27.帰り方
納得がいかなくてずいぶん時間がかかってしまいました
今日はうちのギルドで会っていた。うちのギルド蔵書量がいいし色々な専門家(但し軒並み変な人)がゴロゴロいるので都合がいい。
だから飲み物片手にこれまであったことと調べたことの報告会だ。
「そんなことがあったのか」
「そんなことがあったんです」
自分で纏めてから話したほうがいいと思ったけどチアキが全部話せというので話すことにした。自分では気がつかないけど相手に話すとわかることもあるよね。
「妙だな…」
「妙?」
「そいつは監視者であり管理者でもあるって言ったんだろ。なら管理者の権限で都合の悪い人物を消せるんじゃないのか。例えば俺達とか」
言われてみればそうかもしれない。
だが何かを消すということはかなりの重労働でもある。一つを消したら何十何百の違和感が残るだろう。その違和感を無くすための作業も必要になってくるはずだ。
「消す面倒を犯すほどのことをしてないともいえるよね。忠告までしてくれてるし」
「そこが解せない。忠告っていうのは、消えられると困るからここで止めといてくれってことだろと思うんだよ。消えられると困る理由が思いつかない」
「そうだねー、マスターあたりに聞くといい助言聞けるかな」
何気にマスター頭いいし。真性のキノコ狂だけど。
「マスターって確かクナンって名前のやつだっけか」
「ウーナンだよ。ナンしか合ってない…」
「やっと呼んだね」
ギルマスの声が後ろから聞こえて振り向いたがいつもと違う。何より無表情ではなく笑顔なのに驚いた。
「私は、ベン・シーラーこの世界を作り上げた天才美雨・コルダーの元同僚だった者です。君達をこの世界から出すために君達の前に出た」
いきなり名乗ってきたと思ったらベンって外国人か。
「この世界から出す?出る方法を知っているのか」
「僕も途中までこのプロジェクトに参加していたから君達の助けがあれば可能だ。それは約束する」
「その質問があるんですけど」
「なにか?」
「いま私達は何に巻き込まれて、どういう状況に陥ってますか」
デジタルの世界だということはわかっているけどそれ以外は、全くといってわかっていないのだ。元の体がどういう状態になっているかも気になる。
「君達はブレインマシンインターフェースの研究を知っているか」
「まぁ、知ってます」
大学にそれに似た研究をしている教授がいて興味を持って調べたことがある。脳とコンピューターを一体化させて色々なことをさせようというものだ。例えば、頭に脳の電気信号を読み取らせる機械を被り脳波を計り義手やロボットを動かす。
「メイユイ教授は、それに携わっていたのだがある理由から研究を外されてしまったんだ。それだけなら問題がないのだが研究を外されてからすぐに行方がわからなくなったんだ。でも最近になって各国の重要施設をサイバー攻撃しはじめてしまって…」
「それと私達になんの関係が?」
「メイユイ教授は、人間の脳をスーパーコンピュータ化させた。たぶん君達は、植物状態で脳のみを動かしてスーパーコンピュータとして動いている」
「はぁ!?」
「何を驚いてるんだ?」
チアキは、何を説明されたかわかっていないらしい。私も完全に理解しているかと言われると微妙な所だがヤバいことだけはわかっている。
「つまり私達を人間バージョンのスーパーコンピュータにしたということですよね!?そんなことしたら私達に何が起こるかわからないですよ!」
「そういうことになります」
「どういうことだ?」
「もし必要な演算能力が脳の性能上回れば脳に大きな負荷がかかって、脳の働きが悪くなるか廃人になるかもしれないんです。人間の脳は通常ほとんど寝てるのに無理に動かそうなんて…!」
いくらなんでも横暴すぎる。検体のことを人間と思ってないとしか思えない方法だ。これでは目が覚めてもまともに動けない可能性がある。
「なあ、ならこの世界はなんなんだ?」
「この世界は、君達の脳とコンピュータを一体化させるための世界だ。その証拠といってなんだが自分の記憶の中のものやこうなって欲しいというものが多くないか?元々君達の脳が創りだした世界だから君達が願えば叶う」
「それで理解した。ここは居心地良すぎるのはそういった理由なんだな」
チアキは、そこについては納得したらしい。このことは、私も疑問に思ったことがある。居心地が悪くなさすぎて帰る気がしなかったのだ。
「本来なら私が気づいて止めなければいけないが私には話す程度の干渉しかできない。メイユイ教授は、本当は素晴らしい方なんです。だから殺人を起こす前に止めてくれ!頼む」
「人にものを頼む言い方じゃないがやらなきゃこのままだしやってやるよ」
「それでどうすればいいの?」
やり方を知らなきゃ動きようがない。ベン・シーラーと名乗る男を完全に信じたわけではないが闇雲に探すよりましだ。
「メイユイ教授の直下にある4つのAIを探しだして倒してくれ。そうすれば君達の意識をこの世界に引き留めることが出来なくなる。僕は、これ以上の介入はできないから君達の健闘を祈る」
そう言い残すとギルマスの体が崩れ落ちた。慌てて意識の確認を行う。
「僕は大丈夫だから耳元で騒がないでくれるかな」
「えっと、すみません」
「僕じゃない僕が君達に何を言ったのか知らないけど、やらなきゃいけないことがあるんじゃないかい。僕は、昨日徹夜で眠いから寝させてもらうよ。おやすみ」
ギルマスは、そういって倒れた態勢のまま寝てしまった。腕の中のギルマスが非常に重い。この人、魔術具らしきものじゃらじゃら着けてるからなぁ。
「とりあえずギルマスの部屋に置いていくからここで待ってて」
「わかった」




