2.毒マニア
「しんじーん、なにやってんだー?」
「それよりあいつは猿かよ。梯子使わないで天井近くの棚拭きにいくとか」
「つーか、なんでキノコが後ろくっついて行動する」
さっきからまじめに掃除をしているのになぜか声をかけられる。掃除の基本は、高いところから低いところへ!ということで私の行ける可能な範囲の高いところの掃除から始まった。だから今現在、何十段目の棚を乾拭き中だ。酷いところは、水拭きしてからの乾拭きという念の入れようである。予想外にもキノコが優秀で私が降りようとした場所になにもないようにどけて脱いだ靴をおいてくれた。
それにしてもたしかに梯子とか必要かも。昔やった木登りの要領で靴を脱いでからするするとここまで登ってしまったけど普通は梯子を使うか。でも梯子あったんだ?
「そこのもの、右手の赤い本を一冊とってもらえんかの」
「んっ?これっすか」
やけに古くて立派な表紙の本で興味が惹かれタイトルを見た。“毒草の真髄~日常編~”
「…」
「その本をまろに渡してたもれ」
下の方で催促の声が来たので仕方なく本を持って下に降りる。そこには、栗色の髪で人の良さそうな顔の青年がこちらを見ていた。その青年に本を渡すとうれしそうに本を受け取る。この青年がさっきから麿言葉を言っている張本人なのか?
「ありがとうでごじゃる。この本を読みたかったが、高い場所が苦手でとりにいけないのでおじゃる」
「そうなんすか」
やはり、そうらしい。違和感がありすぎて笑いがこみあげてくる。
「ところで君の名前はなんでおじゃる?まろは、トリカブトと申すでおじゃる」
「俺はレグ。ところでトリカブトは、毒草の名前だろう?いやじゃないのか」
「もともとは違う名前だったのでおじゃる。でもトリカブトが好きなのでトリカブトに変えたでおじゃる」
すきでトリカブトに変えるか普通!?逆ならありえるが…。
「それよりもトリカブトが毒草と知っているとは、毒草について詳しいのでおじゃるか!?」
「詳しいってわけじゃないが野草で毒をもっているのはいくつか知ってるだけだ」
「ふむふむ、たとえばなんでおじゃる」
「彼岸花や百合の根とか。あとは、馬鈴薯の芽か?」
たしかもっとあったはずだが見ないと思い出せそうにない。それに大体毒をもっている植物は、生命維持活動に必要な根や花などに毒をもっていることが多い。などと自分で自分の発言を確かめていると、トリカブトが予想外なほどの強い力で手を握ってきた。
「同士!」
「えっ、はっ!?なにが…」
「毒に興味を持ち知っている人物がこのギルドには、非常にすくないのでおじゃる。毒というのはとても奥深いもので人舐めすれば死ぬものから少しづつ長い年月をかけて死にいらしめるものまであるのでおじゃる。まろとしては、状態以上に分類される麻痺や睡眠、下痢などの毒も大好きでおじゃる。大体、状態以上があったときに薬草がわからないというのは三流以下の冒険者だと思っているでおじゃる。その場で対処できないのでおじゃるからまろとしては、そう思っているでおじゃる。かの有名な冒険者である…」
トリカブトのマシンガントークに私の口が引き攣るのを抑えて聞く。たしかに毒というのは、冒険者にとっては大事な要素になってくるであろう。毒を使えば相手を弱らせたり、動けなくすることも可能だ。よく暗殺の手段として使われるほどである。だから使い方によっては有用なのはわかるが堂々と毒について人前で語っていいものだろうか?
「…ということなのじゃが、どう思うでおじゃる?」
「すみません、いま掃除中なのであとではダメですか」
「それはすまんでおじゃる。キノコに好かれる御仁でごじゃるからよき友になれそうでごじゃる。なにか手伝えることがいうでおじゃる。ではでおじゃる」
トリカブトはそういうと、私の横にいたキノコの傘を撫で鼻歌を歌って休憩所に行った。よほど同じような趣味?をもった人物が現れたことがうれしいのだろう。それにしてもおじゃるって言いにくくないのかな?手伝ってくれるというようなひとだからいいひとなのだろう。
「とりあえず掃除、掃除」
そのあと掃除が終わるまで誰も話かけることはなかった。
毒好きのマロ口調青年です。ちょくちょくだす予定。