第十四話 異変
その異形のモノたちは、土の中から生まれ出てきた。いくつも描かれた不可思議な黒光りする陣から次々と現われては形どっていく。人型、獣型、様々な姿をしている。
化け物がうめき声を上げる。阿鼻叫喚と化した地獄絵図のような光景が繰り広げられていた。
「止まれぇぇ!!化け物がぁぁっ!!」
異形のモノに斬りかかる鬼人。彼は中位の鬼人で、門近くの見廻りをしていた。つい、先日八百万の珠洲という領地から人間が襲いに来たばかりだ。始祖様をお迎えしたばかりだというのに、何かあっては大変だと休みの日も一人で館付近を歩きまわっていたのだ。
目の前の化け物を素手で殴りとばし、肉壊と成り果てたそれを見てほっと安堵の息を吐く。鬼人の敵ではないな。そう思い、新たな化け物に向かおうとした鬼人は、次の瞬間腹と足に強い衝撃を感じてその後に強烈な痛みに襲われた。
「・・・・・ぇあ?」
何故、自分は倒れ伏しているんだ。訳が分からない。くちゃくちゃとすぐ横で咀嚼音が聞こえる。不思議に思い、音がするほうを見ると真っ黒な四足歩行の化け物が何かの肉を喰らっている。あ!と思った。その鬼人は最後に理解したくない現実を直視するはめになる。そして、息絶えた。
当直の門兵達は、数名を残して騒がしい声が聞こえたほうへ向かった。途中でヘドロのような黒い生き物に出くわした。迷うことなく切り捨てる。
「なんだ、これは?生き物だよな?」
「わからない。泥のようね。あなた、近衛にでも伝達しなさいよ。」
「・・・ああ。集中するから、ちょっと待っててくれ。」
「それぐらい、移動しながらできなきゃ出世できないわよ。」
「・・・集中してるんだから、静かにしてくれ。」
「ははっ。言われてらあ。まっ、俺は伝達できるだけですげえと思うぜ。だから、気にすんなよ。」
「・・・ちっ。」
陣から現われては、館を目指して進軍を続ける化け物たち。増えていく化け物に20人程の少人数で対応していた鬼人たちは次第に追い詰められていく。
門付近に勤める鬼人はそれなりの猛者ばかりだが、未知数の敵に対応できなくなっていた。およそ、知性のなさそうな化け物たちだが固体によっては連携して攻撃してくる化け物もいる。一人、二人と命を落とす鬼人がいるなか、異能持ちが奮闘する。
「くそっ!どうなってやがる!こりゃあ、本格的に近衛兵に出張ってもらわないと俺達じゃ、抑えるだけで精一杯だっ。もう一度伝達してくれっ!!」
「そんな余裕あるかっ!!」
「いいから、やるのよっ!」
阿修羅の近衛の一人は目の前に浮かんだ伝達された文字を読み、俄かには信じがたいものだったが大規模な敵襲だと判断し、黒いヘドロに覆われた化け物が次から次に現われてはこの館に向かってきていると言う世迷言は深く考えず、阿修羅の元へ急いだ。