第十三話 はるか様と狂信者
私は、鬼人阿修羅と向かい合って茶を飲んでいる。どうしてこういう事になったかと言うと、玄海さんがどうも臥せってしまい、部屋から出られなくなったらしい。このタイミングでだ。怪しすぎる。実質領地を取り仕切っているこの男と話し合う必要があるので、気は進まないがこうして茶を飲むはめになっている。
「お口に合いませんでしたか?」
阿修羅がアンニュイな笑みを浮かべ聞いてきたが、無言で通す。正直、ここ二,三日私は二つのことに迷っている。一つは自分の無理のあるキャラ設定だ。正直、自分と真逆の性格を演じ続けるのに、少し無理が生じている。それは、もうぼろぼろとメッキが剥がれ落ちている。もともと、頭のできは良くない私が、あんな覇王キャラを貫き通すのはきついのだ。血壊者の子達のフォローで何とか取り繕えている現状だ。そして、もう一つは目の前の男への対応の仕方だ。こいつは、何というか・・・・・・、ヤバイ!ガチの狂信者だ。正直、怖すぎる!だって、この人躊躇なく部下を殺してましたよ!あの時の目は常人の目ではなかった。野獣だった。
「はるか様、本日は貴重なお時間を頂きましたこと、感謝致します。」
この阿修羅という男、驚くことに私に限っては菩薩なみに寛容なのだ。今も無視されたことなどなかったようにアンニュイな笑みを浮かべている。・・・怖いわっ!そして、この名前呼びである。この狂信者のことだから、当然始祖様で通すのかと思いきや、どうしてもこの名前で呼びたいと言ってきたのだ。覇王モードで断ってもよかったのだけど、何が逆鱗に触れるか分からなくて承諾してしまった。というか、完全な始祖様じゃないって、ばれてないよね??実は知ってるの?どっちなの?完全じゃないからって、血祭りにあげたりしないでね?
「はるか様のご意向をお伺いしたいのです。今後の方針としまして、人間の国にこちらから攻め入るか、それとも守りに徹するか、他三つの鬼染国領主もはるか様のご意向に従う姿勢をみせております。」
そんなの後者に決まってるよ!というか、他の領主達に会ったことないんだけど。本当に存在するのかな。
「強者は余裕を持って挑まれた戦いを受ければよかろう。血気盛んなのは良いことだが、あまりはしゃぎすぎるのもな・・・。」
うぁぁ。おらは、何を言ってるだ。だれかぁぁ、依子ちゃああん。ヘルプー!!あっ今、こいつと二人っきりだった。自分の発言で顔が赤くなりそうなのを必死で抑える。気のせいか阿修羅の微笑が深まった気がする。
「さすがは、はるか様。強者の余裕・・・、素晴らしいお考えです。近々、他三名の領主も御前に馳せ参じますのでぜひ、はるか様のお言葉を聞かせてやってください。」
返答に困ったときは、不適な笑みを浮かべ無言を貫き通す。これは、依子ちゃんに教えてもらった始祖様マニュアルだ。というか、本当は、人間の国と和解する事ができれば一番いいんだけど、・・・無理だろうなあ。人間は鬼人に恨み積もっているのだろうし。そういえば、
「人間が、鬼人を排斥しようと動き出したのはここ最近なのだろう?具体的にはどれくらい前からなのだ?」
「二年前には、同盟国以外の八百万国など数カ国への入国が不可能になりました。この数ヶ月の間に同盟国への入国も断られるようになり、同盟、まあ形だけではありましたが一方的に破棄されました。そして、八百万国などは兵を引き連れて鬼染国に攻め入ってきたのです。」
「ふむ。人間達が攻め入る決断をしたのには、何か理由があるのか?恨み辛みなど世論の感情面以外で。武力面で大きな力を手に入れたとか。」
「何分、人間側も警戒しており、中々情報が入ってこないのですが、調査の結果どうやら二年ぐらい前から、人間側に力の強い呪術師が現われたそうなのです。おそらく、その呪術師の力で人間達は鬼と戦えるだけの力を手に入れたのでしょう。呪術師の存在が同盟国の離反にも繋がったと思われます。」
呪術師?そんなのも居るんだ。さすが異世界。まあ、鬼がいるんだから、呪術師がいても驚かないけど。
「ふむ。その呪術師・・・・・・・・・やっかいだな。引き続き調査を続けよ。」
「はっ!はるか様のお心のままにっ。」
急に立ち上がったかと思ったら目の前で片膝を付かれてしまった。この男、命令されて若干嬉しそうなんだけど。何か、怖い。気付いたら、後ろに立ってたりするし粘着質っぽいんだよな。ただ、顔面だけ見れば、かなり整っているから女官にもててるみたいだけど、私には狂信者にしか見えない。初めて会ったときは無表情で寡黙な男かと思ったけど、どうやら少し違うみたいだ。それに、この男の二面性というか、非道なところを知ってるだけに笑いかけられても恐怖しか感じない。
呪術師のことは奏飛君に頼んで人間側の情報を集めてもらおう。
そう、私が考えていたときっだった。
「始祖様!阿修羅様っ緊急事態ですっ!!」
尋常じゃない恐慌状態で阿修羅直属の近衛の一人が駆け込んできたのだ。