第十八話 戻れないこと
私と血壊者の皆は、魔改造した扉を見ながら息を潜めていた。
扉の外からは、悲鳴と何かがつぶれるような音が絶えず聞こえてくる。
外の状況を知るためにも音は遮断しない方がいいだろうとなり、耳をふさいでも聞こえてくる音に耐えるしかない。
それから、時間の感覚も分からなくなったころ扉の外から、物音が消えた。
「・・・・依子ちゃん。音遮断してないよね?」
依子ちゃんは、相変わらずの無表情で頷く。
「獲物がいなくなって、敵もいなくなったのかも。」
奏飛君は、ほっとしたように笑った。
「はは、一時はどうなる事かと思ったぜ。はるか様っ、もう外に出ても大丈夫だよ、きっと」
「う~ん。どうだろうか。もう少し待ってからにしない?式子ちゃんと依子ちゃんは、どう思う?」
式子ちゃんは、悩むように指を口元に当てている。
「・・・そうですね。このままここで阿修羅様が戻ってくるのを待つのが賢明かと。幸い私たちが見張りを気絶させたことを証言できる鬼人も・・・その、敵に殺されていると思われますし。」
「・・・阿修羅が迎えに来るとは限らない。敵の所在も目的も能力も未知数。もしかしたら、阿修羅も死んでるかも」
「ふむ。依子氏の言う通りです。僕が思うに鬼人は此度の戦いで大幅に数を減らしています。つまり、僕達にとってこの危機的状況は光明でもあるのです。」
顔色が良くなった貼り付け君が、眼鏡をクイッとしながらつぶやいた。
「っそうだ!みんなで、逃げようよ!!それがいいよ!はるか様、式子ねえちゃん!この鬼人の国から
逃げようよ!」
一瞬の静寂の後、みんなが歓声をあげる。
「よっしゃ!そうと決まれば、さっそく外にでようぜっ」
奏飛君が扉に手を掛けようとした次の瞬間、
ずずずずっずうずずずうずう・・・・・ばんっ・・・・ばんっ・・どんっ
扉を何かが叩く音で、奏飛君はびくっと伸ばしていた手を引っ込めた。
部屋の中の皆が、緊張で体をこわばらせる。
誰もが言葉を発せないでいるなか、叩く音は激しさを増していく。
どれくらい、経っただろうか。音はやがて消えた。
それでも、皆の緊張は解けず、誰も言葉を発さない。
そんな中、最初に異変に気付いたのは依子ちゃんだった。
「はるか、何か入ってくる」
気づいた時には、すでに床一面に黒く光る陣が形成されていた。
まがまがしい力が、その陣から溢れている。
やばいぃっ!
「みんな、私の後ろに隠れて!!」
次の瞬間、陣から獣の形をした黒い何かか襲い掛かってきた。
そいつは、一直線に私へと襲い掛かってくる。
「はるかっ!!」
依子ちゃんが、私を守ろうと前に出てくるのを突き飛ばした。
次の瞬間、腕を灼熱の降りかかるような痛みが襲う。
「ああぅっ!」
何かに腕の肉を食いちぎられたのだと理解した次の瞬間には、奴は体制を立て直して
再度私に襲い掛かってきた。
やばい、このままだと死ぬ!!
パニック状態で、混乱しているはずなのに私の頭は妙に冴えわたっていた。
床に転がっている木の棒を手にして、折れないように瞬時に改造。自分自身に改造の能力を使い、膂力を底上げする。視力、反射神経、改造、改造、改造、改造、改造、改造改造改造
数秒の間に、すべてが違って見えた。
時間がとてもゆっくり流れているように感じる。
犬畜生もどきが、再度餌にありつこうと飛びかかってくる。
私は、こんな状況なのに笑みを浮かべていた。
棒を横なぎに払う。犬畜生もどきがべしゃっと地面に叩きつけられる。
私は、優雅に散歩するかのように奴に近づき、再生しようとする犬畜生に棒を振り下ろす。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
べしゃ、ごき、べしゃ、ごき、べしゃ、ごきっ
やがで、犬畜生は消滅する。
陣が黒光しだし、また何かが這い出てこようとするのを感じる。
私は、陣に近づき改造する。首だけ出てきた何かは、ギロチンの要領ではねとばされ陣と一緒に消滅していった。
私は、笑顔で振り向いて言った。
「みんなっ!これでもう安全だよ!」