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第十二話    式子

私は、人間と鬼人の間に生まれた子供。式子という名前は母の相手だった鬼人に付けられた名。母は南方の海岸沿いにある小さな村の出身でしたが、隣の町に用事で出かけた日、鬼人に目を付けられて拐かされたそうです。そのころは、人間の国にも鬼人は入国できて、一部の鬼人に人間が連れ去られることは人間の国では問題になりつつあったということを幼いころ母から聞きました。

母を鬼染国に連れてきた鬼人は低位の鬼でした。鬼染国に連れてこられた人間に自由はない。暴力は振るわれないが、家に閉じ込められる生活が待っている。鬼人は人間を対等な存在とは見做さない。現在、人間が鬼人を排斥しようとしているのもこういう歴史の積み重ねの結果なのでしょう。一応、同盟を結んでいる国では問題は起こさないぐらいの分別は鬼人にもあったのでしょうけど、それでも、嫌悪や憎悪や疑心は着実に人間の中で膨らんでいったのでしょう。


人間と鬼人の間に子供はめったにできない。生まれてくるのは大抵異形の肉塊。そして、血壊者。そう考えると母は奇跡に近い確立で私と依子を生んだことになります。依子を産み落とした母は、やはりというか上位の鬼人達に目を付けられたのかどこかに連れていかれました。力に物を言わせ母を拐かした鬼人は、自分よりも大きな力を持つ鬼人に抗えず殺されました。私は今も鮮明にその時のことを覚えているのですが、今でも、あの鬼人がどうして殺されるまで抵抗したのかは分かりません。

依子はどうでしょう。もしかしたら知っているのかもしれません。あの子は特別で不思議な妹です。前世の記憶があるということを三歳のころに教えてくれました。これは二人だけの秘密です。最近は全然前世の記憶のことを話してくれませんでした。依子に聞いてみると、もうほとんど覚えていないそうです。この世界に順応するために消えていったのかもしれないと言って悲しそうに泣きそうな顔をしていました。それでも、依子は年の割にはとても聡明ですし、鬼力も血塊者ではありえないほど多く、何より、異能以外の切り札をもっているようです。切り札のことを聞くと、依子は苦虫を噛み潰したような顔になってしまいます。そして、阿修羅様にもとても頼りにされています。

阿修羅様は私が幼少のころ、一度だけ気まぐれに話しかけてくれたことがあります。小さいのに周りの子の面倒をよく見ていて偉いなと隣に立ち無表情でぼそりと褒めてくださったのです。私は、そのとき、初めて他者に認められたと感じました。

この想いは決して誰にも悟られてはいけない。私の想いは血塊者のみんなへの裏切り。決して許されない想いだ。依子にも言えない。知られてはいけない。依子や皆に軽蔑の視線を向けられたらと考えるだけで足が震えてしまう。自分のままならない恋情が憎い。阿修羅様は憎い。私と依子を育ててくれた血壊者の大人達は阿修羅様のせいで死んだのに、あの方を見ると憎しみとは別の感情に流されてしまいそうになります。そして、そんな私だから気付いてしまいました。阿修羅様の特別な人はただ一人、異世界から召喚された少女はるか様だということを。はるか様を見つめる阿修羅様の視線を見てすぐに気付いてしまいました。

それも、儀式が終わるまでだと思っていましたが、はるか様は始祖様の魂を受け入れても自我を維持していたのです。良かった。本当に良かった。そう思います。でも、心のどこかで何か違う声が聞こえてきそうです。何か、嫌な考えが聞こえてきそうです。でも、大丈夫です。感情を殺すことは得意ですから。それに、はるか様はとてもお優しい方です。私達に怒りを向けて当然なのに、許してくださいました。そして、血塊者を救ってくださるとおっしゃいました。本当にお優しい方です。依子もはるか様と居るときは普段より口数が多い気がします。

これから、人間の国との戦争は激化していくでしょう。きっと、私たちも今までのようにはいかない。私は血塊者の子供達を見守り、はるか様を支えていこう。それ以外のことに囚われてはいけない。最近、母を思い出す。生きていたら地獄でしょう。考えると苦しい。どうか、彼女に救いを。


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