13.ダージリン
「よし!採取完了」
最初がゴタゴタしただけで一度チームワークを確認するとちゃんと動けた。それは、経験者であり実力者でもあるみんなのお陰であろう。バランスは、比較的良いチームだったわけだし。
「あー、早くギルドに戻ってスーちゃんを観賞したい」
「でたロリコン」
「触らなきゃ見ていいだろ」
「Yes ロリータ、No タッチか!」
ここにもその考えあるのね!紳士という名の変態が目の前にいるけどさ。
「ソレはなんでおじゃるか」
「なんでもないよ」
意味を知らないほうが幸せな言葉ってあるよね。そもそもトリカブトは、女の子より実験する方が好きそう。
「お風呂入りたいから急ぎましょう」
「賛成」
女性陣は、汗をかいて気持ち悪いらしく機嫌が悪い。対してエリックがスライムの核が詰まった袋に頬擦りをしている。採取完了したので用のないブルー山を後にして城下に戻る。
「ん?ねぇ、トリカブトあの銀の冑に青い飾りつけた集団は何」
「はぁ、馬鹿か?ありゃダージリンの警備隊だろ。銀の冑に秤と剣の紋章つけてるしな」
「知らないったら知らないんだよ。それにホモに聞いてない」
「だから俺は…!」
ダージリンの一人がこちらに気がついたのは、青筋を浮かべたスーラブが私に詰めよってきたときだった。一瞬目が合って嫌な目をされるとスーラブを見てニヤニヤする。
「んっ、突撃しか出来ない奴が堂々と大通りを歩いているな」
「本当だ。ならここにいるのは、あの変態ギルドの面々か?せっかく美人が二人もいるのにもったいない」
「お嬢さんたち、そこのチンピラと爺それと目つきの悪い男がいるギルドより私達がいるギルドに入りませんか」
チンピラは、スーラブだろう。目つきの悪い男とは、私のことか?
「目つきの悪い男って私のこと?」
「他にいねぇだろ…ってなんでお前嬉しそうなんだよ!」
だって生まれてこのかた22年。街を歩けばご老人に道を聞かれ。バスで順番待ちすれば私もよくわからないのに"寺にこのバスは行くか"と聞かれ。店に入れば店員でもないのに商品説明して欲しいと言われてきたほど、人の良さそうな私の顔が目つきが悪いって言われた!顔立ち変わった恩恵ですかね。悪口だとわかってるけど嬉しい。だからかな冑集団が気味わるがってるよ。
「初めて言われた」
「おっ、おうよかったな?」
スーラブの表情も似たようなものだった。わからないだろう人が良さそうな顔した人の苦労が。
「悪ぶりたいお年頃なのかしらね」
「あたしの弟もそういう時期があった」
女性人が二人して頷いて聞いている。険悪な雰囲気がただよっていたはずなのに霧散していた。立つ瀬がないのは、冑集団のほうで悪口を言ったはずなのになぜ喜んでいるのだと驚いているようだ。
「カルバロス家とヴァルカン家、ヒューイスト家は怖いもの知らずでおじゃるな。他人の揚げ足よりも、今後の貴殿らの身の振り方を考えた方が良いと思うのでおじゃるがどうであろう?」
さっきから黙っていたトリカブトが、何処からか扇子を取り出し口元を隠して言った。三人から短い悲鳴が聞こえる。トリカブトは、私の前にいるのでどんな顔をしているかわからない。ただ内容的に脅してますよね?
「ニルギリ殿は、貴族は国と国民を守ることを血に誓った一族のことをいうと言う人物でおじゃる。だからこそダージリンに入る条件が緑色の魔力量かつ貴族であることが第一条件なのでおじゃる。それなのに国民の一人であるキームンのギルド員を馬鹿にするような言い方をしたのでおじゃるか」
私達を馬鹿にした奴の顔が真っ青になる。ニルギリって人そんなに怖いのかな。
「今回は見逃すが次はないでおじゃるよ?ダージリンを抜けたものの末路知らないわけではないでおじゃろう。そこのものら、こやつらを連れ帰るとよい」
周りにいた冑達は、ため息を吐くと動けなくなったらしい男達を引きずり歩いていった。トリカブト…あんた何モンですか?
「ずいぶんけちょんけちょんにしたんじゃねえか。スカッとしていいけどよ」
「貴族たるものの心構えを言っただけでおじゃる」
「さすがトリカブトね。あたしは、研究出来ればそれでいいと思ってるし」
「おらは難しくてよっぐわかんねだ」
私は疲れたから風呂入って寝たいわ。でも久々に泡ぶろ入りたい。
だがこれはここで終わりではなかった。後日、ダージリンからの使者だという少女がやってきたのだ。
「たのもう!」
幼いが潔い声がギルド内に響く。ギルドにたむろっていた連中のほとんどがその声の人物の方へ向けられた。そこにいたのは、金髪をツインテールにした碧眼の中学生くらいの美少女だった。しかしなぜ軍服?いや、顔が非常にいいからとても似合っているけど。
「お…私はギルドダージリンから来たチアキと申します!ギルドマスターニルギリ様より貴殿達のギルドマスター、ウーナン殿への書状を持っています。お取り次ぎを願いたい」
めんどくさそうな言い回しを噛まずに言いきる。ただ緊張はしているらしく目線が定まっていない。決して空中に豚の置物が飛んでいたり、へそで茶を沸かせていたり、猿が烏帽子をかぶり詩を書いているからではないと思う。あと歩くキノコのせいでもないかなぁ?
「案内人の…スーチョンなの」
スーがチアキの前に出て挨拶をする。その瞬間一部からとてつもない熱気がでた。あれはスーファンクラブの会員たちだろうな。確かに小動物みたいな動きは、可愛いけどあんたたちの熱気は恐すぎる。
「案内するの…来て?」
「おっ、おう」
遠目で見ても美少女なのに返事が男みたいだ。私も人のこと言えないけどね。とりあえずスーとチアキが奥に入って行く。それからしばらくするとスーだけが戻ってきた。
「レグ、…トリカブト、エリック、クリス、ローザあと…スーラブ?」
呼ばれた人物が次々顔を上げスーのところに歩いていく。一番最後に呼ばれたはずのアホが幻覚の尻尾を振り嬉々としていた。
「スーちゃんもう一回俺呼んでくれないかな」
「スーラブ」
「やっぱりもう一回だけ!」
「スーラブ」
「俺、生きてて良かったーーーーー!イッてぇなにすんだレグ!」
私は、予想以上に堅かったスーラブの頭を殴った手を労りつつ睨んだ。
「客人がギルド内にいるのに醜態をさらすな。あほう」
「殴るこたねぇだろ」
「ほらほら二人ともそれくらいにしてマスターのところにいきましょう」
ローザさんに言われ渋々引き下がる。確かにギルマスを待たせるのはまずいだろう。
「それじゃ…行くの」
掃除以外で初めて客室に入った。窓はないがほどほどに広く豪華そう?な家具が置かれている。花瓶には、菫のような花が飾られていてこのギルドにしては異質な部屋だった。そんな部屋には、合計10人+1匹?本?が集まっている。呼ばれたときアリスをどうすればいいかとスーに言うと抱っこしてしまった。連れていくということと理解して何も言わない。
「先日、ダージリンのギルド員に絡まれたそうですね」
主語がないがここに集まっている人物たちは当人なので確認しなくともわかる。ギルマスは、無言が返事がわりとでも言うように話を続けた。
「あちらのギルドマスターが謝罪とお詫びをしたいので食事に招くそうです。招待状は後で渡します」
ギルマスの言った内容の意味は、わかったが同時に疑問が残った。それだけの内容ならばなぜ彼女が残っているのか。出席お願いします程度ならもう彼女の役目は、終わっているはずだ。
「出席するかしないかをここで言ってください。食事会は、本日の夕のようなので急いでいるのでしょう」
「あと5時間じゃないですか…」
行ってみたいけど食事会などと言うのなら正式な場なのだろう。ならば正装が必要だろうがそんなもの私は持っていない。
「あっ、忘れてた!」
礼儀正しく椅子に座っていたチアキが叫ぶと空間に手を突っ込む。すると空間から箱が6個出てきた。箱には、それぞれリボンをつけられていて赤が2つ青が4つある。
「衣装はこちらで準備させていただきました。赤が女性、青が男性です。この衣装は、参加なさらなくとも返品なさらなくて結構です」
どうやらダージリンのギルマスは、私たちに相当行って欲しいらしい。
「すんませんがおらは仕込みと夕飯を作んねといげねからいがね」
「???」
「エリックは忙しいので断るそうです」
私にとって日常会話でもエリックの話し方は、特殊なものの部類に入るだろう。いわゆるズーズー弁だし。
「あたしは、特に急いでる研究はないから行きたいな」
「ならまろも行くでおじゃる。エスコート役は、必要でおじゃろう?」
「じゃあお願い」
確かにドレスコードが必要なら相手は、必要不可欠か。私の知り合いの女性は、あと2人しか知らないし。待てよ?招待されてない人物を伴って行くのはマナー違反か?
「今日は彼、仕事で忙しいって言ってた日だわ」
「ならば僭越ながら私がエスコートいたしましょう」
かなり恥ずかしい文句を言ったが気にしない。だってこれくらいの言い方した方が一緒に行きたくなるってもんでしょう。私も含めだいたいの女性は、嫌と言いつつお姫様扱いは好きなのだから。でもローザさんは、どちらかというと女王様?
「お願いするわ。レグ」
女王様だ。女王様がいる。色気ただ漏れです。おまけに気品まであります。
「それじゃスーちゃん俺と一緒に…「この子…お留守番」
スーにアリスとお留守番と言われてバカが膝をついた。そもそも承諾しても私が全力で止める。バカがエスコートのつもりでも幼女を連れ去るチンピラにしか見えない。
「そういうことなのでこの4名が行くそうです」
「了解しました。お越しをお待ちしております」
そのギルドは、城に最も近い区画にあたるところに堂々と構えられていた。外観は、イギリスにありそうないわゆるゴシック様式に近いものだ。記憶にあやふやなところがあるので絶対とは言えないが。
そんな場所にエスコートしながら入ることになるとは思いもよらなかった。元々される側だし(されたことなどないが)。
「せっかくカッコイイ格好してるんだから気を抜いてボケッとしないの」
「あはは…すみませんローザさん」
現在の私の格好は、アスコットな楽礼服になっている。髪型は、私の好みでオールバックにしていた。同じ男のトリカブトは、某執事漫画のまんまの格好である。この服には、魔術が組み込まれているらしくサイズはぴったりになり驚いたことは記憶に新しい。
「確かに綺麗にドレスアップしたのにエスコート役がボケッとしては駄目ですね。反省しときます」
ローザさんは朝焼けを連想させる色合いのドレスで、黒から青そしてオレンジになるグラデーションが綺麗で褐色の肌に映える。デザイン自体は、胸元が大胆にでる色っぽいもの。ただしそのままでは寒いのでストールを巻き付けている。
「レグは、最近来たからこのギルドについて知らないから仕方ないでしょ。城下で生まれたら必ず一度は、入ったことがあるはずだからね」
そう言ったのは、サリーを纏ったクリスさん。紺色の布には様々な刺繍やビーズらしきものが縫い付けられなかなか豪華な仕上がりだ。身長が高くて線が細いのでとても似合う。
それにしても文化が混ざりすぎではなかろうか?コスプレみたいで面白いけどさ。
なんて思っていたのにさらなるコスプレ衣装が登場した。
「ギルドマスター、キームンギルドの御一行をお連れしました」
「チアキご苦労」
そう言ったギルドマスターは、なんとも渋くかっこいい叔父様?お爺様?だった。私の父親と同じくらいだろう。アッシュの髪には、白髪が混じり年齢を表している。だがこちらに向けられる視線と目付きが鋭く口元の笑みがなければ後ろを向いて逃げたくなるほどである。たぶんこの人は、ギルドマスターにふさわしい武人なのだろう。
そんな人物が軍服を着ていらっしゃる!枯れ専と制服マニア垂涎ものですよ!
「私の顔になにか?」
「いいえ」
まさか内心盛大にハッスルしてたなんていえません。だって今の私男だもの!
「皆様こちらへどうぞ」
席を指定され男性陣は、椅子を引き女性陣を座らせると自分たちも座った。
「まず最初に私のギルドの若い連中が言いがかりをつけて大変申し訳なかった」
そういうと椅子から立ち上がり私達に向かって頭を下げた。突然のお偉いさんの謝罪に私は驚く。
「頭を上げてください!」
ニルギリは、頭を上げるがやはり申し訳無さそうだった。
「我がギルドは、国民を守るという女王陛下の意思を酌んだ私が作ったもの。それなのに国民を見下すような発言をするのは言語道断!」
「対して気にしていないので大丈夫です。みんなは?」
日本人だから周りの意見も聞かないと不安なんです。右だと言われたら間違いでも右の文化ですからね。
「あたしは馬鹿にされたわけじゃないから気にしていないわ」
「私もね」
「まろは、その場で言いたいことは言ったでおじゃる。なので今は、特になんとも思っていないでおじゃる」
「……そうか。とりあえず今回の件を引き起こした連中は、罰としてブルー山へ薬草を採りに行かせている。街の安全を本当に守っているのは誰かがわかるだろう」
たしかダージリンの主な仕事って街の警備だったな。街の警備とは違う環境の恐怖を知るのだろう。それに何の薬草かわからないけど生えてる場所がヤバいのがある。下手をすれば死ぬから結構重い罰だ。
「許していただけたようで次は、食事会としましょう」
そういってニルギリがベルを鳴らすと給侍の人が入って来て料理が置かれた。珍しくも美味しい料理を食べつつも私の意識は、別の方向を向いていた。
「女王陛下は、大変麗しく可憐で聡明な方だと常日頃わかっていたのだが。ジェルト村の水害の時、ご自身のお心が傷ついている状態だったのに村の方を優先されたのは……」
「はっ、はぁ…」
食事が始まってからずっとニルギリはこんな調子で女王陛下の賛美を続けていた。お陰で女王陛下が現在25歳だとか、プラチナブロンドの超美人とかいういつ役立つんだ情報やスリーサイズなどといういらん情報まで記憶してしまった。正直飽きてきたし食事を味わいたいからやめてほしい。つーか、あれだこの人"女王陛下絶対主義"だ。
「お小さいときは…」
「あの、ニルギリ様そろそろ時間が…」
「なに、こちらに泊まればよい。ウーナン殿には、伝えておこう」
「いえ、そんなわけには…!」
なぁなぁ、ニルギリ様の持ってるカップの紫色の液体ってワインじゃね?もしかして酔って絡み酒になってる?まてまて、酔っているならあの滑舌の良さはなぜ?
「ちょっと、ニルギリ様!いきなりお客を泊めるってどういう。……っえ、誰よ!ニルギリ様に酒を飲ませたの!飲ませないでって私が言ってたでしょう!?」
「申し訳ございません、マリアンヌ様。客人が来ているので少し酒精が欲しいと……」
「客人がいるからこそ駄目なのでしょう!」
プラチナブロンドを三つ編みにした少女が顔を真っ赤にさせて怒っている。
「殿下、そんなに怒ってどうなされましたか」
「まったくまたお姉さまと間違えていますわね。私は、リゼお姉さまの妹の"マリアンヌ"ですわ。今夜は、もう寝てください。誰か、ニルギリ様を寝室にお運びして」
マリアンヌと自分を言った少女がそう言うと、扉から体格が非常によい男たちが入ってきてニルギリを抱えて出ていった。それを見届けるとマリアンヌは、こちらに向き直った。
「うちのギルドマスターの醜態を見せてしまいすみません。私このギルド、ダージリンの案内人をしています。マリアンヌ・アジーン・ウザ・ギボール=キュリオテスと申します。当ギルドに何か御用がある場合は、私の名前をだせば案内いたしますわ」
「あっ、はい。ご丁寧にどうも」
非常に長い名前ですね。マリアンヌしか覚えていられないよ。そもそも初対面だし私も名乗る必要あるよね?
「自己紹介遅れました。私、最近キームンに入りましたレグと申します。どうかお見知りおきを」
趣味で覚えた貴族風お辞儀でいいかな?なんて思ったけどなんかマリアンヌさん驚いてないですか。普通やらないだろうけどついついおもしろそうだとなにも考えずやっちゃうんだよね。
「聞くのはタブーなのだけどあなた庶子なの?」
「いえいえ、一般市民ですよ。ただ淑女の前では礼儀正しくいたいだけで」
そういうとマリアンヌさんは、うさん臭そうな顔を浮かべた。第一印象って大事だよね?それとも言い方の問題ですか。たしかに実際私がそんな人物にあったらその場で逃げるよ。
「マリアンヌ様、我々はギルドに戻らせていただきます」
「なんか悪いわね。馬車くらい出しましょう。ブラスター」
「かしこまりました。お客様をお送りしてまいります」
おぉ、ガチな執事だ。やっぱりお爺さんの執事は、経験を積んだ感じがするから安定していていいよね。
それからブラスターさんに馬車でギルドまで送ってもらいました。でももう馬車乗りたくない。車酔いならぬ馬車酔いをしました。それと気になることが一つあった。ギルドに着いて馬車から降りたあとブラスターが聞いてきた言葉だ。
"ギルドには慣れてきましたか"
酔いが酷かったせいで適当な返事しかできなかったが、なぜあのとき聞いてきたのだろうか。あのとき聞くならばギルド云々ではなく馬車酔いについて聞くのではと思う。気にはなったがそうそう会うような人物ではないことは確かなのでスルーすることにしたのだった。




