その58
槇原さんの、仕方ないな・・俺たちで何とかしてやるよ・・・と言う声を聞きながら、僕は、ほっておいては駄目なんだろうか?と不思議に思う。
「・・・だから、角ちゃんを甘く見たら駄目だって・・・。あいつは、学生の時から策略家で有名だったから、お前放置したら外堀埋められてアウトだぞ?」
・・・・そんなものなんだろうか?・・・・・
まあ、何とかしてくれるのなら任せておこう。
それからも、角野先生から何度かお誘いはあったが、僕は仕事が忙しい事を理由にお断りして・・・・と言うより、槇原さんは公に僕を雑用係に任命してから遠慮なく僕をこき使うため・・・・本当に僕は忙しかった。
槇原さんから言いつけられたデーターを整理してるときに槇原さんが来て僕に言った。
「・・中野、今度の6月祭に美香ちゃん連れてこれるか?」
・・・・?何を聞くのか?何で美香?・・・・
僕の疑問に、槇原さんは答えてくれず。もう一度美香はこれるのかと聞く。
「・・・呼べば来ると思いますけれど?でも、美香がナンパされるのも嫌だし呼びたくないんですが・・・」
「お前がずっとついてれば良いだろう?学生じゃないから、用事もないだろうし・・・」
6月祭・・近隣の住人にこの病院に親しんでもらう事を目的とした春の祭り。学生の時は執行委員などで忙しく美香を構えないから呼んでなかったが、美香も前から一度来たいとはいっていた。
「わかりました、呼びます。」
じゃあ必ずな、と笑顔で言って、そして”今日は、用があるからコールはしないでくれ、後は頼む”と”僕に!!”言う。
・・・・槇原さん、お忘れなき様お願いしたいのですが、僕はまだ2年目の前期研修医で、一人では患者は見れません。後を頼まれても困ります。僕は当直医のおまけでしかございません。・・・
僕の心の叫びなんか聞いちゃいない彼は、笑顔で帰っていった。
現時刻は19時・・・2時間前から当直時間には入っている。
さて、今日の当直は誰なんだろうとパソコンの担当表を確認した・・・・・、
「お前から飲みに誘ってくれるなんて、何年ぶりだ?」
槇原と、角野は先日優を角野が呼び出した店にいた。
「研修医時代はよく飲んでたのにな?」
笑いながら返す槇原に角野が続けた。
「・・・教授就任おめでとう。婚約おめでとう。でもお前もひどいな・・僕を式に呼んでくれないどころか、その日の当直を引き受けろだなんて・・・」
槇原は笑った、
「すまん、この立場についてからの結婚だ、招待客を考えたら、どう考えても病院に人がいなくなる。迂闊なやつには任せられないだろう?・・・」
といった。
それに対して角野返した。
「光栄だな、お前の代わりと、手薄になった病院のフォローに選ばれるなんて・・。」と、
槇原が、角野の皮肉に笑いながら、
「中野も置いて行くからこき使ってくれ。」と言った。
それを聞いて角野が続ける。
「・・・人嫌いのお前が・・たかだか、2年目の研修医にそんなに入れ込むなんてな・・?」
槇原が笑う
「・・そうか・・?まあ人付き合いは確かに好きなほうではないな、自分でもよく結婚相手が見つかったと思うぐらいだから・・。」
角野が笑うそして、槇原の目を直視していった。
「・・・その中野を・・・外科にもまわす気はないか?」
槇原は笑いながらかわした。
「・・・・あいつは何かと役に立つ、したくもない教授を引き受けて雑用係が必要だ。お前には悪いと思うが渡せないな・・。」
角野は、溜息をついて続けた。
「・・・まあ、それは仕方がないと”今は、”諦めよう。だが、僕の娘と娶わせるように協力はしてもらうぞ?」
槇原は黙って答えない。角野は続けた。
「お前も自分の婚約者にちょっかい出すやつが減るから良いんじゃないのか?」
槇原は角野の顔を見て言いにくそうに切り出した。
「・・・実はな、あいつが柳に手を出す心配はないんだ・・・。」
角野が怪訝な顔をする。
「ここだけの話にしてくれるか?」
槇原は声を潜めた。
「あいつは、成人女性には興味をもてないみたいなんだ・・。」
槇原は、角野の顔を見ながら続けた。
「あいつは、小さな子供にしか興味がないんだ・・・。」
角野は持っていた杯を落とした。
「・・・冗談だろう・・・・」
唖然とした角野に、槇原は続けた。
「・・・俺も最初は思ったよ・・?」
でもな・・・と続ける。
「実は、陽子は中野に惚れてたんだ・・。」
「俺たちが親しくなったきっかけは、俺が陽子の中野のそういう性癖に対しての相談を受けたことがきっかけなんだ・・。」
角野は息を飲んで話を聞いた。
「陽子が、中野と仲の良い俺に、あいつの性癖を何とかできないかと相談してきたのが陽子との始まりだなんだ。」
槇原はそんな角野の様子を伺いながら話を続ける。
”その時陽子に聞いたんだが・・・”と槇原は続けた。
「あいつの初恋は、高校2年の時に4歳児だったそうだ。」
「・・・・・・・・」
「高3で5歳の子に、公共の場で迫ってる。」
「・・・・・・・・・・」
「おまけに、学生時代は、あいつの携帯には小学生の画像がてんこもり・・・・」
「・・・・・・・・・」
「その一枚を、待ち受けにまでしてたらしい・・・」
「・・・・・・・・・・」
「あいつの同級生もこれは知ってる事実だ・・」
呆然とした表情で槇原の話を聞いた角野は槇原にかすれた声で感謝を告げた。
「・・・・・わかった、ありがとう。教えてくれて。」
ただな・・・・と槇原は続けた。
「俺にも守秘義務はある、この話はお前の心にとどめてくれるか?男としてはどうかと思うが、その、性癖がでない限り、医師としてはこれからが期待できる。」
角野は力なくうなずいた。
「・・・俺はな・・中野のこの性癖があるから、俺は中野が陽子に近づいてもほってるんだ。」
「娘の相手には止めといたほうが良いと言う事だな・・?」
「・・・・孫の顔が見たいなら・・止めとくのが賢明だな・・・」
角野はそれを聞いて、槇原の顔を見てその後頭を抱えた。
その姿を見て、残念だったな・・・と口では言いながら、槇原は角野に見えないように微笑んだ。
槇原さん・・?
本当に優のためだけですか・・・?
清水 澄 拝




