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グランレコード  作者: 33
16/44

14.詐欺師

「アリスどうしたの?」


現在私は、同居茸?のアリスにそっぽをむかれている。明らかに拗ねているのだが放置し過ぎてしまったからだろうか。色々しなければならなかったのだ。武器を手に入れたり魔法を覚えたり、初めてのモンスターとの戦闘、他のギルドのお偉いさんに会ったり等々。その合間にアリスと遊んでいたが不服だったらしい。


「今日は1日休みにして私と遊ぼうか。天気も良いし外で買い物もいいね」


私がそう言うとアリスがピクリと動き傘を前後に振った。これは、人間でいう頷いている行為と一緒だと知っている。茸だといえどずっと室内は面白くなかったらしい。




アリスは、小さいので町中では私が持って歩くことにした。そうじゃないと絶対踏まれる。肩車も考えたが足が短く持ちにくい上に目がどこにあるのかという問題が浮上したのでやめた。


「これは目立つなぁ」


こんな大きなキノコを持ち歩く人などそうそういない。さらに言えば動くキノコを持っている人など私くらいだろう。


「あら、レグじゃない」


「ローザさん」


珍しく男性を伴ったローザさんがいた。


「ローザ、彼は誰なんだい」


「ジェニファー紹介するわ。彼が私と同じギルドのレグ。この前あなたの研究の助けになるかもって言ったのも彼よ。レグ、この人が婚約者のジェニファー・イクトスよ」


「はじめまして、イクトスさん」


私が手を出すとイクトスが握り返してきた。イクトスの手を見ると爪が綺麗に手入れされている。


「こちらこそはじめまして。キームンギルドにいるなんて君は優秀なんだね」


「いえ、まだまだですよ。ここで会ったのも何かの縁。どこかの店で話しませんか」


丁度昼時でそろそろ食べ物系統の店が混んでくる時間だ。立ち話するならその中の一つに入った方が邪魔にならないだろう。


「そうしたいのはやまやまなんだが彼女と久々のデートでね。レストランにもう予約をとっていてね。君は、どこに行くつもりだい」


「東通り近辺の店に行ってみようと思ったんです。あそこの辺りはまだ行ったことがないので面白そうだと思いまして」


「そうか。楽しい休日になるといいね」


「じゃあね。レグ」


私が軽く手を振るとローザさんたちは、人混みに紛れていった。さてと、東通りに立ち食いで何か食べに行くか。


東通りに行くと懐かしくも珍しいものが売っていた。


「おぉ!トルティーヤ」


パンケーキとは異なる厚みと色が薄い生地。その生地に包まれるのは、青々とした葉もの野菜と自己主張するように飛び出た唐揚げ。これ結構好きなんだよね。特に好きなのはコンビニに売ってるやつだけどこれもこれで美味しい。


「変わったもん持ってる兄ちゃんだな!」


「アリスっていうんですよ。よく気がつくいい子です」


最初は、違和感たっぷりだったけどこれはこれで可愛いのだ。表情が完全になく思っていることが態度にでるのも面白い。


「キノコにいい子なんていうたぁ。とことんかわってんなぁ。そんな変わりもんもキームンにいそうだな」


「私はキームンのギルド員ですが」


「えっ……まじか?」


おじさんから油汗がたらたら出てますけどうちのギルド員何かしたんですかね?


「知り合いにXっているか…?鍛治師の」


「はい、いますよ。私の武器を造ってくれたのはXさんです」


「これのお代はいらねぇからXのやつに俺がここにいるの黙っといてくれ!!」


「えぇ、いいですよ」


そういうとトルティーヤをこれでもかと渡される。Xさんこの人に何をしたんですかねぇ?とりあえずこのトルティーヤは、全部いただいて食べてしまおう。昼食代が浮いていいわww。ひとまずトルティーヤは空間魔法で全部入れてしまおう。


「アリス、これ入れたいからいったん下に下ろしてもいいかい」


アリスは、うなずくと私の腕からピョンっと降りる。私は、邪魔にならないように周りを確認してから一つ以外すべて入れた。


「さて、アリス行こうか……!?」


アリスがいたはずの場所には地面以外何もない。それで自分がしくじったことに気がついた。犯人の見当がついているがどこにいるかわからない。


「どうしよう…」


こうなるならGPSに似たものをギルドの連中に頼んでつくってもらっていればよかった!!


だが後悔しているうちにどこからかたくさんの悲鳴が聞こえた。悲鳴の方角を見ると虹色の粉のようなものがある一角から立ち上っている。私が知っている虹色の粉をだすのは、アルキダケしか知らない。


「アリス!」


私は、悲鳴と粉が充満している一角に走り出した。




たどり着いた場所は、完全に地獄絵図になっている。麻痺、混乱、幻覚、毒、催涙等々ありとあらゆる異常状態に人々がかかっていた。私は、空間魔法で中に入れていた布を取り出して口と鼻を被った。唯一さらけ出している目が痛い。


「アーリースー!」


呼んでも来ないならもしかしたらまだ連れ去った奴が連れているのかもしれない。などと思っていたが一人異様な格好をした奴がいた。普通は、粉が軽くついている程度なのにソイツだけびっしりと粉がくっついている。しかも混乱しているのか千鳥足でフラフラとしていた。確証はないが私の勘がこいつがアリスを連れていった犯人だという。だから私は男にラリアットをしてから顔についた粉を布で拭き取った。気絶しているようなのでトリカブト印の気付け薬を顔にぶちまけた。


「%!?●◎)┗"&っ!!!」


「起きたな!お前がアリス…いや大きなアルキダケを連れていったやつだろう。どこに連れていった!」


私がそういうと男は、首を縦に振った。


「南…街、夜告げ鳥の…倉庫」


それだけをいうと男は、泡を噴いて気絶した。


「すみませーん、そこの柱にいるひと手伝ってもらえませんかぁ~」


そういうと柱から二人の人影が現れる。そのうち一人には、見覚えがあった。


「チアキさん?」


「あなたは、この間キームンにいた…」


「レグです。そちらは、秘密の仕事中…ってところでしょうか」


なんせあの軍服ではなく私服のようですからねぇ。それなのにこそこそしているなんて秘密にしてなくちゃいけないことをしてたんでしょう。


「そういうところです。わかっていただけたならギルドに戻ってください。誘拐された方は、我々が連れ戻します」


「私がギルドに戻るというのは却下です。信用できない相手に任せるなら自分で動きます。それがあなたたちにとって都合の悪いことなら、私も一緒に連れていってください。これは脅しではなく提案です」


「ギルド員とはいえ一般人にどうこう出来ることではない。帰りたまえ」


チアキと一緒にいた男が上から目線で言ってくる。一般人だからという理由だけで帰れというなら帰らない。私にだって出来ることがある!


「先輩、このひとはたぶん何があってもアリスを探しだす。チョロチョロされるより一緒に行動させたほうがいい」


「それは我がギルドの規律に反する!」


「先輩、彼は勝手について来たんです。一般人に手を上げてまで止めることなど我々にはできませんから最後までついて来ても仕方ない。ですよね?」


その言葉に目を見開き男が頷いた。どうやらその理由でついてきていいらしい。


「OKをもらったところで、ここをなんとかしましょうか。春風(シュン・フェング)


私がそう唱えると風がザッと吹いて粉を空高く吹き飛ばした。強い風っていうとやっぱり春一番でしょう!広範囲かつ遠距離だからごっそり魔力持っていかれちゃったけどね。


「さぁ、行くぞ」


男は先を急がせるがチアキさんが、驚いたように私を見ているのが気になる。だけど私が見つめ返しているのに気がつくと視線を反らして行ってしまった。置いていかれるとマズイので私は、二人に着いていった。




到着した倉庫は、その周辺にある倉庫と何らかわりなくたたずんでいる。ここにアリスがいるのだろうか。


「くれぐれも早く突入しようなんて思うな。あと30分くらいで応援が到着する」


「そんな無茶しませんよ。それにしてもあの野郎見つけたらただじゃおかない」


「誰を追っていたか知っていたのか君は」


「ジェニファー・イクトスでしょう。街であったがなんか異様にアリスに視線を合わせなかったからおかしいと思ったんだ。それに握手した時、薬品を使った研究をしていると聞いたのに手が綺麗すぎた」


あっちの世界の私の手は、大量のレポートを書くためにペンダコと切り傷火傷をしているのが多かった。切り傷は、すぐに治るが火傷はなかなか治らない。


「技術者の意見か」


「まぁ、そういうこと」


「!あの女性は誰だ」


倉庫の扉にローザさんがいた。恋人のジェニファーの行動がおかしいと追ってきたというのか。


「ジェニファーの現恋人になっているうちのギルドの女性ですよ。なんでこんなところに…」


「それよりも倉庫に入って行きそうなんだが…。あっ!」


倉庫の扉を小さく開けるとローザさんは、中を恐る恐る確認するように見ると中に入りこみ姿が見えなくなってしまった。


「タイミング悪すぎでしょうローザさん!」


「えっ、待て!?」


ダージリンの奴が私の服を掴もうとするが一歩およばない。私はレンジャー、誰よりも早く動いてモンスターを倒すのだ。姿勢を低くして跳ぶように地面を駆ける。そしてローザさんが開けた扉の隙間へ吸い込まれるように体をくねらせ突入した。


入った倉庫には、様々なものが積み上げられていた。特に多いのは、たぶん檻であろう。モンスターらしきものが死んだように大人しく入っている。そしてその檻の中の一つにとても目立つ赤地に白水玉のものが見えた。そしてその近くには、ローザさんに詰め寄られているジェニファーがいる。


「これは、どういうことなのジェニファー!ここにいるモンスターは、ギルドランクBでなければ狩れないものばかりよ!」


「違うんだ。その…」


「何が違うというんですか」


二人は、私の存在に気がついていなかったのだろう。驚いたといった顔を向けてくる。


「私の大事なアリスをよくも誘拐しましたね」


「アリス……?そんな名前のやつ誘拐なんて………まさかあのキノコ!?」


詐欺師は、変なものを見たという目をする。キノコにアリスと名付けて何が悪い。大変可愛らしい名前だろうが。それに"あのキノコと"言った時点でこいつが黒幕だったとゲロっている。


「並びに連続誘拐犯としてお前に逮捕状が出されている。ダージリンのメンバーに連絡してある。あと15分もすればここに応援がくる。大人しく縄につけ!」


後からチアキが来て鞄から銀色の紋章らしきものを見せた。たぶんあれは、ダージリンの紋章が彫られているのだろう。


「15分?そんだけありゃあ余裕で逃げられる。お前らを痛めつけて女は、娼館に売ってやらぁ!」


男がそう言って私たちに襲いかかろうとする。だが私たちが何もしていないのに倒されることになる。


「この女の敵!」


ローザさんは、怒りに燃えた瞳でジェニファーを見る。詐欺師が驚きで一時停止したため、お見事としか言えない美しい蹴りが詐欺師の顔面に入った。見事に男は、後ろに吹き飛び気絶する。ローザさんは、とても静かに立っていた。


「あの…ローザさん?」


恐る恐る声をかけるとローザさんは、私に抱きつくと目に涙をこれでもかと溜めて大泣きを始める。どうしようかと迷ったが肩が濡れてきたので諦めてそのままの体勢であやすように頭を撫でた。


「どうじでよ!どうじでよ!うぅ~…」


散々泣いて落ち着いたのかローザさんの涙が落ち着いてきた。そろそろいいだろうと離してもらう。よく見るとアリスは、チアキに檻から出してもらったようだ。チアキからアリスを受けとる。


「ありがとうチアキさん」


「いえ、礼を言われるほどではない。君は、この子のために頑張っただろう」


「まぁね、この子は家族みたいなものだから。よく頑張ったね」


アリスは、私の言葉が嬉しかったのか捕まって寂しかったのか甘えるように私に傘を擦り付ける。


「さてとこの男ちょっと私に貸してくれないかな」


「殺しては駄目だぞ。余罪の可能性があるから命の危険が伴う行為は…」


「そこまで野蛮じゃないよ。ただちょっとした仕返しをしたくてね。それにただ縛るだけさ」




その後、ダージリンに引き取られた男は奇妙な縛り方で床に転がされていた。その縛り方を見たあるギルドメンバーは、亀の甲羅のようだったとのちに語る。実際私がしたのは、いわゆる亀甲縛りというやつなのでギルドメンバーは大変鋭い。それにしても私が縛っている間、ずっとチアキたちが呟いていたようだったがなんなのだろうか?


その後軽い事情聴取の後に解放されたため再度アリスと遊びに行ったのは言うまでもない。


ところで私が知るこの件最大の被害者のローザさんは、新しい相手を見つけると意気込んでいるとか。懲りない人だなと溜め息をついていた。

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