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グランレコード  作者: 33
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番外編 新年の鬼

正月前に出せた………。

吐く息が白くそれと同じくらい周りが真っ白になった時期の出来事である。


「っ、さむ」


「寒いなんて言ってる場合じゃねぇぞ!夜には奴等がこの町に来るんだからな!」


いつもはチンピラみたいな容姿と同じように気だるげな雰囲気のスーラブが、珍しくキビキビと動いていた。私の身長の半分ほどある酒樽を軽々と両肩に担いでいる。

違いはそれだけではなく城下全体が慌ただしい。杖をついてヨボヨボだったお爺さんがさかさかと颯爽に歩いている。

なにが原因なのか?そもそも奴らとは?


「奴らって誰さ?」


「奴らっていったら奴らだろうが!」


「私はお前の奥さんちゃうからわからんわ!えぇ加減誰が来るのか教えんしゃい!」


イライラを吐き出すようにそういうと周りにいた人がビクッと震えた。スーラブは、私の方を向かず樽を運びながらいう。


「どこの方言だよ!来るといったらあれだ。"新年の鬼"だよ」


「新年の鬼?」


鬼とは節分の主役で地獄にいるという存在の鬼だろうか。それともお隣の大国の鬼と同じで幽霊の一種なのも考えられる。悪役とひとくくりには出来ない。


「鬼ってあの鬼がくるのか」


「新年の鬼は、酒好きだから準備しないとやべぇんだよ」


スーラブが真っ青になっていう相当恐ろしい存在ということだろうか。それとも一度怒らせたことがあるとか……?


「それじゃあツマミとかいるんじゃないか」


「ツマミはここら中の料理人が総出で作ってる!俺達は、城の前の噴水広場に酒樽を集めなきゃヤバいんだよ」


「ツマミかぁ。ツマミ程度なら私でも作れるんだけど手伝った方がいいかな」


私がボソッとそう言ったらスーラブは、首がもげるのではないかというほどの勢いで振り向く。


「それだけはヤメロ」


「もしかして前の根に持ってる?大丈夫だよあそこまで焦がさないよ」


「本当だろうな?あれこの世のものとは思えない色と匂いだったぞ。しかも匂い嗅いだ瞬間涙でてきたしよ」


確かに食材を焦がすと刺激臭がするって初めて知ったよ。でも私が考えている料理はよほどのことがないかぎり焦げないだろう。


「頼むから料理をするんじゃねぇ。いいな!」


「えー、鍋ならいいでしょ。鍋は、具材入れて水と出汁入れるだけだし」


スーラブは、鍋と聞いて鍋なら確かに焼くという工程を挟まないから焦がすこともないだろうと思う。それならば問題ないとスーラブは、答えかけたが誰かと一緒に調理した方が良いとふと思った。念には念をである。


「鍋なら大丈夫だろうが誰かもう一人呼んで二人で作業しろ。一個二個じゃたりねぇから手がいるだろ」


「了解、確かにもう一人いたら助かるね。じゃあいってくるよ!」


素直に言うことを実行しようとするレグにホッとした。新年の鬼に怒られるような真似起きないだろう。


しかしその願いは、思いでしかなく運命が変わらないことをスーラブは気がついていない。






夜がふけてしばらく経った。ベッドフォード城下は、あいもかわらず騒がしいままである。

それは唐突に起こった。地響きとともにたくさんの何かがくる。そのたくさんの何かは、手に持った鉈を振りベッドフォード城下付近のモンスターを倒しながら近づいて来た。


「どうみても"なまはげ"じゃん……」


厳つい牙の生えた顔に角が生えた頭とミノをつけた格好は、秋田の冬の風物詩のなまはげである。新年の鬼というのでもっと恐ろしいものを想像していたがいいほうに裏切られた。

記憶の中のなまはげは、大晦日に来て邪を祓うものである。だから丁重にもてなす必要があるといえよう。実際目の前でモンスター達を、まるで蝿のように一太刀で戦闘不能にさせている。モンスターの恐怖を知っている人間ならどれほどありがたい存在かわかるというものだ。


ひときわ大きな赤い顔のなまはげが大きな口を大きく開けて城下中に響くようにいい放つ。


「小さき友よ!今年もこの地に我らが来た。我らを受け入れ酒と料理を受けとる代わりに短い間の平穏を約束する!!」


その声に歓声をあげるもの、驚き気絶するもの、周りを見渡すものなどさまざまだ。


そしてなまはげ達は、用意された酒や料理を食べはじめたのだった。私も用意したたくさんの鍋に魔法でだした火で温めた。


「お待ちどうさまです!寒さを吹き飛ばして酒にも合う鍋です」


ナマハゲ?の前で鍋を開けると鍋から湯気が出て一瞬手元が白くなる。


「おぉ、我らが故郷の鍋にそっくりだぁ」


たまたまであるがキリタンポ鍋を作っていた。母がたまに珍しいものが食べたいと本と向き合い作っていたので知っていた。それを思いだして作ってみたくなったので作ったのだ。


「おぉ、ちゃんとした料理になってるじゃねぇか」


「まろと共に作った故に問題があるはずがないでおじゃる」


鍋を作る手伝いは、トリカブトにしてもらった。忙しいと断られると思ったが"友人を助けるのは当たり前でおじゃる"と快く言ってくれた。


「問題は、味だな」


スーラブは、お玉でお椀にひょいひょいわけると恐る恐る食べ始める。


「……!普通に上手い」


「言い方的に喜べないんだけど」


ただ先にスーラブが食べたためみんな気軽に分けて食べている。その様子を見て私は、ホッとした。


「このツミレがウマイべ。どこの鳥使ってるんだぁ?」


「すみません、料理をしたのは私ですが鶏肉の調達は彼なんです」


どこになにが売っているか把握してないので顔の広いトリカブトに任せたのだ。


「そうかそうか!でどこのだ?」


「なまはげ殿そのツミレは、鶏肉を使ってないでおじゃる」


トリカブトの言葉に私は、へっ?と疑問がよぎって固まる。だが次の言葉がさらに衝撃的だった。


「鶏肉と頼まれていたのでおじゃるが焼き鳥に使ってしもうた店が多くての。頼まれた量を用意できなかったので似た肉でポイズンフロッグの肉でツミレ?を作ったでおじゃる」


トリカブトの言った言葉に気絶する者や泡を吹く者、赤い顔が真っ青になった者までいた。私は、そんな様子のなまはげと視線が合わないように視線が横を向いている。なんてもん混入したんだトリカブト!


「ポイズンフロッグの毒は肺の近くにある袋だけでおじゃるから肉には問題ないでおじゃる」


「そういう問題じゃないからトリカブト……」


「そうでおじゃるか?」


惚けた表情がなんとなく可愛い。だけどねなまはげの皆さん目がつり上がってるんだ。


「悪い子いねがぁ?」


「いません!」

「いねぇ!」


「悪い子は仕置きだ!捕まえろ!」


「「嫌~!」」






結局初日の出が出るまで追いかけられた。新年早々疲れる……。


そういえばスーラブは、捕まってずっとモンスター退治をしていたらしい。精根尽き果てた顔だった。

皆さんよいお年を!

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