ?俺が言うのもなんだけど、お前気持ち悪いほどいさぎよくないか?」


「うるさい。さっそくやってくれ。宮園さんを助けないと。」


「はいはい。では契約成立。ひひひっ」



僕の意識は遠ざかっていく。ああ、鈴木は呆れるかな。あいつには千円貸してたっけ。いやそんなことはもういいか。父さん母さんごめん。本当にごめん。こんな息子のことはできれば忘れてほしい。ごめん。



宮園さん。はるかさん。会えたら手紙の返事、聞かせてほしいな。



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