表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グランレコード  作者: 33
25/44

20. カオスカーニバルⅠ

「離せ!」


ジルの拘束がとれた瞬間に全力で逃げ出したのにすぐに捕まった。ゴム弾が利き脚に当たればだれでも足が一瞬止まるだろう。そもそも全力で逃げている相手の足に後ろから当てるこいつが異常なのだ。しかも頭をがっちり掴んでブラブラさせるのやめれ。


「却下。さっきは散々、虚仮(こけ)にしてくれたからお前は、俺と組んで壁をしてもらう」


「それは私に死ねって言ってますよね!そもそもパーティー組まなくても絶対ジルさん強いでしょ」


私の言葉にジルがニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。非常に嫌な予感しかしない。


「よくわかってんじゃねぇか。壁はよしてやる。特別に下僕にしてやろう。非常に光栄だろう?」


「いえ、まったく」


やめておけばいいのについつい余計なことをいう口だ。他に言い様があるだろう私。ほら機嫌がまた…あれいいぞ?もしかして抵抗すると余計に絡みたくなるタイプですか。嫌いじゃないけどそういうタイプの人苦手です。


「レグ殿は、まろの友というので手一杯ゆえにジル殿の下僕になる余裕はありませぬ」


「けっ、毒マニアかよ」


グッジョブだトリカブト!私は、君の友人だったことにこれほど感謝したことはないよ。でもさ、会う人会う人みんなに顔をしかめられるってどんだけだよ。そして私の頭をとっとと離せジル。


「どうせこいつ実験体(とも)なんだろ?」


「レグ殿は、考えを同じくする良き友でおじゃる。この前もポイズンドラゴンの毒がどの器官により精製されるのかという議論をしたでおじゃるよ」


「あのときは唾液腺が怪しいってことになったかな。通常ブレスを放つ直前に吸い込む動作をするから唾液とブレスが合わさると毒に変化するんじゃないかって」


「その発想はまろにはなかったでおじゃる。非常に有意義な話だったでおじゃるよ」


なんかジルが静かだなと思ったら信じられないものを見た顔をしていた。そしてようやく私の頭を鷲掴みしたままだったのに気がついたらしく離す。頭の形は、変形していないよね?なぜかクリスさんが爆笑してるんだけど。なぜ?


「こいつと話が合うなんて…お前変な奴だな」


「ジルほどじゃないと思います」


「やっぱり一回死んどけ」


「冗談ですよね?だから銃口を私の頭に突きつけないでください。…はい」


まだ死にたくないです。あれ?そういえばレグになる直前に私は何をしていたんだろう。死ぬほどの病気にかかっていなかったし、事件か事故で死んで今の体になったのか。だが死んだ記憶がないのはなぜ…?


「遊んでないで準備をしたらどうかな」


「あっ、マスター」


「みんな30分後にここに集合してもらう。一部例外を除きカオスカーニバルは、全員参加が求められるから。以上」


ギルマスがそういうとギルド内にいたメンバーがぞろぞろ移動を始めた。ボックスを使えない人は部屋に置いている人も多いのだ。その点通常より少し多い程度の魔力がある私は、弓と忍者刀(仮)と軽鎧を出して装着するだけなので楽でいい。


「うわぁ、緊張する」


「そんなに緊張しなくても大丈夫でおじゃる。モンスターの大半は、ダージリンの集団詠唱魔術で倒してあるはずでおじゃるよ。まろ達は、ウバと一緒に残り半分の討伐をするだけでおじゃる」


それはどちらで受けとればいいのだろうか。ダージリンに半数やられるほどモンスターが弱いのか。ダージリンに半数もっていかれるほど数が少ないのか。どちらにせよ集団詠唱魔術というのは気になる所だ。それにしてもモンスターの大群が来てるのに我ながら落ち着いてるな、というよりも現実味がないからかも知れないけどね。などと談笑しているとギルマスがまたホールに来た。


「瞬間移動」


視界が一瞬で真っ暗になり車酔いになったかのように気持ち悪くなった。





移動先は街に入る門を出てすぐの広場。そこには一緒に移動したギルド員とウバらしき集団がいる。とても見分けがしやすい、変人オーラ出しているのがうちのギルドでガタイが良くて人相があんまりよくないのがウバだ。


「…で、ダージリンは…?」


ダージリンを探すとかなり離れたところに銀色に光る鎧の集団をみつけた。それと同時になにやら合唱でもしているような声が聞こえてくる。荒々しく力強いが不思議と調和された感じとでも言おうか。確か野球部が校歌を歌った時とかこんな感じだったかな。


「集団詠唱をやっているわね」


「集団詠唱って歌のこと?」


「他になにがあんだよ。魔法っていうのは、基本的にイメージを固定化させないと発現できねぇんだぞ。歌だったら呼吸、歌詞、音程、タイミングとかいろんな要素やイメージが合わせやすいんだよ。そんなこともわかんねぇのか?」


そんなこと知りませんでした。でも理屈はなんとなく理解したと思う。


「そろそろ仕上げでおじゃろう」


トリカブトがそういうと詠唱が終わったようだ。


「「「熱き地下の支配者"サラマンドラ"!」」」


地面が盛り上がり赤く光るモノが出てきた。それは全て姿を現すとマグマで創られたワニのようだった。翼がなく鈍重としか言い様のない体は、間違っても竜でもドラゴンにも見えない。


「ガァァァァァァァッ!」


尻尾で体を支えるように立ち上がるとソイツは、大きな口から火炎放射を放った。すると前方にいたモンスターが消滅し焼け野はらが広がる。


「森焼き払うってまずいだろ!」


「これだからヒヨコはうるせえ。俺らが戦う場所を確保しねぇとメンドクセェだろうが」


「戦うってあの威力じゃモンスターなんて…は?」


焼かれなかった森から続々とモンスターが出てくる。来る度に数を増やしていると聞いていたが多すぎではなかろうか。


「やはり半分といったところでおじゃろう」


「そもそもダージリンがもう一回さっきのをだせばいいんじゃあ…」


「もう今日は使えないだろうな。ダージリンの面子もう撤退してっだろ」


たしかにこちらに向かってぞろぞろ撤退している。あの立派な鎧は、飾りなのか?貴族が一番多いって言ってたから見栄っ張りそうだしなぁ。


「あれ?残ってる人がいる」


「残っているのは、平民でおじゃるが能力を買われている人物でおじゃる。それだけにとても強いでおじゃるよ」


「それ嘘だぞ。喧嘩吹っ掛けたら5発で全員降参したぞ。……あの金髪の女新人か。あとで喧嘩売るかな」


金髪の女?目を向けたがそれらしい人物を見つけられなかった。誰だか知らないけどジルに目をつけられるって可哀そうに。


「あんれぇ、レグ。なんでジィルと一緒にいんだぁ」


「そういうエリックこそなんでフライパン?出刃包丁はまぁ…わかるけど」


「フライパンは、盾と殴打用なんだべぇ。こんでもこのフライパンは、ヒヒイロガネで出来てっから相性がいんだぁ」


ヒヒイロガネって聞いた覚えがあるけど、どんなのだかしらないな。それとこれから戦場になるのに純白のコック服と帽子ってありえないのだが。


「…レグ。あげる」


いつの間にかキョンが私の隣にいた。何かを探しているのかキョンは、袖をごそごそして取り出したものを私のおでこに張りつける。周りで小さな悲鳴が起きた。


「えっ!?これなに??」


「…ソレ…10回攻撃弾く」


「へー」


札が視界でピラピラして気になるが効果を聞けば外す理由もない。しかも友達だからあげると言われたのだ、ちょっと嬉しい。


「ありがとうキョン」


気にするなという意味なのか手を軽く振り門の方へ行ってしまった。


「あいつ喋るんだな」


「そりゃしゃべるでしょう」


ジルの言葉に呆れているとホラ貝を鳴らしたような音が辺りに響いた。先ほどまでの抜けた雰囲気ではなく戦う直前の妙な静けさが包み込む。


「攻撃開始!!」


どこからともなく聞こえた女王の声を皮切りに攻撃が開始された。私は、カオスカーニバルが起きる前にトリカブトとクリスさんを巻き込みある作戦を実行するために動いていた。


「それじゃ行ってくるね」


クリスさんが1から造った?人造トロールの肩に乗って前線の手前まで行った。人造トロールは、両腕に大きな黒い玉を抱えている。それを前線についた途端に放り投げた。


「よし!炎矢(エンヤ)!!」


私は、投げられたソレに火の属性を付与した矢を射かけた。日々の練習と戦闘の成果か緩く放物線を描きながら矢は、吸い込まれるように黒い玉に当たった。そして次の瞬間大爆発を起こしながら玉が破裂し近くにいたモンスターは、ひとたまりなく部分欠損もしくは半身を無くす結果となっている。


この黒い玉、実は中身がニトロを染み込ませた土…所謂ダイナマイトになっていた。ニトロの作成の知識はあったけど材料がないのでトリカブトに頼む。やはり餅は餅屋らしくニトロ作りに成功してくれた。ついでにいうと知識として知っていただけで悪用しようなんてこれっぽっちもない。


話がずれたが本当ならば信管をつけて爆発させるところだ。だがここは魔法の世界なので、火の属性の矢をこのダイナマイト(仮)の表面にコーティングした火薬に着火させることにより誘爆させた。


「すごい威力でおじゃるな」


「まぁね」


クリスさんが戦場に次々投げる黒い玉に当てながら返事を返す。たしか造った黒い玉は、トリカブトが10個と言っていた。射た黒い玉は7つになったのであと3つ。


「おーわり!やった!」


なんとか10個すべてに射ることに成功したので一安心。一つでも残ってたまたま火の魔法を使った人が爆死したら笑えない事態だからなぁ。


「あとは普通に攻撃するだけでおじゃるな」


「そうだね」


トリカブトに返事を返しつつ周りをみると、やけにファンシーな人形がモンスターをボコボコにしていた。よくみるとその腕にはちょこんとスーが乗っている。スーは、いわゆる人形使(ドールマスター)いというものなのだろうか。いつも持っている人形は、あれ自体が武器ということになる。


「今日の夕飯は角煮だんべ~♪」


超いい笑顔でオークを狩る人物が見えたが見なかったことにする。今日の夕飯食う気失せるわ。ウゲェー。


「あっ!」


叫び声が聞こえてそちらを向くと私に向かってワーウルフが走って来る。ワーウルフは、人間並に大きく2本足で移動も出来るのでトリッキーな動きが出来る。一番の武器は、伸び縮みする爪と鋭い歯であろう。そんなワーウルフが一番移動しやすい4本足でかつ口を広げ私に向かってくる。


「これは、ついさっき思い付いたのをやってみましょうかね」


忍者刀を鞘から抜きワーウルフに対して垂直に構える。これは失敗した時の保険ともう1つ別の意味がある。


「ボックス」


ワーウルフの目の前にボックスを出した 。ワーウルフの頭だけがボックスの中に入る。その瞬間にボックスを"閉じた"。


「げぇ」


私の近くにいたウバのギルド員が呻き声を漏らし吐いた。たしかに首が鋭利な刃物で切ったように無くなったらちょっときつい光景かもしれない。さらに血が勢いよく吹き出し赤い水溜まりを作る。


濃厚な鉄の臭いが鼻にこびりつく。だがだからといって気持ち悪いとか気分が悪いといったことはない。女の時に毎月あれがあったからねぇ。


「大丈夫か?」


気がつくと目の前には、大きなハルバードを担ぐチアキが立っていた。美少女がおよそ持っているものではない、と思うが妙に馴染んでいるようにも見える。


「大丈夫です。チアキさんは、特に怪我もないようですね」


「痛いのは嫌いだからな。それにしてもレグは、コレに参加するのは初めてか」


「そうだね。ギルドに入ったのも最近のことだし」


「俺も初めてだ」


俺という言い方を気にかけるよりもチアキの笑みが頭に残る。なんというか大人っぽくかつホッとする感じだった。


「顔にまだ血がついてるか?」


チアキが自分の顔をペタペタと触るが血などまったくついていない。


「ついてないよ。でもここになんで来たの。ダージリンの人達皆戻ったんじゃないのかな」


目立つ銀色の鎧は撤退して残っているのは、鉄の鎧や革の鎧を着ているウバやキームンばかりだ。ダージリンの人はもう残っていないのではないだろうか。


「君は知り合いが落ち込んでるのにほっておけるのか?」


「落ち込んでる?私が?どちらかというと疲れたってところだけど」


「ふーん」


チアキはそういうと手招きしたので近づいた。近づいたのにさらにチアキが手招きするので今度はチアキに合わせて屈んだ。私の頭をガシガシ撫でた。この体の髪は、元のストレートと違って若干天然パーマだからそんなことされるとぐちゃぐちゃになる。でもとくに文句がでてこないのは、本当は落ち込んでいたということなのかもしれない。そもそも頭を撫でられるなんて久々な気がする。


「あー」


「?」


私がチアキを見ると困ったといった表情を浮かべていた。


「やっといてなんだがどれくらいでやめればいいんだ。コレ」


コレとは頭を撫でることだろうと思うが適当にやめればいいだろうに。だけどそんなことを言ったら目の前の少女は、怒りそうなので屈んでいた体を起こした。


「思ってたより疲れてたみたいだよ。ありがとうチアキ」


「別に礼を言われるほどのことじゃない。それじゃあな」


美少女なのにどうも男らしい口調と態度のチアキが来たときと同じようにハルバードを担いで門に向かった。私は、戦場と化した場所を目に焼き付けてから我がキームンに戻ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ