その55
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清水澄 拜
一時期噂になっていた槇原さんと、柳の事件も下火になり、変わりに僕は、槇原さんとの戦いに敗れて、振られたかわいそうなやつの位置づけに置かれていた。
あれだけ美香の部屋に入り浸っていたのに、美香との仲は誰にも疑われる事もなく・・・。
柳に言わすと、そりゃあ、誰も想像もしないわよ・・だって、中学一年生よ?といわれて・・・。
僕は少し、・・いやかなり、悔しかった。
真実はみんなの噂と全く違うのに・・・・
柳はそんな僕を見て呆れつつ、”そんなに危ないヤツといわれたいんだ?あなた、M・・?”などと言い。
そうやって喋る僕らを見てまた、”中野は、まだ諦められないのか?”・・と新たなあらぬ噂を流されて・・・。
槇原さんにまで、”陽子に手を出すなよ?”と釘を刺されて・・・。
おまけに、外科は忙しく、入院中にあって以来、美香にも逢えず。美香と約束した受診日は、緊急手術のために、槇原さんに診察を取られて・・僕は腐りきっていた。
明日で、外科が終わろうかという日、僕は角野先生に食事に誘われた。飲みながら話したいことがある・・。と
仕事を終えて、角野先生の指定した店に向かった。このあたりでは少し高めの僕ら研修医では敷居の高い店だった。
店について名前を言ったら個室に案内された。
角野先生は先に到着されていた。
僕を見て、笑顔で”コース適当に頼んだから、と言われた・・・。
・・・なんだろう、ちょっと飲みに、食事にと言うレベルでないぞ・・・。
怪訝な顔をする僕に、笑いながら”日本酒で良いか?”と勧めてくれる。
まだ仕事が残ってるので・・・と断ると、大事な話があるから、仕事は明日に回せないか?と言う。
・・まあ、急いですることでもなく。明日とあさっては、ローテート先の交替で比較的時間があるので少しだけなら・・・と杯を受け取った。
僕の到着を待っていたかのように次々運ばれてくる食事と、美味しいお酒に少し良い気分になっていた時に。角野先生は言った。
「君は救急を目指すのか?」
僕は、彼を見て”そのつもりです”と答える。
「・・・単科では、難しくはないか?」
角野先生の言葉に、僕は答えた。
「僻地医療が最終的にはしたいので、総合内科も視野には入れてます。」
「・・・専門は救急で?」
「そのつもりですが・・・・。」
僕は続けた。
「精神腫瘍科も興味はあったのですが、僻地医療にはあまり役に立たなくて・・・。」
角野先生は笑った、確かにターミナルのがん患者よりも、感冒が多いだろうな・・・。と
僕の、杯にお酒を注ぎつつ、角野先生は続けた。
「僻地に行かずに、僕の下で、外科を続けないか?」
僕は角野先生の申し出を謹んでお断りする。
「でも、僕が医者になった最初の理由ですから・・・。」
僕の言葉に、角野先生は自分のスマートフォンを出しながら言った。
「柳に振られたんだってな・・?」
何でそんな噂があなたまで・・・。
先生はスマートフォンを操作しながら続けた。
「まさか、槇原がおとすとはな。」
笑いながら、操作したスマートフォンのの画面を僕に向けた。
「可愛いだろう。」
僕が言われて、画面を見ると、着物姿の若い女の子がこちらを見て笑っている。
「お綺麗な方ですね。」僕が答えると、角野先生は相好を崩して続けた。
「料理もうまいし、気立ても良い、よく気がつくぞ。今年短大を卒業した。」
・・・それが何か?と心の中で思いつつ、笑顔で、”それでは引く手あまたで大変ですね”と答えてみた。
「・・そうだ、だから、僕のめがねにかなったヤツでないと渡したくない。」
・・・なんだか、雲行きが怪しい気がする・・・・
角野先生は僕を見て言った。
「どうだ中野、結婚を前提に付き合う気はないか、僕の娘と!!」
僕は、唖然とした。今なんておっしゃられましたか?
あっけに取られた、僕に畳み掛けるように続けた。
「お前になら任せられる。」
「お断りします。」
即答した僕の顔を唖然と見つめた、角野先生に向かい、敷いていた座布団をはずして土下座の体制を取る。
「過分な御申し出を、お断りする非礼をお許しください。」
あっけに取られる角野先生に、僕は続けた。
「僕にはもう、心に決めた人がいるので、このお申し出はお受けできません。」
角野先生は諦めきれないらしく言った。
「・・・でも柳は結婚が決まったって・・・」
「柳ではありません。」
僕はきっぱり否定する。
「誰なんだ・・柳以外に君と親しい人は見当たらないだろう?」
・・・ちっ!!ここでも美香は数に入ってない!!・・・・
僕は内心で舌打ちをしながら、きっぱりと言った。
「僕は、彼女意外欲しくはありません。」
僕のまっすぐな視線に角野先生はため息をついた。
・・・・そうか、残念だ・・・
僕は、この話はこれで終わったと思っていた。
でも、実は、トラブルの幕開けだった・・・。
おかしい、そろそろ美香とのらぶらぶが出てくると思ったのに・・
どこに行ってしまったんだろう・・・。
清水 澄 拝




