6.武器マニア 後編
次々に交わされる怒声に挨拶すらまともにさせてもらえず目尻に涙をため始めた。さすがの私もここまでくると……。
「喧嘩をやるなら表でやりやがれ!神聖な仕事場で低俗な争いをすんじゃねぇ!!」
平手でスーラブの頭とXの背中を叩く。どちらもそんなに力を加えていないのにも関わらず叩かれた場所を押さえて悶えていた。そんなに痛かっただろうか?それとスーラブの頭叩いた音が中身が入ってなさそうな軽い音だったんだが大丈夫なのか?
「ありがとうございます!私、魔法具屋を営んでいますマルクと申します」
「レグです。連れが騒いですみません」
「…いえ、大丈夫です。さすがキームンですね。Xさんがああなるの初めて見ました」
「しがない新人ですよ。それで魔力計測はどうするんですか」
“さすがキームン”という言葉に多少ひっかかりを覚えたが話を進めることにした。
「こうするんです」
魔法具屋は、籠に入った一匹の鶏を取り出した。ただその鶏の尻尾がまるで虹のように輝いている。
「鶏の中にときどき生まれるアダ・プァツァという鶏型の魔物です。このアダ・パァツァをある一定の時間抱いてやると抱いている本人の魔力と反応して卵を産みます」
「卵!?」
「鳥ですから卵を産みますよ?とりあえずしばらく抱っこしていてください」
渡された鳥の体温が高く小学校の時に飼育していた烏骨鶏を思い出す。卵を産んでいると卵を持って帰っていいという話だったのに私が世話したときに烏骨鶏が卵を産むことはなかった。それと警戒心が強くて暴れまわっていたのも印象深い。このアダ・何チャラは、とてもおとなしく暴れる様子が一切ない。
「それで卵でどうやって魔力を判断するんですか。色とか柄ですか?」
「ひよこの色でわかりますよ。一番少ない順から茶・赤・橙・黄・緑・青・紫・灰色です。一般的に一番多いのは橙。茶はほとんど魔力をもっていません。灰色がでたら伝説級の魔導師並ですね」
「いまのところ一番多いのは誰なんですか?」
「王族のかたがたですよ。女王陛下は紫で、その妹姫であるマリアンヌ様は青ですね。あと公開されていませんが紫をだした人物がもう一人いるのです」
へぇ、やっぱり力が強いのが国のトップにいるのか。それと公開されてない紫なんて陰謀とかが絡んでいそうでおもしろい。ただし傍観するに限るのだけど頭の隅には留めておく必要はあるな。
「あっ、そろそろ生みそうですね」
鶏がぷるぷると震え“ぽんっ”と軽快な音をたてて卵が産まれた。卵の色は、黄色なので通常より多いらしい。魔法チートはなしかな?
「黄色ですか。なんとも微妙な・・・」
「微妙?微妙ってどういうことですか」
「通常より多いでおじゃるが冒険者で魔力が多いと言われる魔法使いなどになるには足りないでおじゃるな。だいたい緑か青でおじゃろう。黄色では、上級の魔法が1~2回か中級魔法が10回位ってところでおじゃる」
「うん、勉強になるよ」
ゲームなどとは違い混戦になる可能性があるのだから、10回程度で使えなくなるのでは微妙である。そういえばポーションなどの回復系統のものはあるのだろうか?
「つーことは、メインは魔法じゃなくて武器だな。うんうん、それで槍と弓、銃ならどれを使いたい」
「剣は何処に消えたんですか」
「向いてないと思うぞー。どうしても使いたいっていうならこれで儂を倒してからにしろ」
「んじゃ、弓で」
Xに勝てる気がしない。あきらかに力負けする。それに弓は使ってみたかったんだ。ゲームでよくレンジャーをやってたくらいだし。
「弓なら魔法で矢に属性付与できるでおじゃるな。良い選択ではないでおじゃるか」
トリカブトのお墨付きももらったし弓で決定でいいかな。
「よしっ、そうと決まったらどんな弓を作るか話をしないとな。弓っていってもいろいろあるからな。ショートボウにロングボウ、最近なんかは威力が強さでボウガンだな」
「ショートボウですかね。ここにくる途中で見かけた何人かがもってたのはそこらへんだったので」
「弓使うなら無難な選択だな。弓一本と矢が十本ってところか。そういえば材質になにか注文あるか。木製か金属か。金属なら普通の鉄もあるがアダマンタイトとかミスリルとかいろいろあるが」
「はじめて使うような人物でも扱えるものなんでもいいですよ。使ってみて違和感があったら変えるという方がいいですね。…それで弓ならちょっとお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「サブで使う武器を一本作ってほしいんです。弓だけでなんとかなるとは思えませんし」
「ふーん、いいがどんなのがいいんだ?」
「刀身が片刃でまったく反りがないものがいいです。全長が私の腕くらいの長さで。あとさやに眺めの房付の紐をつけてくれるといいですね」
「変わった注文だな。できなくがないが…けっこう特殊な使い方をするんじゃないか」
「特殊っていったら特殊ですね。私のところでは忍者刀と言われていたものです」
忍者刀の特徴は、先ほどの形状で隠密を行うのに適した機能を持っている。それはおいおいその場面になったら話すとしよう。
「ニンジャトウ?聞いたことないな。ちょいと聞かせてくれ」
「あぁはい、いいですよ」
だから顔を近づけるのをやめてくれ非常に暑苦しい。さらに言えば目がギラギラして非常に怖いのだが誰も助けてくれないのだろうか。などと視線をずらすと手を合わせる三人がいた。アレ?もしかして踏んでいけないフラグを踏んだのか!?
「そうかそうか!儂の趣味には、武器集めとその情報収集も入っておるんだ。それでお前さんのいったニンジャトウは、どこの剣でどんな材質でどんな使用方法があるんだ!ぜひ教えてくれんか!!」
がっしりと私の腕を掴んだXがさらに詰め寄り唾が顔にあたる。いまさらいやだと言えない。そもそも典型的な日本人である私がNOといえるわけがないのだが。
「まずは…」
それから5時間も武器について話し語られていた。本で読んだ知識をついぺろっといったらさらに詰め寄られXの興奮度が上がってしまった。いつのまにか魔法具屋は帰ってるし、スーラブはなんかの紙を持ってニヤニヤしてるし(あとで確認したらスーちゃんの写真だった。キモイ)、トリカブトは比較的おとなしくしていたアリスの検分をはじめた。最終的に私のお腹が鳴ってお開きになった。とても疲れた。
その夜、ローザさんに聞くとXの二つ名が武器マニアらしい。道理で熱心だったわけだ…。




