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グランレコード  作者: 33
28/44

22. 大掃除

グロいの注意。

この世界にも梅雨が明け夏が来た。


やけつくような太陽に蜃気楼が発生する空気は、東北の田舎暮らしの私には大変辛い。窓を全開にして団扇を扇ぎ読書でもしていないとやってられない。暑くても寒くても読書をしてるじゃないか?当たり前だ読める時に読むのが読書だ。なにが悪い。


だけど今日は、読書ではなく大掃除をしている。大掃除といったら年越し前の時期だと思われるが、キームンでは梅雨が終わって一週後と決めているそうだ。


なぜなら、不要品や欠陥品が梅雨の間に増えるからだった。外に出れないなら篭って趣味に没頭すればいいじゃない!を合言葉に梅雨の間に出来る研究品や趣味の品が酷いらしい。


例えば今手伝っているトリカブトの部屋では、ひゃっくりを止める薬を開発した。方法は、簡単でひゃっくりの原因は、横隔膜の振動なので横隔膜を振動させないようにしたらしい。だがそんなことををすれば必然的に呼吸出来なくなるので欠陥品になった。他には、夜目を効くようにする目薬。ただし効果が1日続くので昼間は目を閉じるかサングラスをかけなきゃいけない。つーか瞳孔が開きっぱなしコワイ。


など微妙なものが多い。しかし、その効果をどうやって試したのか知り……たくないな。


「トリカブト、この白いのなに?廃棄品?」


「それは…」


「うわぁ!?ええぇっ!?」


うっかり手が滑り中身をアリスにぶちまけてしまった。慌てて汗ふき用に持っていた布で急いで拭く。


「そんなに焦らなくとも大丈夫でおじゃるよ。それは、エノキのエキスを抽出したものでおじゃる」


「あぁ、エノキか」


こちらのエノキは、あっちのエノキそっくりで白くて細い茸が群生している。冬の間は、たまに食べていた。なぜたまにかというとなぜかこっちでは、エノキは薬屋に売られ肝心な茸の部分が捨てられていた。それを買い取りたいといい続けた結果、薬屋の店主に、完全にお得意様と認識されてエノキが入ると私の分を残してもらえるようになった。


「そうエノキでおじゃる。あとレグここは、もう大方片付いたでおじゃるから他の場所を手伝うでおじゃるよ。たぶんギルドマスター殿の部屋は、片付けが終わっていないと思うでおじゃる」


「そうか、わかった」


半ば追い出させるような形でトリカブトの部屋から出た。すると隣の部屋から悲鳴が聞こえる。


「ギャー!なんで一週も食い物放置するんだよ!!」


「あの黒い虫が欲しいからに決まってるだろ!あの強い生命力の原因の追求には、1匹2匹なんかじゃ足りん!」


「黒い虫?ゲェーー!?ゴ◯じゃねぇかフザケンなーーー@#!??」


なんとなく合掌をしてからホールに行く。トリカブトがまだましだったんだなーと自分の幸運さを喜ぶ。


「さて、ホールは……」


開けてすぐ閉めた。

ナンダイマノ?ワタシハナニモミナカッタ。


「君は何をしているのかな?レグ君。僕は、ホールに行きたいんだけど」


後ろにギルマスがいた。いることはいいのだが開けろという言葉は、絶対に聞けない。開けたら奴等が入ってくる。


「マスター、掃除は終わったんですか」


「終わっていないよ。ホールの本を何冊か返してないから返却しようと思ってね。だから開けてくれるかな」


「むっ、無理です!」


「あぁん、レグ何やってんだ?バケツ取りに行きたいから退けろ」


スーラブがやってきて突き飛ばす。普段ならそんなことで突き飛ばされないがギルマスに気をとられたため出来なかった。


「開けるな!」


「あぁ?何言って……ギャアアアア!」


スーラブの顔に奴が張り付いた。長い体にびっしりと生えた毛、目は認識出来ず手足もわからない。そう奴は毛虫だ。それも10cmくらいと相当大きい。


(エン)ンンンンンン!!!」


がむしゃらに奴に向かって火の下級魔法を放つ。当然それは、スーラブの顔面に当たるわけで。


「ギャあーーー!」


奴が燃えたらスーラブの顔面が焦げる。そんなのを気にせず扉を閉めて開かないように突っ掛け棒を挟んだ。今さらになって鳥肌と冷や汗が出る。どうやら息も止めていたようで全力で呼吸する。


「うーん、あれはベルバタフライの幼虫ですね。確かあの毛が刺さるとなかなか抜けなくなるんですよ。たしかレッドジャングルに生息していたはずですがね」


「そんな説明より何でここにいるんですか!!レッドジャングルってここから丸一月かかるところでしょう」


「確かレッドジャングルに行く依頼が2、3が消化されたのでそのときにここに持ち込まれたかもしれませんね。そしてここで孵化したと」


レッドジャングル絶対に行きたくないんだけど!!


「おい、俺に火系統の魔法を放っておいて謝罪はなしか」


「下級魔法程度なら平気でしょ。この前食らってピンピンしてたし」


「そういう問題じゃねぇ」


こっちが必死に閉めてた扉を開けた奴が悪い。


「マスターどうしますか。あれじゃあ大掃除が終わっても依頼の方が来てくれるとは思えませんよ」


「5匹くらい捕まえて後は討伐しましょう」


「……捕まえるんですか?」


「ベルバタフライの研究はあまり進んでいないのですよ。そうですね…一匹金貨1枚でどうかな」


金貨1枚ってことは100万ベッド。5匹集めれば500万ベッドでかなりいい装備が買ってお釣が出る。今扉の前にいる奴を捕まえるだけなのだから相当おいしい依頼だ。でも…


「断ります。するなら討伐だけです」


「俺はやるぜ!これであの魔道具が買える!」


言うなりスーラブは、突っ掛け棒を外し中に突撃しに行った。


「あいつは、捕まえたあとどうするつもりなんだ?ボックスに突っ込んだら死ぬだろうし」


「考えていなそうですね。……そういえば、ベルバタフライの幼虫は幻覚作用のある液体を噴くという論文をこの前読みましたよ」


「それって不味いんじゃぁ」


そういえばあんなに幼虫がいるのに誰も騒いでいないのはおかしい。このギルドは、おかしな感性の人が多いが全員ではないのであり得ない。もしかしたら幻覚作用にかかってしまったと考えていいだろう。


「ギャァ、なんか吹いた!」


スーラブの悲鳴が響いた。毛虫嫌いな私にとって最悪すぎるでしょう。


「全部焼却処理してやる」


「レグ、待つでおじゃる」


トリカブトが毒々しい青紫色の液体を入れた瓶を持って現れた。


「これは殺虫剤でおじゃる。この瓶の中に布を垂らして火をつければ煙と薬で虫が死ぬでおじゃろう。あと人間には害はないでおじゃるよ」


異様に準備がいい気がするがこの際気にしない。幼虫は、サーチ&デストロイです。ありがたく瓶を貰い言われた通りにしてサッと扉の向こうに置いた。




……30分後

「そろそろ終わった筈でおじゃる」


「気が進まないけど開けなきゃ駄目だよね…。あぁ、開けたくない…」


「ならまろが開けるでおじゃる」


トリカブトが観音開きの扉を開ける。途端に薬の匂いらしき草の青臭い匂いと蚊取り線香の混じったような匂いがした。ふと見るとあの大嫌いなのは、ピクリともしていない。その脇には、今生の別れとばかりになく者や、熱烈なキスをするアレにする身の毛もよだつ光景が広がっている。


「何が起きてるのコレ?」


「幻覚作用の結果ですよ。昔からベルバタフライは、自身を守るために敵が好意を持つようになる幻覚を見せるのですよ。だからベルバタフライの幼虫は、捕まえることが難しい」


確かに好きな相手を傷つけようとするひとなどいないだろう。それにしても気色悪い光景だ。とっとと片付けるに限る。


「まろも片付けを手伝うでおじゃるよ」


トリカブトにも手伝ってもらいベルバタフライの幼虫は撤去or焼却された。ベルバタフライの液体にやられた人は、物理的方法で正気に戻した。


「終わったー。本当に誰だよ。ベルバタフライを孵化させた奴!」


SAN値がこんなにガリガリ削られるのは初めてだ。もう部屋に帰って寝たい。


「ご苦労だったね。そんなレグに誰が持ち込んだのか教えてあげよう」


「わかったんですか!」


「ベルバタフライの幼虫の液には、幻覚作用があるので古来から惚れ薬の材料として珍重されてました。薬に精通していてかつレッドジャングルに行けるような期間ギルドにいないのはトリカブトだけですよ」


「まろである証拠がないでおじゃる」


確かにトリカブトである証拠などない。薬に精通していなくとも間違えて持ってくる可能性がある。


「ならば今持っている試験管を僕に渡してください。僕は見ましたよベルバタフライから何かを抽出したのをね。違うというならば出せますよね?それともクリス嬢に惚れ薬を盛れなくなるから嫌ですか」


「なぜマスター殿がそれを!」


へー、トリカブトがクリスを好きねー。そういえば前にダージリンに行く時いの一番に名乗り出てたし、何かと一緒にいるのを見ている気がする。でも組み合わせ的には、悪くないと思うし大変だろうけど見守る方向にしておこう。つーか語尾におじゃるがなくなってるよ。


「とりあえずトリカブト。惚れ薬盛るくらいなら別の方法で惚れてもらう努力しろ。私も相談くらいのる」


「レグ…ありがとうでおじゃる」


「ということでベルバタフライの液を渡してもらうことで不問にしましょう。殺虫剤のおかげでホールが火の海にならずに済みましたし」


それを聞いてしぶしぶとトリカブトは、黄緑色の液体が入った試験管を渡した。


「あー、疲れた。トリカブト悪いけど部屋に戻って仮眠するよ」


「部屋掃除はほとんど終わったので大丈夫でおじゃる」


ありがたいので部屋に戻るとアリスがなんかモゾモゾしていたがどうしても怠いので寝た。叫ぶのって想像以上に疲れるわ。などと思ってしばらく寝ると何かが私をパタパタ叩く。見るとアリスがいた。外が茜色で夕飯の時間だから起こしてくれたのだろう。ということは私を叩いていたのは、アリスの足だ。


「アリス、起こしてくれるのは嬉しいが足で起こさないで欲しいって言ったよ…ね…?」


まだ寝ぼけているのだろうかアリスに腕があるように見える。目を擦っても頬をつねっても腕がある。


「アリスに腕が生えてる!!?」


足とはまた別にひょろっと二本生えている。コレはどう考えても腕。なぜ腕が生えたのか考えると原因は、トリカブトのあの薬品を被ったからではないか。


「腕が生えただけなら大丈夫か?」


本人(アリス)も腕生えて喜んでるし。


そうアリスの変化は、他のギルドメンバーに比べればまだマシな部類だったと知るのはそう遠い未来ではない。

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