7.キームン
私は、鍛治屋に行った数日後に魔法具屋の前に立っていた。掃除のクエストは、私がはりきり過ぎたのか掃除する場所がなくなったからである。他にも部屋があるから掃除をかって出たがギルマスが意味深な笑みを浮かべたのでやっぱりやめた。それに元文学少女としては、魔法が使えるなら使いたいというのも理由の一つだ。そういえば魔法学校とかもあるのか??
「いらっしゃいませー。あぁ、レグさんですか」
扉を開けると薬品の匂いとともに、怪しげなものが置かれた店内が目に入る。そしてふと高校の時に入った化学の教員室を思い出した。その先生は、十年近く学校にいて自分が過ごしやすいようにいろいろカスタマイズしていた。
「何をお探しですか」
「いや、魔法具ってを初めてなのでどんなものか教えて欲しいなと思いまして」
「魔法具が初めてとは珍しいですね。レグさんがいたところは、相当山奥ということでしょうか。一から教えるということでいいですか」
「はい」
“珍しい”の一言に内心どきっとしたが、自分で納得したようで助かった。隠す理由は、特にないが余計なことを言って立場が変わると非常に面倒だ。決して秘密がある自分ってカッコいいという理由ではない。
「では、…」
魔法具屋の説明を要約すると魔法を使うには、イメージ力が必要とのこと。だから魔法には、必ず呪文が必要というわけではないそうだ。そして魔力の消費の基準は、遠距離&大規模>短距離&小規模といった感じらしい。さらに魔法は、7つの属性に別れ特性が異なるとのこと。
火→活性化
水→沈静化
土→硬化
木→保持
金→流体化
風→風化
無→空間
なんて感じらしい。トリカブトが使った魔法は、無属性の“ボックス”とのことで魔力がほどほどにあるならみんな使うと言われた。生き物でなければそこに入れていたほうが、かさばらない上に持たなくてよいぶん他のものを持てるからだそうだとか。
「ところでキームンってどんな感じですか」
「どんな感じってどういうことですか」
「専門的な職なら憧れます!ギルドマスターのウーナンさんは、毎年画期的な魔法や魔術の論文を出すことで有名ですし。この前いたトリカブトさんもモルジナ学院を主席で卒業して魔法薬学で有名な人です。国一番の拳闘士のストロンガーさんも確かキームンです。それから料理研究家のエリック氏もですね。他には…」
「ストップ!凄い履歴がある人が多いのはわかりました。なら、なんでキームンに入らないんですか?」
これだけ熱烈に語り、私に聞いてくるならギルドに入ればいいと思う。あんな緩い試験なら簡単に入れるはずだ。
「えーっと、それはちょっと嫌かなぁと」
「なぜ?」
「言えるわけない!裏では、奇人変人ギルドって言われてるなんて……っあ」
バッチリ言ってるじゃないか。素直すぎるでしょ。しかもうちのギルドが奇人変人ギルドだと?
「その理由は?」
ここまで言って説明しないとかはないよねー…?マルクさん。と、目線で伝えると肩を軽く跳ね上げ怯えた表情を見せる。
「えーとっ、集まる天才はみんな一筋縄じゃいかない人物ばかりなんです…。興味を持たれたら監禁されるとか、好きな分野について聞くとトイレの時間以外一週間も聞かされ続けるとか。あと机に飲み物を置いてたら実験薬を紛れ込まされるとか。突然銃口を向けられて打たれるとか。私みたいな人間じゃそんなとこ3日ももちません!」
粘着質なやつと暴君でもいるのか?
「少なくとも1週間以上いるけどそんなことになったことないですよ」
「いや、レグさんは……」
「私が何なんですか」
ハッキリ言え、ハッキリ。ここまできたら全部ぶちまけてしまえ。
「他のギルドに入ろうなんて思わなかったんですか。ダージリンとかウバとか」
ダージリン?ウバ?それって紅茶の品種だよね。そもそもキームンまで入ったら世界三大銘茶じゃないか。
「もしかしてダージリンとウバを知らないんですか…?」
「知りませんよ」
私がそういうと何故か魔法具屋が物凄くスッキリした顔をした。わけわからん。
「新人の冒険者が入ろうとするのはだいたいウバかダージリンなんです。ダージリンは、魔力が緑以上で規則を守れる人しか入れません。だから必然的に魔力の多い貴族が多いです。でも貴族の数は平民に比べれば少ないですからダージリンが一番人数が少ないギルドです」
魔力の多さって血筋に依存してるのか。それにしても緑以上ということは、精鋭部隊といったところだろうか。選民意識が高そうだなー。それより冒険者が入るギルドが3種類あるのを知らなかった。
「逆にウバは、門が広くて力とやる気さえあれば入れます。でも経歴は、問わないので犯罪者予備軍のような人物もいます。それでも入るところに困ればウバに入れと言われるので一番人数が多いギルドです」
「なにそれ恐い!」
「犯罪者予備軍は、稀にですよ。だいたいが農家の口減らしや一攫千金を狙った農家の長男以下です」
職に困った人の最終手段なのかな。職業ギルドがあると聞いたが、工学部に通っていた自分から言わせると職業ギルドで職を得る方が大変な気がする。理由としては、世の中デジタル化が進んでいるのに電気系の学科が女子に不人気かにたどり着く。
要するに"力仕事"、"難しそう"、"男ばかり"といったところだ。職人ギルドで男ばかりの嫌な点は、女性との接点が少ないからではないかと推測する。大学にいるとき男ばかりみていると女の子特有の柔らかな雰囲気が懐かしくなる。私も女でしたがどちらかというと戦友認定され最早異性と認識されていなかった。
「なんか落ち込んでます?」
「気のせいです。ところでキームンの特徴は?」
「専門科の多さとそれを補助するクエストの多さですかね。それと個々の戦闘力の質が高いです」
「戦闘力の質?ダージリンが優秀な人物を引き抜いてるんじゃないの」
「ダージリンのお家芸は、均等に高い魔力を使っての連携魔法攻撃です。だから大規模な殲滅戦闘ですね。だけど欠点として魔法に頼るために剣や弓は人並みかそれ以下とか」
魔法特化部隊ってところか。ということは…。
「ウバは剣とかによる物理攻撃特化ってところなのかな」
「はい、魔力が少ない人が多いギルドですから必然でしょう。そんな中でキームンは、魔法も剣も使うんですよ。互いが互いの弱点をカバーするんです」
でもそれって私からしてみれば器用貧乏が集まってるとしか考えられないんだけど。魔法が駄目なら剣で、剣で駄目なら魔法で的な。
「そんなキームンのギルドに入るならギルドマスターか案内人に認められる必要があるんです。才媛と言われてるドロテアさんが希望を出しても試験で落ちたなんて話を聞きます。だからぜひどんな試験なのか。興味がでます」
「キノコ好き?」
「キノコ?変な食感がして好きじゃないです」
マルクは、眉を寄せてとても嫌だという表情を浮かべている。私の妹も同じ理由でいやだと言っていた。
「じゃ、落ちる。私は、好きだといったら合格したからねぇ」
「えっ!?試験これですか!」
そうだよねー、試験と言えない試験だと私も思うよ。
「世間話はこれくらいにして魔法具売ってくれませんか」
「そうですね。ところでレグさんは、指輪とネックレスどちらが好きですか」
「指輪ですかね…?」
普段電気を扱う学問だったため導電するアクセサリーをつけないようにしていた。とくに指輪が言語道断なのだが嫌いではなかったためにちょっとした憧れがある。
「じゃあこれですね」
マルクが渡してきたのは、指輪に小さな水晶のような石が埋め込まれているシンプルなものだった。
「これが魔法具?」
「はい、魔法具の一種です。だいたい魔法具は、魔石とアクセサリーを合わせた形で販売してます。でもたまに剣に魔力を宿らせたいと魔石を剣に埋め込む人もいますね」
それっていわゆる魔剣というものだろうか。興味があるな。自分では使わないけど恐いじゃん?魔剣。
「たぶん、レグさんの魔力量ならそれで足りるはずです。試しに使ってもらいましょうかね。指先に小さな火をだすイメージで"ファイア"と言ってください」
指先に小さな火ねー。チ◯ッカ◯ンで火をつけた時のイメージでいいか。
「ファイア」
言った途端に人差し指の先に朱色の火が現れた。そして人差し指にはめた指輪の魔石が赤くルビーのようになっている。
「さすがキームンですね。一発で使えましたか。なかなか最初が難しいんですよ。火が消えるイメージをしてください。火が消えますから」
言われた通りにイメージすると火が消えた。それと同時に魔石が元の透明に戻っていく。
「この石魔法使うと色が変わるんだね」
「忘れてました!魔法を使って10分経っても色が変わらない。もしくは魔法を使ったのに色が変わらなかったら寿命なので交換しに来てください」
「消耗品なのこれ?」
何回使えるんだろ?数回使って壊れたら燃費相当悪いよね
「はい、よほど無茶な使い方をしなければ通常の冒険者さんで1年持ちます。あっ、授業料と魔法具を合わせてお代は銀貨1枚です」
授業料込みで銀貨1枚か。相場がわからないから比較しようがないけど1万ベッドは払えない金額ではない。
「銀貨1枚っと」
「まいどあり」
マルクがとてもいい笑顔で銀貨1枚を受け取った。口が軽いようだがそう言うところを見ると商人だと思う。
「またのご利用をお待ちしております」
とりあえず魔法具Getだぜ!
やっと書けた…。文字数のわりに内容の展開が非常にゆっくり。